表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤリナオシ  作者: ジャク
4/5

chapter 3

 走っていた。教室を出てから、ひたすら走っていた。


なんで、なんでなんでなんで。

どうして俺は、こうなってしまった。


 考えれば考えるほど答えは出ず、悲しみと苛立ちが先の見えない道を埋め尽くしていた。

クソッ、なんたって俺はこんな。俺は…俺はただ、認めてほしかっただけだ。


あの時も、こうやってみんな離れてった。


 全部、全部俺が悪いのかよ。もうわかんねぇんだよ!

「ハァ!ハァ・・ハァ・・・ハァ・・」

森に突き当たった道で、俺は立ち止まった。

土の地面に拳を叩きつける。

「クソォッ!!!クソックソックソッ!!クソォォォッ!!!!」

何度も何度も、土を抉り、拳の跡をつけて潰しては潰し。泥だらけになったって構いやしない。いや、そんなことを考えていられるほど落ち着いてはいなかった。あいつらといた日々と、後悔が頭を埋め尽くしていた。

「ぅああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 曇り空に向かって叫ぶ。


空一面を覆い尽くす雲が、この世界に俺を閉じ込めているようで、過去の苦しみの中に閉じ込めているようで。憎たらしくて仕方がなかった。


睨みつける。歯を剥き出して。この世界を。


あいつらも、この世界も、そして俺も、全てが憎い。


「あぁぁぁぁ!!!」

 近くにあった石を目の前の木に投げつけた。

「!!!」

その時だった。森の近くを通る人影が見えた。

「ハァ…」

ゆっくりと息を吐いて立ち上がる。


 この時の俺は多分どうかしていたんだと思う。普通だったらこんなことができる勇気は持ち合わせていなかった。

 あの教室での説明が終わった時につけた、ホールダー、トリガーナイフとリヴィジョンを入れたホルスター。3つしっかりとあることを確認し、人影の方へと歩いていく。


(…やってやんよ。)



―――



 宗がいなくなった後も、話し合いはダラダラと続いていた。クラスの半分は宗がいなくなったことに気がついていた。というか、いなくなる瞬間を目撃していた。

 元気な表情を見せる間野だが、そのところどころに、浮かない様子が見てとれた。席に座ってボーッとしている間野。


「じゃ、私帰るね〜」

「うん、じゃあねー」

角屋が前原にそう伝えて去っていく。


「そっか〜、今日はみんな家に1人かぁ〜」

間野がさみしそうに前原に向かって呟く。

「ゆうかとかみたいに、まだ自分の『あなたの自宅』に行ってない人がいるからね」


 ダラダラとした話し合いの中でも二つ、決まったことがあった。その一つは角屋のように泊まり会をしていて、あなたの自宅に行けてないメンバーもいるため、とりあえず今日は全員あなたの自宅を確認し、一夜を過ごしてみるということ。もう一つは、全員の状況を把握するため、全員ホールダーを装着しておくということだった。


「私たち、どうなっちゃうんだろうね。」


 珍しく元気のない間野の言葉。

前原は視線を合わさず、机に腰掛けて下を向いた。


いつしか教室にはこの2人だけが残っていた。


少しの間、何も話す気になれない2人だった。


「宗、怒ってたね。」

 先に口を開いたのは間野だった。

「なんかいつも宗に目の敵にされてる気がするー。」

わずかにテンションを上げて、天井を向いて、間野は続けた。

「私嫌われてんのかなー」


いつもの間野なら笑って言うセリフだが、この微笑みには真実味がなかった。


「私も最近ちょっと関わってなくってさ」

前原が切り出す。

「正直言うとちょっと怖くなって避けてる」

なるべくソフトな言い方をするのが前原の宗に対してのせめてもの優しさなのかもしれない。

「まだ私に未練があるのかもしれなくて、それにあっちもあっちで大変なのかもしれないけどなんかちょっとイライラしちゃったことがあって」

前原がだんだんと間野の方に視線を向けていく。

「私も悪いのかもしれないけど、なんかちょっと・・・」


椅子から間野が立ち上がって、ついに呟いた。


「いつから私たち、こんなになっちゃったんだろ…。」



 心のどこかでは、みんなそう思っているんだろう…



「私たち二人もいつのまにか…」

 前原が言いかけたその時だった。


妙な感覚が2人、いやこのクラスの全員を包んだ。


「え・・・」

頭の中にはストップウォッチの針の音が急いて流れていた。


 呆然と立ち尽くす2人。

しかし眺めている方向は同じであった。



これは


キャンセル?



