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いつまでも旅の途中  作者: カピパラ48世
1/8

00話 プロローグ

雨が降り続く

強い雨で視界が悪く、ぬかるんだ地面の上を、黒髪の子供がふらふらと歩を進めていた。

「・・・・・お父さん・・・・・・・お母さん・・・・・・」

雨で冷え切った体で、呟いた。

視界のままならない雨の中、行きかうもののないその中で、子供はただ茫然と泣きながら動きの重い足を動かす。

「・・・・どこへ行ったのぉ・・・・・?」

強い雨はその小さな子供にも容赦なく降っていた・・・・・・。


―――――!!―――――

彼女はそこで目が覚めた。

体を起こした彼女に雨音が耳に聞こえた。

長くウェーブのかかった黒髪、小柄な女性・・・スージーは

“・・・ああ・・・だからか・・・”

窓の外にはあの頃と同じく強い雨が降っていた。


朧げな夢を思い出しながら窓から雨を見つめると、

「あの頃を・・・まだ夢見るんだねぇ・・・」

しんみりと考えながら視線を移した

「・・・!!・・・」

反対を向いた目の前に、長い銀髪で顔立ちのよい男が目に入った。

思わずスージーは飛びのき、壁に背をつけた

「・・・あ・・・あら・・・シグマ・・・おはよう・・・どうしたの・・・?」

顔面を真っ赤にしてうろたえながらそういうのがやっとだった。

「ん~、スージーの寝顔を見てたの・・・かな・・・」

“かな”とはなんだ!“かな”とは!!

スージーは腑に落ちない言葉のその疑問をとりあえず飲み込み、「う~ん」とうなると、それを待っていたかのように、

「早くしないと、ランが朝飯を作ってしまうー」

淡々とシグマが言葉を発した。鳩が豆鉄砲を食ったような表情で一瞬の間をおいて・・・

「もうそんな時間かー!!」

スージーは飛び起きてそのまま部屋を出ていった。

「がんばれ」

シグマは小さく応援した。


「ちょっとラン!この鍋の中の野菜切ってないじゃないの!」

台所で火にかけてある中鍋の中を見てスージーの大声が出た。

「えー、だって・・・だって・・・」

ランと呼ばれたストレートで長い黒髪のスージーより頭一つほど背の高い女性がオロオロとした対応を見せたが、スージーはお構いなしに鍋を火の上から外し、確認した。幸いまだ、火にかけたばかりで、水のままだ。スージーは中の根野菜を取り出し、包丁で切り始めた。このままスープにしてしまおうと考えながら切っているのだが、野菜だけのこのスープに物足りなさを感じ、干し肉もほぐし始めた。まぁ、干し肉の塩味も出るからちょうどよくなるでしょう・・・などと考えて料理は進んだ。

「材料は・・・良かったでしょ・・・」

オロオロとランが聞いてきた。うん、材料は良かったが・・・この大きさのまま煮込んで一体、いつの完成になるのだろうか・・・。

「完成までの時間考えると、そのままの大きさはちょっと無理があるわねぇ・・・」と、苦笑いと共にそう答えた。

「あっ、じゃぁ無理だったのね。」

不可解な言葉を満面の笑みで返してきた。・・・どう返事しろというのだろう・・・?

