第6話【退避の判断】
一週間経ったが、一向にマスクは会いに来ない。何か起きたのだろうか。ロックは朝食の黒焦げのパンを齧りながらそんな思考を垂れ流していた。最近は何か常に胸に引っかかるものがある。それは全然消えてくれない。何か、裏で蠢いていような...。
「ふぅ〜、やっと帰ってこれた」
青い霧のようなモヤが扉をすり抜けてカフェに入ってくる。
「....(正直、マスクとやらが来ないのはどうでもいい。今考えなきゃいけないのは、あの女が命を奪われた理由と教会幹部の奴らが俺を疑っている理由だな)」
「おい、おい聞いてんのか?おいって!」
ロックはハッと顔を上げる。
「あ、なんだ。帰ってきてたのか、ラストNo.」
「たくよぉ、こちとら大変だったんだぞ?!感謝の言葉ぐらいすぐに言えないもんか?」
青いモヤが赤色に変わる。
「悪かったって、ちょっと考え事をしていたんだ。で、帰ってきてすぐで申し訳ないんだけど聞かせてくれ、あの女は一体誰に殺されたんだ?お前見てただろ」
赤色だったモヤが再び薄い青色に戻る。
「あぁ、そうだったな。その前にまず、言わなきゃならんことがある」
「何だよ急に」
いつもとは違う少し真面目な雰囲気を纏ったラストNo.は何かを言いにくそうに口籠っている。
「早く言ってくれ、何なんだ」
「あぁ、分かったよ。8日間ぐらいまえに、女に取り憑いていると、千代田区のあるビルでお前の情報を売っている奴がいた。そいつは、明らかにお前のことを知っている風だった、『五角形の一人』とか言ってたんだ」
ロックは背中を何か緊張のようなものが伝っていくのを感じた。
「...バレたのか」
「あぁ。おそらくな。そして女を刺し殺したのもその男だ、おれはその様子をこの目で見た。」
深刻そうに紫色に変化したラストNo.を見たロックは、ため息をついた。
「そうか...。それでその女はどんな行動を取ってたんだ?」
ロックは焦るように貧乏ゆすりをしながら聞く。
「あいつはお前から取った金を使ってなんかいなかった。おそらく逃げている途中にどこかまた拾いに行ける場所に捨てていたんだろう。その金であいつは1人のそこらじゃ有名な自警団の1人を雇った。そうはいっても、たかが10万だ。そうそう優秀な奴は雇えないだろうが、まぁいるだけマシな奴を雇うことはできていた。」
「自警団?ここら辺だとあいつらは特に危険だ、そう簡単に要求に応じてくれるとはお前ないんだが」
「問題はその後だった。俺はたまたま、千代田区に寄った女についていくと、灰色のロングコートをきた男がお前のことを小太りの男に話していた。お前から逃れた直後、刀を持った男に滅多刺しにされたんだよ。
「あぁ、それが得策だ。どの道見張られていると思ったほうがいい」
ロックはすでにいない人間とされている。だから名簿にも載っていない上、彼という人間自体がいて良い存在ではないのだ。別の人間という体で目立たず生きている彼にとって、正体を暴こうとする人間がいるのなら戦うしかない。
「ここからどうするつもりだ?拠点は戦争で半数が使えない状態だぞ」
一つだけ、今退避可能な場所がある。
「健三のところへ行く」
「...健三、あいつの拠点って」
「秋葉原だ」
ラストNo.がオレンジ色に点滅する。
「はぁ...、分かったよ。じゃ、荷物を持て。今すぐ行くぞ」
2人はカフェを出て、秋葉原を目指して歩き出したのだった。
「殺しは割に合わないな、まったく」
ある1人の声がカフェの影から響いた。