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ダンジョンとオーク


 恐らくだが、今俺がいる場所は地下だ。俺が直接独房の外を見て確認したわけではないため、真実だと決まったわけではないが可能性は高いと思う。オーランドの組織が地上にも何らかの施設を持っていて、そこに俺を監禁している可能性もゼロではないが、オーランドの組織が地下に施設を持っているのに、俺を閉じ込める部屋を地上に作るとは考えづらい。

 オーランドの目的からしても、俺を閉じ込める場所は地下の方が合っているだろう。オーランドの目的は俺達孤児院から引っ張ってきた子供たちを神への貢ぎ物にすることだ。どうやらオーランドは何らかの宗教に入信しているらしく、その貢ぎ物として人間を捧げているという。子供たちはその捧げものらしい。孤児院から労働力として借りてきたのは、俺達をここに連れてくるための嘘だった。

 その嘘をつくために随分と手間をかけたようだ。子供を一斉に誘拐するとなると組織的な犯罪となり、領主が動く恐れがあるため、それを恐れての作戦だろう。敵ながら良く考えたものだ。


 誘拐した子供たちは労働をしているという扱いになっている。孤児院の人達は子供たちの姿が見えなくても何も疑問には思わないだろう。

 事件が起きてから、時間が稼げれば稼げるほど、事件の真相は遠のいていくものだ。儀式が終わった頃には主犯であるオーランドの組織について調べるのは難しいだろう。


 オーランドは最低最悪の悪党だが、神への貢ぎ物を調達するための作戦としては良くできていると思う。

 だが、この作戦には一つ致命的なミスがある。


 それは、俺を事件に巻き込んでしまったことだ。

 俺はギラリと黒い眼を光らせた。ミコから貰った腕輪を付けて、その手で銃の魔道具を握る。それらはとてもよく俺の手に馴染んだ。

 独房のドアの前に立つ。


「絶対だ。俺が絶対あのくそ野郎を殺してやる。それに、ミコも……」


 ミコは俺の脱獄を手引きし、俺が脱獄したことをオーランドに知らせないようにしてくれた。ミコとオーランドの立場は俺には理解できないが、俺にとってミコは悪い奴ではない。寧ろ命の恩人と言っていい。ミコが居なかったら俺には一度のチャンスすら無かったのだから。


 俺がいまやるべきことは三つ。


 一つ目は孤児院から俺と一緒にこの組織に配属された子供たちの救出。これは絶対だ。

 二つ目は強くなること。さっきみたいな情けないマネは二度と出来ない。俺は力を付けて俺自身の意志を通せるようにならないといけない。いざという時に自分の力不足で俺の意に反することをしないといけないのは、すげぇ腹が立つ。

 三つ目はオーランドを殺してこの組織を壊滅させることだ。まだ俺はこの組織の全容は愚か、その末端ですら知らないが、この組織がとんでもないことは分かる。悔しいがオーランドが放つ怖いオーラは圧倒的だ。あれほどの悪意の塊を持つ男が所属する組織が小さい訳がない。それに、この組織がとんでもないと俺が思う根拠はそれ以外にもある。


 俺がミコに貰った魔道具がそうだ。

 これは組織が持っていたものをミコが勝手に持ち出してきたものだ。つまり、オーランドがこれと同じものやこれと同レベルの魔道具を持っている可能性がある。たった一つしかないのならオーランドがミコに持ち出せるような場所に管理するはずないからな。

 控えめに言ってもこの魔道具は強力だ。使いこなせる人がいないといった風な発言をミコがしていたが、オーランドは恐らく使いこなせる側の人間だろう。そうじゃなかったとしても、そうだと仮定した方が良い。これから戦う相手を過小評価するのは適切じゃない。

 こんな強力な魔道具を複数所持できる組織は間違いなくとんでもない組織だ。壊滅させた方がこの街のためになるだろう。俺は生まれ育ったこの街に思い入れが強い訳ではないが、かといってオーランドの好き勝手にされるのは気に入らない。