21


22


23


24



 その時、突然カウントは終わり、と同時に意識的な伝達が光速の電波の如く、脳内(あたまのなか)を駆け抜けた。



「誰かが・・・バグと戦ってる・・・」



 これが俺の、初めてバグと相対した瞬間だった。



ーーー



「…ハァハァハァハァ!!」

 背後からバグが追ってくる。人の形はしているのに、顔も髪も見えない影のような存在。全身が蠢く黒い霧でできているように見え、それは見ていて心地が良いとはとても言えない姿だった。

これが、バグ。


 あれから俺は、なんとか2体を倒した。だが2体目を倒した後、もう一体バグが発生していたことに気がつかなかった。

 背後からの攻撃をまともに受け、その時、我に帰った。

恐怖心がこみ上げ、咄嗟の判断で走り出した。

一度態勢を立て直すつもりが、走っていくたびにより一層恐怖が増していった。

死なないとはいえ、痛みを感じて消滅する。それに初めて消滅したのが俺だったら、他の奴らにどんな顔をされたかわかったもんじゃない。

プレッシャーに押され、焦燥感に駆られ、怯え、逃げていた。

 だが、一度戦闘を開始したらバグを倒すまではやめることはできない。

頭の中ではわかってはいても、後悔の念がちらついた。


「ッ・・ハァハァ・・ハァ」

 けど、弱音なんて吐いてたまるか。俺のプライドは笑われ者になる程低くはなかった。

もう二度と、あの時のように、惨めな奴にはならない!


 覚悟を決め、深く息を吐く。

走っていた足を即座に地面に突き刺して身を翻す。

右手に持っていたソードを勢いよくバグの胸に突き刺した。

「あぁぁぁぁぁ!!」


 そしてそれはバグを貫いた。


よし、やった!

そう思った瞬間、自分の左側を大きな衝撃が襲った。

「うぐぅぁッ!!」

右側に大きく転げさせられる。

(こいつ、まだ生きてんのかよ!)

バグは胸に刺さったソードを乱暴に抜いて投げると、倒れた俺に向かってくる。


「う・・・ぁ・・」


 声も出ない程の恐怖。殺される時って、これの倍以上の恐怖を感じるのだろうと嫌な想像が頭をよぎった。

バグが凶々しく凶器のように開いた手を振り下ろしてくる。



 何もかもクソったれが!!!!


「ア”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 叫び声とともにバグの懐に飛び込み、左手の銃を右手に持ち替えて引き金を引く。