「そうねぇ・・・」と返すのがやっとだった。


「おー、今日はスージーが作ってくれるのかい。」

スープが完成に近づいた頃、そう言いながら、短い銀髪で長身の男が入ってきた。

「あら、ファルス、私の所へシグマをよこしたのはあんたでしょ!」

間髪入れずに半開きの目でスージーが返した。

「いや・・・俺は、ランよりもスージーの料理の方がおいしいよねってあいつに言っただけだよ。」

ここからも満面の笑みが返ってきた。「あら・・・ありがと・・・」とスージーは苦笑いした。

「賑やかだなぁ・・・」

ヌッと、筋肉質の巨体が入ってきた。短い茶髪の男・・・

「なぁ、ロイもそう思うだろ。」

ファルスは大男にそう言った。

「ふむ、そうだな、ファルスの言うことはいつも正しい。」

話の内容を理解せずにそう相槌を打った。

「あんた、いつも大概ね・・・」

呆れてぼやいた。大男の後ろから、長いウェーブのかかった茶髪の中肉中背の男が来た

「ほら、冷めちゃうから、ロイもロッドも早く食べなよ・・・」

そう言って二人をテーブルに促した。

6人掛けのテーブルに5人が席に着き、スープを食べ始めた。

「・・・ん?・・・」

そう言えば・・・シグマがいない・・・

「えっ・・シグマは・・・?」

思わずつぶやいたところ、

「あー、さっき、スージーの部屋に、飯が危ないからって確認しに行ったら、代わりにシグマが寝てたから、安心してこっちに来たんだよね。」

と、ロッドがあっけらかんと言った。

「・・・えっ・・・」

スージーの動きが止まった。

「・・・あっ・・・えっ・・・私・・・の・・・ベッドで・・・?・・・」

うつむきながら顔を真っ赤にして・・・恥ずかしそうにそう言うと、

「ん~!もうっ!」

と言って小走りに自分の部屋へと向かっていった。4人はその姿を見て、

「まぁ、朝からラブラブなのは良いことだ。」

「・・・でも、お互い気付いてないからねぇ・・・」

「・・・えっ・・・スージー様・・・」

「・・・。」

各々そう呟いた。

雨の日の朝はゆっくりと過ぎていった。



「・・・うむ・・・これは立派に高熱だ・・・」

ベッドで辛そうな寝息を立てるスージーを見てファルスが呆れて呟いた。

「スージー様は、食料を・・・お買い物に行ってこうなっちゃったの・・・」

ランがおどおどしながら説明した

「スージーを雨の中行かせちゃダメでしょ・・・」

ファルスは小さく「めっ」とランに注意した。久しぶりの長雨なので忘れているのか・・・彼女は小さいころに雨に打たれ過ぎた影響で、肺炎気味で体が弱い。更に一つ処に落ち着かない性格なので、どこへでも行こうとするからたちが悪い。

「まったく、何でも一人でやろうとするからねぇ・・・困った病弱さんだよ・・・」

と呟くと、扉のそばにいるロッドの姿に気付いた

「なぁ・・・ファルス・・・」

「・・・ん・・・?」

ファルスの小さな相槌に

「飯・・・どうする・・・?」

ロッドが淡々と言葉を出した。

「・・・そりゃ、おおごとだねぇ・・・」

圧の強い笑顔でそう答えた。


子供の姿のスージーは、白い風景の中を走っていた。

彼女は不安に駆られた。一軒の家が見えた。その家の中央には扉が見える。彼女は迷わずその扉を開ける。

バン!と強い音と共に開かれた扉の先の風景に絶句する。

自分は家の中に入ったつもりだったが、そこには焼けただれた集落が眼前に広がっていた。

きな臭い異臭が鼻に突いた。いくつかの・・・人と思える黒い塊が無造作に転がっている。

目を覆うような光景に嗚咽を我慢しながら振り向き先ほど入ってきた扉を探した・・・が、そこには先ほどの扉と思しき焼け落ちた扉があった。

その先に広がるがれきの下に、見覚えのある服装をした、もう動かない二人が見えた

「・・・お父・・・さん・・・お母さん・・・」

まるで目の前が真っ暗になったような・・・その暗い風景の中に、二人の遺体がはっきりと浮かび上がる。

ヘタリと地面に立ち崩れた。

視界がグルグルと回っているかのように、平衡感覚の崩れる自身の体を支えきれずに地面に両の手を突いた。

地面にポタリと雫が落ちるのが見えた・・・ああ・・・自分は泣いているのだ・・・・と気づいた。

スージーはその姿勢のまま固まったかのように動かない。

強い雨は降り続いていた・・・


ハッと目が覚めた。

ここ数日寝泊まりしている宿の部屋の風景が見えた。寝汗がひどく濡らしている。とても嫌な夢を見た・・・。

身体は重くだるい。自身の呼吸が荒いことに気付いた。

呼吸を整えようと大きく息を吸いこむ・・・と、傍らに人の気配があった。気配の主はシグマだった。

自分が寝ているベッドに体を寄せ、突っ伏して寝ている彼の左手がスージーの左手をしっかりと握っていた。

それに気づいたスージーに、なぜか胸の高鳴りが起こった。

しかし・・・風邪による朦朧とした状態で、高熱でグルグル回るような視界に悩まされ・・・いつしか意識を失った。

その時に見た夢は、あまりよく覚えていないが、とても心落ち着く内容の夢だった・・・きがする・・・。


「うーん!」

ベッドの上で大きく背伸びをした。体調は戻ったみたいだ。

窓から見える景色は晴天だった。


スージーの体調が整ってから、旅支度を整え、この街を出ることにした。

もともと旅人のような暮らしをしている6人には、ごく当たり前のようなものだった。


また、ここに戻ってきたときの為に、ここでの出来事の記憶に残ったことを各自で語りながら歩き始める

「そうだなぁ・・・久しぶりにスージーが風邪ひいた街だな・・・」

ロッドが開口一番にそう言った。

「そうだな・・・」

「それが一番だな。」

ファルスとロイがその意見に乗っかってきた。

「・・・へっ?・・・」

スージーの素っ頓狂な感嘆符を聞くのを待っていたかのように

「あー!!スージー様が買い物に私を置いていった街ですわ!!」

ランがその話に無駄に乗っかってきた。

「いや!街の特徴で覚えなさいよ!!」

スージーが勢いよく反論した。

「・・・じゃあ、スージーはなんなのさ!」

ロッドが何気なく反論した。スージーは言葉に詰まって、上目遣いになり、押し黙った後に

「・・・風邪・・・ひいた街かな・・・」

悔しそうに呟いた。

「ところでシグマは?」

軍配が上がったところでロッドがシグマに尋ねた。シグマは「う~ん・・・」と悩むと

「スージーの寝顔を間近で見れた街かな・・・」

おもむろに呟く。ロッドがその呟きを聞いた後に、スージーを見ると、彼女は俯きながら動きが止まっていた。

その耳が紅くなっているのがどのメンバーからも確認できた。スージーは目を見開き、顔を真っ赤に赤らめてワナワナトした。

強い心臓の音が彼女の頭に響いている

「も、もう!!何考えてんのよー――!」

スージーの声が木霊した。

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