 俺のやるべきことはこの三つだ。子供たちの救出、強くなる、オーランドを殺す。そのためには先ずは情報が要る。

 丁度良いことに、俺が今いる場所は組織の施設内部にある独房だ。この独房から外に出れば組織が普段使いしているだろう施設の中に入ることができる。そうなれば組織の情報がたんまりと手に入るだろう。

 それも、本来よりも相当楽にやれるはずだ。


 施設の外から内に入ってくる敵を排除するのは容易くても、施設の内にいる敵を排除するのは難しい。なんせ、内に入ってこないようにするのだから、内の敵を排除するシステムを作るのは活用できる見込みが薄いからだ。見込みの薄い防衛システムを用意するほど余裕があるようには見えない。そんな余裕があったら倉庫の管理なんかやらないだろう。内部への警戒は薄いとみて良い。

 俺が独房から出て組織の情報を得るのは容易いはずだ。俺の今の状況はさっきまでの絶望的な状況から反転して、フィーバータイムに入ったと言っても過言ではない。

 絶体絶命のピンチの中に勝機がある。って昔の人が言ってたらしいが、それもあながち嘘じゃなかったみたいだ。


「その勝機を無駄にはできないな」


 俺は小さく息を吐いた。


「よし、そろそろ行くか」


 俺は銃の魔道具を腰に付けて、ドアノブに手をかけた。本当ならば片手で銃を持ちながらドアを開けたかったが、片手しかないせいでそれはできない。

 やはり腕が無いのは不便だ。だが、やるしかない。


「待ってろよ。絶対俺が全部上手くやって見せるからさ」


 誓いを胸に、俺はドアを開けた。


 ◆


「あれ? ここって、地下だけど、一応室内……だよな」


 有り得ないことにドアの先はダンジョンだった。

 土の天井、土の壁、土の床。十人程度が並んで歩けるほど道幅は広く、独房よりもはるかに明るい。満月の夜程度はあるだろう。ここ最近は暗い所ばかりにいたため、月明かり程度の光源だけでも気が楽になる。

 だが、道の奥を歩く者をみると、そう楽観的にはなれない。


「あれは、オークだっけ」


 オークとは二足歩行で二本の腕を持つ、まるで人間のような魔物だ。だが、その身体は人間と比べると遥かに巨大で、その顔つきは獣のような獰猛さがあると言われている。昔、魔物図鑑で読んだ記憶がある。

 それが二体。俺のいる道の先に並んで歩いていた。二体は手に棍棒を持っており、今は俺に背を向けながら奥に進んでいる。様子からしてまだ気付かれていないようだ。


 俺は銃を構えて、銃口をオークに向けた。ミコがやっていた感じだと、これで引き金を引けば弾が出るはずだ。

 だが、俺は引き金から指を離した。


「いや、まだだな。音が出るのは不味い。少なくともここが何処なのかは突き止めないとな」


 訳が分からない。独房から出たらダンジョンでした何て言われて理解できるわけがない。ここで音を出すと他の奴に気付かれる。それはあの二体のオーク以外の魔物かもしれないし、オーランドの仲間かもしれない。

 少なくとも大きな音を出すのは俺が不利になるだけだ。出来る限り避けた方が良いだろう。俺は銃口を下に降ろして、少し思考する。

 ……だが、俺の思考はすぐに中断された。


 運の悪いことに、そうこう俺が考えている間に、道の反対側からもオークの影が見えたのだ。

 無骨な顔は人間に似たフォルムをしている。正面を見据える二つの眼と二つの耳に一つの鼻と口。人間と違うのは髪が無いことと、口から牙が出ていることぐらいだ。

 俺が昔に図鑑で見たオークの姿とほぼ同じ見た目をしている。違うところと言ったら、眼が若干虚ろになっているぐらいだ。


「チッ、早速面倒なことになったな。……どうする? ……いや、考えても無駄か」


 一応悩んでみるが、とはいえやることは一つだ。挟まれているのだから、やるしかない。

 左手側には遠ざかるオークが二体。右手側には向かってくるオークが一体。どちらもまだ俺の存在には気付いていない。オークは確か嗅覚が良いと聞くが、実はそんなに良くなかったらしい。