「ア”ぁぁ!がぁぁ!!うぁぁぁぁぁ!!」



何度も何度も。引き金を引き続けた。


最後の一発は、バグが消えかかった瞬間の虚空を切り裂いていった。


その銃声が、遠くまで響いていく。



 力が抜け、俺は仰向けに倒れ込んだ。もうバグはいないらしい。


「・・ハァ・・・」


 ため息が曇った空に消えていく。

 雨粒が、一つは額に、二つ目は右頬に落ちてきた。二つ目の雫が涙のように頬を伝い、地面に吸い込まれる。


その瞬間、雨が激しく降り出した。



 俺はしばらく雨に当たり。そして、目を拭って立ち上がった。




・・・




 あれからどれくらいたっただろうか…。初めてバグと戦ってからもう5日はたった。その5日間、俺は毎日バグを1体以上は倒すようにしていた。

未だに恐怖心は消えず、どちらかといえば日に日にこの現実から逃げたくなっていた。

 だが、あいつらに引けは取りたくなかった。

だから、バグを撃ち、斬り続けた。



 わかっていた。


こんなに怖いと感じるのはこんな状況で、バグと戦わなければならないからだけじゃなかった。


 一人だからだ。


 何よりも不安で怖いのは、支え励まし合える仲間がいないこと。

みんなと行動を共にしていれば、きっと心強いだろうと思った。


 でも、それを許さないプライドもあった。


濃い矛盾という二つの色が、俺の中で激しく主張し合い、ぐちゃぐちゃになっていた。



 そう、そんな現状から逃げたい。そんな現状から逃げたいんだ、俺は。



そんなことを思いつつ、ため息を吐いた。



 別に良いだろ…?何も失うものがないんだから…。



本当にそれで良い…のか…?



「アァァクソッ!!」

 頭をぐしゃぐしゃに掻きむしり、俺はベッドから飛び起きた。

(何してんだか…)


 部屋を出て階段を降りて、リビングの冷蔵庫を無造作に開ける。

 ちなみにだが、この世界でどうやって数日間、食をつないでいられたか。

それは1日ごとに勝手に冷蔵庫の中身が変わって、新しい食べ物や飲み物が現れるからであった。

2日前に夜更かしをした時、日付が変わる瞬間ずっと冷蔵庫を開けっぱなしにして眺めていたが、こちらもバグの発生前のキャンセルの時と同じように、気がついたら新しい食材などが補充されていた。棚などにあるパンやシリアルも同様であった。

(1日3食寝床付きのバグ退治か…いつこんな仕事受け持ったっけ?俺。)

 とりあえず、出来上がっている弁当をとってレンジに入れて温める。温めている間にコップに水を注いで飲み干し、もう一杯入れてテーブルに置き、箸も流しから洗って同じくした。

レンジのアラームが鳴り、温まった弁当を取り出してテーブルに置いて開く。

 箸を取って食べようとした時、冷房をつけていないことに気がついた。

(やけに暑いと思ったら…)

椅子から立ち上がり、冷房をつける。そのままエアコンの温度を一度下げると、俺は食事についた。


 料理をする気なんて全く起きなかった。ここ数日、ずっとこんな調子だ。

おかずを口に入れた後、白米を頬張った。

 朝遅く起きても1日2食から3食は食べるが、にしても食欲がここに来る以前より減退していた。


 弁当を食べ尽くし、コップの水を飲み干すとイスの背もたれにうなだれた。外の明かりが青白く天井にも写る。

 まだ眠い。というかだるい。

ため息をついてイスから立ち上がる。弁当のゴミを捨て、コップと箸を流しに置いた。



 それから2階の自室に戻って、部屋着を脱ぎ捨てて別の服に着替えた。

といっても、制服じゃない。


 最後にホルスターをつける。左腰あたりにトリガーナイフが、右腰にリヴィジョンが収納できる、腰に巻きつけるベルトタイプのホルスターだ。

 一度ベッドに座り込み、武器であるリヴィジョンをホルスターから引き抜いて眺めた。


 また戦わなくちゃならない。一度恐怖を感じてしまったら、この武器を持つ手に力が入らなくなる。だから俺は、瞬時に戦闘を終了させるように尽力するか、苛立ちを沸き上がらせて戦いに臨んでいた。

リヴィジョンを握る手に力を込める。


消滅したってどうせ生き返る。解決策を見出すにはどっちにしたって戦わなきゃならないんだ。


 丸めた背中を一気に崩して勢いよく立ち上がり、机の上のホールダーを左手首に装着して、荒々しく部屋を出た。



 家を出て、数分で人影を見つけることができた。今日は早く見つかったな。


 左手で逆手にトリガーナイフをもち、右手ではリヴィジョンを握る。

そこからは考えるより先に走り出した。人影を目掛けて全速力で走り込んでいく。

 段々と人影に近づいていくにつれ、周りの時間がスローになっていく。「キャンセル」だ。

 その瞬間、俺は逆手に持ったトリガーナイフのボタンを親指で強く押して、右腕に刺す。人影が瞬時に消え、後方に黒い人型の何か-バグが地面から出現する。

即座に振り返って、片手でリヴィジョンを構えて引き金を2度引く。

出現したばかりのバグが俺の放った2発を受け、後ろに体制を崩した。


(消してやる。)


