滝壺のダイダン
「我慢は必要だ」
誰かがそう言った。
少年は、流れる滝の音を上から聞いていた。
もう一人の少年は、流れる滝の音を下から聞いていた。
スーと息を吸い、水の中に飛び込む。
そして滝の流れと共に落ちた。
滝つぼから押し上がり水面から顔を出した。
「ブハー」
「お前は相変わらず無茶するな」
「うるせぇ、時にはこういうのも必要なんだよ
なんだったら今からお前と」
「おっと、やめとくよ。
・・・それより今日はなんだか違和感がないか?」
「違和感って?」
「うーん、とにかくなんか変ってことだ」
「何がどう変なんだ?」
「月が赤い」
確かに今日は月が赤い。
「太陽には眼差しがある様に、月にも眼差しがあるのだろうか」
「ははっ、なんだそれ」
「お師匠様の言葉だ」
「ん?」
「お前の物忘れも今に始まった事じゃないな!ダイダン!」
少年の目から発する念力で岸にあげられたダイダンは言った。
「じゃあさ、教えてくれよ!そのお師匠様がどんな奴だったかって」
「俺の名前も忘れちゃってる奴にそれは教えられないな」
「えーと、えーと、待って今思い出す。えーと、えーと」
「ケース」
「え?」
「ケースだ」
「ああ、そうだったケース、でこれからどこへ行くんだ?」
「山のふもとだな、トピラーが村の皆を集めてる」
「なんでだ?」
「さあな、きっと何かが起こったんだ」
「不安にさせるな!それならそうと、さっそく行かねえとな、よっよっ」
ダイダンは、川の石を次から次へと跳び移り、村へ向かった。
「やれやれ、せっかちだな君は」
ケースも後を追う。
「この人がトピラーか」
中性的な顔をした人だった。
「今年で45になります」
とトピラーは第一声
「聞いてないけど、あんたの第一声それでいいのか?」
そうダイダンが返すと、頭上からケースのげんこつが降ってきた。
「痛ってえ」
「失礼な言い方してないで座れ」
「いいだろうがよ、そう思ったんだから、そう言って」
トピラーは言い放った。
「皆さん、人は生まれながらに他者を殺したい生き物なのです」
トピラーは周囲をざわつかせた。
「皆さんがたは、どうやって産まれてきたか、ご存知ですか?そう、他の精子を殺して産まれてきているのです
それは忘れた方が幸せなのかもしれない。
ですが、過去に皆さんはそれをやっているのです
人は産まれながら悪なのです。
人は産まれながら傲慢なのです。
傲慢なのです!」
トピラーは、言い終わると過呼吸になってしまった。
村の人達は驚き取り囲んだ。
その取り囲んだ村の人達をトピラーは皆に、あたり散らし四方八方へ飛ばした。
次々と。
ダイダンとケースの2人を残しトピラーは飛び立った。
2人は滝の近くでたそがれていた。
この滝は、元々いた滝ではなく、いつもの滝の下にある村の更に下にある小さい滝だ。
2人は村の外へ出てきていた。
黙ったままでいると、月がうつる水の中に飛び込みたくなるケース。
ケースは衝動にかられ水の中に飛び込んだ。
仮眠をとりつつボーとしていたダイダンは、その時ハッと目が覚めてケースの方を見る。
「へぇ、珍しいこともあるもんだ。
ケースが飛び込むなんて」
「ああ、今回ばかりは参っちまった」
ケースは、ある事に気がついた。
「おまえ」
ダイダンに驚きの目をやる。
「名前、覚えてる」
するとケースばかりでなくダイダンも驚いた。
「あ!本当だ!」
つづく