 でも、そのおかげで不意を撃てる。

 一体をやってから、音で気付いた二体をやる。とっさに思いついたが、多分これが今の俺に出来るベストだ。


「もし俺が失敗したら、その時は死ぬしかないな。まあ、この魔道具を俺が使えないんだったら、どうせ俺にこの先を生き抜くことはできないし」


 俺は右手に持った銃をオークに向けた。距離はまだあるが、オークは合計で三体いる。一体目に気付かれて叫ばれたりしても面倒だ。折角不意を突けるのにそれを見す見す逃がすわけにはいかない。

 少し遠いぐらいのこのぐらいの距離が最適だと思う。

 ここは独房と違って明るいから少し離れていてもオークの頭はしっかり見えている。


「狙いを定めて、引き金に指を合わせる。呼吸を整えて、狙いがブレないように腕の筋肉を意識する」


 スゥーっと息を吸って、吐いて。


 最も揺れが無いと判断した瞬間に、俺は引き金を引いた。

 バァン、と大きな音が出る。無事に弾は放たれたようだ。肝心なのは当たっているのかどうか、二発目が撃てるのかどうか。

 ガチャ。

 ……と、二発目が込められる音が聞こえた。俺は何もしていないが、撃てるようだ。その音が聞こえた直後、俺が撃ったオークがばたりと後ろに倒れた。


「当たった、のか? いや、今はそれよりも……」


 大きな音が鳴ったせいで、俺から離れるように歩いていたオークが俺の存在に気付いた。


  オオオオオォォオ!


 汚い鳴き声だ。でっぷりと太った腹をぶるぶると揺らしながら二体のオークが俺に向かって突進してきた。

 手に持つ棍棒を上に掲げ、俺に振り下ろす気マンマンだ。あれだけの巨体の腕が振るう棍棒に殴られでもしたら、俺の身体はミンチになるのは必至。

 でも、今の俺に恐怖はそれほどなかった。


「二発目は……撃てるな」


 俺は狙いを定め、引き金を引く。


 バァン!


 大きな音が鳴って、オークが後ろに倒れた。銃がガチャリと音を出す。三発目が装填された音だ。二発目の時と同じで俺は何もしてない。

 三発目も撃てるという確信があった。


「三発目だ」


 俺は流れるように銃口をオークに向けて、引き金を引いた。


 バァン!


 再び大きな音が鳴って、オークが後ろに倒れる。一体目と二体目の時は気付かなかったが、オークの体重に相応しい大きな大きな地響きがあった。大人十人分ぐらいの体重はありそうだ。

 そんなのが襲ってきていたと思うと恐ろしくなる。さっきまでは全く恐怖が湧かなかったのに、終わってから急に怖くなってきた。

 と、気付く。


「……あれ? そういえば銃が鳴らないな……」


 三発目を撃った後、銃が次弾を装填する音を出さなかった。一発目と二発目を撃った時にガチャリと鳴ったあれだ。

 何故次弾が装填されなかったのか原因が何かはわからないが、四発目は直ぐには撃てないようだ。

 少し心許ない気はするが、四発目をすぐに撃つ必要はない。


 俺は背後を向いて、最初に倒したオークが起き上がってないか確認する。遠目からだが、起き上がっては無かった。


「念のため死んでるか見とくか……」


 一体目のオークに近寄る。今の音で他に何か来るかもしれないため、警戒を怠ることなく、ゆっくり慎重に移動した。

 忍び足でオークの頭まで近寄り、銃口を頭に向けながら、その顔を覗き込む。銃に弾はまだ装填されていないが、気の持ちようのためだ。

 だが俺は息をのんだ。


 オークの脳天に巨大な穴が開いていた。頭から噴出した血がオークの顔を真っ赤に染めているせいで、詳細にオークの顔を見ることはできないものの、ぱっちりとした大きな両眼を開いたまま絶命しているのは確認できた。俺はオークの死体は愚か、人間の死体ですら見たこと無かったが、このオークを見てオークが生きているとは到底思えない。間違いなくこのオークは死んでいる。

