ショートケーキ
部屋に帰って来た私は気が抜けて「ほぅ」と深く息を吐いた。
沢山の人の前に出て緊張して身体が震えそうだった。小市民の私には荷が重すぎる。
『ママ、これでいいんだよね?』
ソファに座ってママとの連絡本を取り出す。
本にはママが私を恋しがる文字が書かれていて、胸がホカホカと温かくなった。
返事を書いていると、マリーナがお茶を入れてくれて私の前の机の上に置いてくれた。
「マリーナ、ありがとう」
「いえ、お部屋ですのでリラックスしていただければと」
まだ熱いお茶を飲むとフルティーな味がして新鮮で美味しかった。
マリーナが立ったままなので、向かいのソファに座ってもらった。やっぱりこの世界では座るように勧めないと立ったままなんだなと思った。私は遠慮なく座っていたが。
「ねぇ、マリーナ、誰かの許しがなければ座ってはいけないの?」
私がマナー違反をしたかもしれないので聞いておく。
「いいえ、身分の高い人と一緒にいる時は席を勧められない限りは立っておくのが礼儀です。アイコ様は浄化の乙女ですので、教皇様と同じかそれ以上に高貴な存在になります。なので座ってほしい者がいる場合には席を勧める立場になります」
いつのまにか高貴な存在になっていた!この小市民の私が!
ちょっと衝撃を受けたけど、ママに返事を書いてからアイテムボックスに連絡本をしまって、お茶に合うお菓子を出そうと思う。
通販を開いてぽちぽちと画面を触りながら美味しそうな物を探していると、マリーナがこっちをじっと見ていたので、気になる事を聞いてみた。
「マリーナ、私の前にある物が見える?ここに画面……じゃ通じないか。板みたいな物があるんだけど……」
マリーナが私の周りを真剣に見つめたと思ったら「見えません」と申告した。
よかった。人前では見えないんだ。これで、どこでも通販が使える。
「マリーナ。何かお菓子を出そうと思うのだけれど、何が食べたい?」
「え、お菓子をご馳走してくださるのですか?ありがとうございます。出来ればアイコ様の好物をいただければと思います」
マリーナは謙虚だね。
よし!私の好物をお茶菓子として出そう!
何がいいかな〜?あ、ケーキが食べたいかも。
通販の検索機能で美味しそうなケーキを探す。
うーん、ここはシンプルにショートケーキを出すかな。
購入すると机の上にショートケーキが2個並んで出てきた。
フォークがないので、それも2個買ってから、ショートケーキと一緒に持ってマリーナの前に置く。
「マリーナ、ショートケーキだよ。美味しいから食べてみて」
「ありがとうございます」
マリーナは観察するようにショートケーキを眺めてから私の方を見た。
ん?私が食べるのを待ってるのかな?それとも食べ方が分からないなんてことはないよね?
わたしは久しぶりのショートケーキに少しテンションを上げつつ、フォークですくって食べた。
ん〜!おいしい!
マリーナもケーキを一口食べた後、驚いたように口を押さえた。
心なしか目が輝いて見える。
「美味しいです!こんなに美味しいものを食べたのは初めてです!」
「え〜、大袈裟だな〜。これくらいならいつでもご馳走様するよ?」
て、言ってる私も小さい頃に食べた誕生日ケーキに夢中になったことを思い出した。
あの頃は幸せだったなぁ。
じんわりと味わいながら食べる。
たしかに幸せな記憶もあるんだよ。辛いばかりじゃなかったよ。
マリーナの嬉しそうな顔を見て愛子は微笑んだ。
確か教会には孤児院があると聞いた。お菓子の差し入れにでも行こうかな。
「マリーナ、孤児院ていつでも行ける?お菓子の差し入れをしたいんだけど」
マリーナがパッと明るい顔になった。嬉しそうだ。
「アイコ様がいらっしゃるなら、それは喜ぶでしょう!ぜひ行ってあげてくださいませ!」
孤児院はマリーナの実家みたいな所だから嬉しいのだろう。
素直に喜ぶマリーナは可愛いと思った。
「午前中は勉強と孤児院のお手伝いがありますので、お昼から行った方がよろしいでしょう。いつ行かれますか?」
お昼は昼食を食べてお腹いっぱいだろうから、15時ごろのおやつの時間がいいかな?
「昼食を食べて少ししたら行くよ。孤児院の都合がよければ、だけど」
「まぁ!それは喜びます!それでは私は調整をして参りますね。しょーとけーき?をありがとうございました」
お皿は空になっていてクリームまで綺麗に食べている。
よほど気に入ったようだ。お辞儀して部屋を出て行った。
私も残りを食べよう。
あれ?半神て太るのかな?神果を食べたら痩せたけど、地球の食べ物って身体に悪い物もあるからなぁ。
不摂生してるとすぐに太るかも。それはそれでママが喜んで私をぷにぷにしそうだけど。