 さぁ、開戦だ。



今日もまた新しい日常が始まっていく。



ーーー



「ねぇなんもないよ〜?」

 間野の声が木々の間を通りすぎる。

 宗以外の1年X組の面々は、少しずつではあるが、この事態の解決の糸口探しを始めていた。

「えぇ〜、そう〜?」

 角屋がそう言いながら他の女子と間野の方へ来た。そのまた奥で男子どもが騒いでいる。

「っしゃぁラストは俺が決めた〜」

最後のバグを倒した日堂がリヴィジョンのソードをスタイリッシュに回しながらビームの刃をソードの柄に収める。

「何日堂たちふざけてんのぉ?ゆみちゃん見てみ」

間野が日堂たちを見ながら男子たちよりか少し離れたところの前原を指差す。

 同じくバグを倒した前原が落ち着いた様子でリヴィジョンをしまう。

 バグと戦う役割を担っているメンバーの大半は男子の割合がほとんどだった。女子も戦闘に参加する者はいるが、多くはリヴィジョンのハンドガンによる後方支援が主なところだった。

前線に出てみる女子はいるものの後方支援に回る者や辞退する者もいた。もちろん男子のメンバーにも少なからずそういう者がいた。

 そんな中、紅一点と前線で活躍する数少ない女子の一人が前原友海であった。バグを相手にして男子に引けを取らない前原のその姿は、優しく整った顔の裏に秘めた芯の通った心が垣間見えた。


「奈々、終わったよ。何かあった?」

「なんにもないみたい。」

 間野が首を振って答えた。角屋がおかしいというふうに考えこむ。

「なんか光ってた気がしたんだけど」

「見間違いじゃない?」

「そうかなぁ」


ーーー


 間野たちがいる丘の下。そこには俺がいた。

アイツらがバグの退治をする様になった。これから鉢合わせてしまう可能性もある。


(俺はどんな顔をして出ていけば良いのだろう)


 今は見つかるすんでのところで離脱してきたのだが、これは時間の問題だった。今会わないようにしたところで結局はまた見つからないようにしなければならない。

 でも、今俺の脳内の大部分を占めていたのは別の事案だった。


数分前、アイツらがまだここに辿り着いていない時。俺はいつも通り、バグと戦っていた。



「フッ!ハッ!!」

 何体かいたバグを斬り倒したあと、最後の一体とあいまみえようと俺はリヴィジョンのソードを深く構える。そのバグの後ろに青色に輝く人影が見えた。

「!?」

(あの後ろ姿は友海…?)

 そんなはずはない。俺はたしかに友海たちが別の場所に向かっているのをさっき遠くから見た。それにどうして青く輝いて、


透けているんだ?


実体がないように体が透けかかっていて、後方の風景が見てとれる。

 頭の回転が追いつかない中、バグが攻撃を仕掛けてくる。

「うっ、グッ」

不意を突かれた攻撃をなんとか払い除ける。

「クソッ!!こんな時に!!」

バグに邪魔されてうまく友海の様子を伺えない。

 なんとかバグを押しのけて、友海の方へ走り出す。

肩を叩こうと手を伸ばす。が、


その手は前原をすり抜けてしまう。


 勢いでよろけしまい、足を踏ん張って体を止めた。驚愕しつつも、すぐに後ろを振り返る。

幽霊か、虚像か。はたまた別の何かか。


 俺はさらに驚きを感じることになった。


彼女は表情を変えて、こちらを見ていた。

切なそうな表情で微笑んでいた。


 突然横からくる衝撃に俺は押し出された。

「うぐッ!!」

俺に体当たりをして構え直したバグに、刃を振ってやり返す。

「邪魔するな!!」

(一体…一体なんなんだ!!?あの友海は!!)