 なのに、俺は怖くなった。直ぐに手に持っている銃口を見る。


 銃口は大体人差し指の太さと同じぐらいだった。

 俺は再びオークの脳天を見る。少し怖かったが、指を二、三本に束ねて脳天に出来た穴の太さを見た。


「……明らかに大きすぎる。どうなってんだよ」


 銃から出る弾は指一本なのに対して、銃が穿った穴は指三本よりも大きい。まるで標的に当たった時に爆発して穴を大きくしているかのようだ。

 強力な魔道具だと思ってはいたが、俺が思っていた以上にふざけた破壊力を持っているらしい。この魔道具の製作方法や出所が気になる。俺は魔道具にはまだ詳しくないが、これほどの魔道具なら国が動く可能性もありそうだ。


「益々ミコがわからなくなってきたな」


 こんなとんでもアイテムを俺にゆだねるなんて。ミコは俺にこの魔道具を使いこなせるかもしれないから渡したと言った。今の戦闘からして、俺はミコが言った通り、この魔道具を使いこなせているのかもしれない。ミコがこの魔道具を扱っているときよりも全ての動きがスムーズだったし、使いこなせているだろう。

 ミコの狙いは見事的中したわけだ。


「まあいい、今はそんなことを考えても意味がないしな。使わせてくれるんなら、俺が使いこなしてやるよ」


 現状、俺の武器はこの銃の魔道具だけだ。使うのが怖いから使わない何てのは無理な話で、例え銃の魔道具を使うせいで何らかのデメリットがあったとしても、それは受け入れるしかない。

 もう、俺は後ろに引き返すことはできないんだ。


「今はそんなことよりも……、メシが喰いたい……」


 ぐぅぅ……。

 俺の腹が鳴った。


「血を失ったのもあってかなり疲れたな。今動けてるのが不思議なぐらいだ。特に、あの独房を出てからきつくて……ああ……」


 そういえば、オーランドが言ってたな。『止血はしといてやる』みたいな……。あれは俺が死なないように何かをしてたのか。でも、その効力がなくなったから疲れと空腹がでてきたのか。


「とにかく飯だ。早く喰わないと死んでしまう」


 とはいえ、ここはダンジョンだ。あるものは限られる。ダンジョンで食料を得るのは運要素が大きいと聞く。一流の冒険者であっても、ダンジョン内での食事事情は手持ちを加味しながら行動しなければならないと言われるほどだ。今から俺が手持ち食料ゼロからやっていくのは厳しいだろう。


 いや、それは違う。

 今の俺が手持ちの食料ゼロと決まったわけではない。

 俺は眼前にある肉の塊を見て唸った。


「これは……流石に食えないよな……。いや、でも……」


 目の前にある肉の塊というのはもちろん、オークの死体のことだ。頭を一撃で殺しているため、身体はまだ無事である。解体すれば立派な肉になるだろう。

 俺は唸った。

 周囲を見渡して、他に食べられそうなものがないか探す。


 だが、ここはダンジョン内だ。そんな都合よく食料があるわけがない。つい先ほど一流の冒険者でも食料を意図的に見つけ出すのは厳しいと言ったばかりだ。


「独房になら……」


 俺がさっきまでいた独房に食料なんてのが置いてあるわけない。仮に置いてあったとしても気付く。


 ぐぅぅ……。


 腹が鳴った。

 そろそろ、俺は腹をくくらないといけないようだ。


「……まじか」


 俺はオークの肉を食わねば死んでしまうらしい。


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