プロローグ
能力者、それは所謂超能力と呼ばれる類の力を持つものたちのことを指す。そしてこの世界の各地に点在しているのである。数多の能力者の中のトップオブトップ、つまりは史上最強の能力者。
そしてこの物語は、そんな彼の一生を描いた物語である。
「ジジイ!てめぇまた給料減ってんじゃねぇか!こちとら寝る間も惜しんで働いてやったんだぞ!」
ボサボサの髪、薄汚い黒のコート、腰にぶら下げた一本の刀、そんな風貌をした20は超えているであろう男が汚い小屋の前で声を荒げていた。
「うちだってあんまり余裕がないんだ、それにそんなしょぼい仕事じゃ満額でも大した金にはならんだろうに」
小太りの男が落ち着き払った声で言う。
封筒に入っていたのはなんと10人の諭吉。彼はこの4ヶ月間、文字通り寝る間も惜しんで任務をこなしていた。
「わかったらさっさと帰るんだな」
開き直ったような言葉を残して小屋の奥に消えた男を尻目に、彼は青筋をピクピクと浮かせていた。
「このジジイ...!」
そうは言っても実をいうと日本は現在、過去類を見ない不況のまっ最中だった。
パンきれ一枚が1000円という時代だ、賃金が払えないというのも無理はない。しかし、こんな世の中だと言っても4ヶ月働いて10万円は少なすぎる。抗議してやろうとも思ったが、疲れて力が出ない。
「まぁ...、端金だが生活費が手に入っただけでも良しとするか」
なんだかあの小屋を見ているだけで腹が立ってくるのでうちに帰ろうと公園を通った。きれいな夕日が浮かんでいる。まわりでは子供達の元気な声、やはり平和だ。いつの世も、やはり子供は笑っていてほしいものだ。
そんなことを考えながら歩いていると後ろから1人の女がぶつかってきた。
「あっ...すみません」
そういって横を通り過ぎた彼女が遠くなっていった。綺麗だったな...、そんな想いにふけていると。
「ねーねー、お兄さんあの飴玉欲しいー!」
ふと我に帰ると7歳ぐらいの子供がコートの袖を引っ張っている。
値札を見てみるとそこには190円と書いてある。
迷いに迷ったものの、無邪気な子供を前にそれを拒否することなどできなかった。
「じゃあ、一個だけな」
「いいの?ありがとう!」
この子はおそらく戦争孤児か何かだろう。
こんな地方にいるぐらいだ。きている衣服も清潔とは言えない。
7年前の戦争はもう終結したが、大きな爪痕を残していったのだ。その爪痕はまだまだ残り続けることだろう。ズキッと嫌な記憶が脳裏に浮かんだ。
「俺だって...俺だってあんたがいなきゃ、生きてけねぇよ...!あんたがいなくなったら、俺は...!俺はぁ...」
灰色の雨が降る荒廃した街で1人の子供。
そんな思い出したく無い記憶。
「まだ、何も終わってはいないんだな...」
そして小さな駄菓子屋に入ろうとしたその瞬間、ポケットにつっこんだ手が寂しい感覚に陥る。
「ん...?」
とても嫌な予感がした。何とは言わないが、背中を恐怖何だ感情が伝う。
コートを脱いでバサバサと逆さにしても小銭一枚も出てこない。
「あっ!!」
あの女だ!あいつがスリやがったんだ!全ての合点がいった。
「あぁ、ちょっと待っててくれな....」
そして彼は踵を返してさっきの道を全力疾走した
その眼にはとても寒い水滴が垂れていた。