 俺の攻撃を避けたバグの周りにはさらにバグが現れてきた。

「増援だと!?」

(タイミングが悪すぎる。こんな時…アイツらがいたら…)

 ふとそんな幻想を抱いてしまった。いてくれるわけがないのに。

また悲しみが胸を締め付けてくる中、友海は背を向けて歩き出してしまう。

「ッ!?」

離れていく友海の姿をバグたちが遮りながらかかってくる。

「友海!!!」

俺は引き止めようとバグの相手をしながらもなんとか叫んだ。



 バグたちの間に一瞬垣間見えた、振り返った友海の姿。悲しげな表情と俺の顔から微妙に逸らした視線。刹那の光景が、静止していたかのように鮮明に俺の脳に焼き付いた。


次の瞬間、眩い光を放って彼女はいなくなった。

 そして遠くからは日堂や間野たちの声。


俺はもどかしさを感じながらバグを残して離脱した。




 そして、今に至るのだ。


 アイツらが来たのは戦闘の音がして、友海の姿が消える時に出た光を見たからだろう。

上から聞こえる音から察するに戦闘も終わったようだし、早くここから離れなければ。


俺は足早にこの場を後にする。


「おい、何してんだよ?」

 突然後ろから投げかけられた言葉に俺はたじろいでしまった。


そいつに背を向けたまま、俺はこの場をどうやってやり過ごすかを考えていた。つもりだった。

「…どした?」

 そいつ―――日堂にさらに言葉をかけられる。考えようとしても、緊張と焦りですぐには思考が働かなかった。

「…なんでもない」

 その一言だけ告げて、俺はすぐにその場を立ち去ろうとした。

(今この場でさらに他の奴らと鉢合わせられるか!!)


 しかし日堂は俺を引き止めた。

「待てよ」

冷や汗がどっと増えた。

(やめろ、やめろよ!!)


 …あの時もこうやって引き止めてくれればよかったのに。なんで、なんで今なんだ。

「なんでもなくはねーだろ。お前がここで先に戦ってたんだろ?」

「…」

お前はそういうことに関しては感が良いな…。

こうしている間にもアイツらは戻ってくる。

(クソッ)

「ああ、俺が戦ってた。」

 横顔だけ向けて、俺は言った。他に言う言葉を探したが良いものも見つからず、「じゃあな」と言いかけた時だった。

木々の間を降りてくる間野たち女子や、桐田たちと目があった。

一瞬俺の目は戦慄ともいえる色をしていた。

(よりによって…!!)


 この状況、傾きかけた太陽、蝉たちの喧騒。全てに目眩をおぼえた。


 そんな中、また目眩に似た感覚が1年X組全員に巻き起こる。

時がゆっくりと流れていくこの感じ。時計の秒針が頭の中に響く。

だんだんと慣れてきた、「キャンセル」。

「またなのかぁ」

 桐田が頭をかく。

「今倒したばかりなのに…」と、角谷が不安そうな表情を見せた。

「麗香ちゃん達の方かも!!」

間野がそう叫んで、隣にある丘の方を見た。


 唐突に秒針の響きが消え、電流のような意識の流れが脳を貫く。始まった。


 麗香――里田(サトダ) 麗香(レイカ)達か。どうせここにいるくらいなら、と俺は覚悟を決めた。

(今しかない!!)

今思いついたここから離れる方法はこれしかなかった。

 俺はトリガーナイフを引き抜きながら走り出すと左手に勢いよく突き刺した。

俺は全速力でバグの発生地点を目指していく。



「あ!宗!!」

 間野は何かを振り払うようにして駆け抜けていった宗を見ている。

そして日堂もその姿を見つめていた。

 いや、その場にいた全員がそれぞれの想いを抱きながら、彼の後ろ姿を眺めていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