愛し子
目をつけたのは偶然。
その生き物はとても可愛くて健気だった。
少し身体が弱いようだが、頑張って働いている。
私は彼女を観察していた。目が何故か離せないのだ。
来る日も来る日も観察していた。自分のおつとめもほっといて。
ある日、彼女はとても驚いて、人の世では大切なお金をたくさん手に入れたらしい。
なんでも『たからくじ』と言うものの『いっとう』に当選したらしい。
可愛いふくふくした嬉しそうな笑顔をしていた。
大金を手に入れた彼女はそれでも働いていた。たまに苦しそうな顔をするとハラハラしてしまう。
彼女は大金で家を買うようだ。真面目でキラキラした目で店の者と計画を話し合っている。
何故だか私も嬉しくなった。
小さい身体で小さな『嬉しい』を見つければ、ふくふくとした笑みを浮かべる。
何故だか私の胸がきゅんとした。初めての感覚だ。
来る日も来る日も観察を続ける。毎日同じような日常を繰り返しているらしい。
彼女には親がいないようだ。
彼女のちょこちょこした動きに胸の高鳴りを覚える。
チョイと過去を遡り彼女の生を見る。
生まれた時は愛されていたようだ。赤子の彼女はとても可愛い。(今もかわいいがな!)
おお!母親も可愛いではないか!幸せそうな一家だ。
彼女が4歳の時に父親が病にかかったらしい。体内の血管が破裂する病気だそうだ。
父親は若く病気の発見が遅かった為、1月で命を儚くしたようだ。
彼女は小さな頃から身体が弱いようで、よく体調をくずした。
母親は悲しみの合間に彼女のお世話をする。が、負の感情が高まっている。心が蝕まれているのぅ。大きな『澱』が心に溜まっておる。
おお!なんということだ!!彼女に暴力をふるいおった!!許せん!!幼子になんという振る舞いだ!!
天罰を与えてくれる!!
冷静になったら過去を見ているだけであった。それに私にはこの世界に手は出せん。悔しい。おお!幼子が日に日に弱っておる!ええい!誰か助けんか!
暴力に病と飢えで苦しんでおる。なんと痛ましいことか!
母親は出掛けたきり帰ってこん。骨と皮になって死んでしまう。誰か彼女を助けてくれ。
ああ、彼女がふらふらと立ち上がり母を求めておる。
家から出て、扉の前で力尽きてしまいおった。そこに私がおれば助けたものを。
同じ『まんしょん』に暮らしておる住人が彼女を見つけ、病院に運んでくれた。死なんと分かっていても胸が締め付けられるようだ。
彼女は保護された。母親は行方不明だの。いや、行方不明扱いだが自殺して死んでおる。誰にも見つからん場所で。
彼女は天涯孤独だ。いや、祖父母が見舞いにきたぞ。彼女を引き取るようだ。
祖父母の元で少しずつ回復しておる。でもあまり生活に余裕がないのぅ。小さい身体で家事を手伝っておる。健気だのぅ。
彼女が成長するにつれて、祖父母が老けてきて彼女が学校に行きながら家事を一手に引き受けておる。こんないい子は他におらんぞ。
いや、もっと不幸な子供を知っておるが自然の定めといつもは見ておったの。
彼女の何がこんなに私を惹きつけるのか?彼女を見ているだけで胸がほこほことあたたくなるのぅ。
時はたち、祖父が亡くなり祖母にも天命が近づいておる。彼女は働き始めた。
祖母も亡くなり彼女は骨壷を抱きしめて泣き崩れておる。
おお!胸が引き裂かれるように痛い!泣かないでくれ愛しい子。
そうか、これは『愛しい』という感情なんだな。この感情を与えてくれた彼女に感謝を!
人とは簡単に死ぬと思っておったが、彼女を失いたくない。どうしたものか。できれば我が手にと思うたが世界が違うからそれもできん。
現世の彼女を見つめる。何と愛しく可愛いことか!
彼女の待望の家が出来上がっておる。一般的な家より大きいの。ちょこまかと家具を配置しておる。
ああ、可愛い。癒される。出来れば我が手の中におさめたいものよ。
チキュー神と交渉するかえ?よし、それがいい!善は急げ!!
ほっほっほっ!高笑いがおさまらん!少しの対価で彼女を貰い受けた!
だが、私の所で閉じ込めたとして彼女の輝きは失われんかのぅ?
少しの間、私と暮らしてもらって我が世界に適応した身体に作り替えねばな!私欲じゃ!神が私欲で動いて何が悪い!大神様に怒られなければいいんじゃ!……怒られるかのぅ?彼女に役割を与えれば問題ないかのぅ?
よし!彼女には私の世界の『浄化の乙女』として降臨してもらおうかのぅ。ならば私との交流も問題なかろう。
彼女が眠りについた今、我が元に引き寄せようぞ!
あ、彼女が大切にしている家ごと天界に引き寄せよう!その方が嬉しがるだろうて。
やっと手に入れた愛し子よ。私が愛してあげようて。