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黒い瞳の魔物


 俺に全く気付いていない鳥の背中に思いっ切り剣を振り下ろす。

 が、剣の切っ先は空を斬った。


「レアものなだけあって中々やるな」


 地に降りて、人間達の方へ少しだけ眼をやった。


「下がってろ。お前等じゃ勝てない」

「あ、ああ、悪いな。誰かは知らないが助かった」


 男二人は急に参戦してきた俺を咎めることなく、素直に感謝を述べてきた。まあ、当たり前だろう。あの状況なら自分たちが負けるのは何となく理解できるものだ。俺の存在はさぞかし天使に見えているに違いない。


 が、少女の方は茫然としていた。


「お嬢、悔しいのは分かりますが、あれには勝てません。この方と力を合わせるために、体勢を整えてから」

「……ーガ?」


 鳥が攻撃を仕掛けてきた。対面して初めて気づいたが、その鳥は真っ黒な瞳をしていた。俺とオーランドと巫女と同じ黒い瞳だ。

 その純度は薄いが、間違いなく黒と言って差し支えない。


 俺は剣を振って威嚇した。鳥は俺の攻撃を苦もなく避ける。そして誘うように辺りを漂った。


「やっぱり賢いな。常に俺の死角を取るように動いてる。俺の攻撃範囲を確認するように動いてきたし、知能がかなり高いな」


 鳥はきほん馬鹿だと思っていたが、やはり魔物はその辺の常識に捕らわれないようだ。体内に魔力を管理する機関を持つ魔物は人間ら動物と比べて馬鹿げた性能を持つことが多い。

 見た目に反した性能は魔物の専売特許のようなものだ。


「……ね、ねえ。あなたって、もしかして──」

「お嬢、戦闘中です。気に障っては申し訳ない。我々は治癒に専念すべきかと」

「……ごめん」


 何やら俺の後ろでやり取りがあったが無事に終わったようだ。直ぐに静かになって治療を始めている。

 その間、鳥がそいつらを狙うかと思ったが、意外にも……というより予想通りに鳥は不動だった。


「あえて隙を作ってるってのに突っ込んでこないな。こりゃあ下手したら逃げられるか?」


 今はまだ鳥が俺に勝てると思っているから逃げていないが、俺に負けると気付いたらすぐに撤退を選ぶだろう。人間みたいに変な意地を持っていないから、魔物達の判断は迅速に行える。

 この鳥のような賢い奴なら余計にそうだろう。


 逃げられるより先に狩るとなると、俺は力を抑えた状態で戦わないといけないわけだ。それか、力を使うなら一瞬で片を付けるか。どちらにせよ面倒な事には違いない。

 俺は前者を選択した。


 一気に距離を詰める。


「お前のその眼、どんな性質なのか興味があるんだよ」


 俺の使っている剣の魔道具には冷気を出す性質がある。氷のような物体を出すわけではないため、遠距離では使えないものの、近距離ではそこそこ大きな威力を発揮する。

 冷気は体温を奪う。そして、体温を奪われたものの動きは鈍化する。

 俺は着ている黒いマントによって防御しているが、生身の奴なら相当の鈍化となるだろう。


 が、鳥は物凄い勢いで俺から離れるように飛んでいった。まるで、俺の魔道具の能力を知っているかのように迅速な判断だ。


「……あの黒い眼」


 もしかしてと思ったが検証は後だ。

 俺は一目散に逃げていった鳥を追う。一瞬、人間達を放置して良いのか迷いそうになったが、この辺にあれ以上の敵はいない。問題ないだろう。


「ちょっと!?」


 俺を止めようとする少女の声を無視して俺は鳥を追った。


 チッ。


 鳥は逃げるルートも良く選んでいた。予め決めていたのかもしれない。人間が通りづらく、かつ鳥は逃げやすいようなルートを選んでいる。

 木や枝を蹴って動いている俺であっても、追うのはかなり厳しかった。シンプルに俺のでかい身体が邪魔なのだ。さっきから草が眼に入ってきて鬱陶しい。


 チッ。


 俺は再び舌打ちをした。距離が離れて行くのがストレスになる。仕方がない。人間達と距離が離れたし、そろそろ使っても良いか。

 俺には遠距離で絶大な威力を発揮する武器が一つある。俺の最も使い慣れた武器だ。


「インフィニティ」


 虚空に銃が出現する。

 俺は瞬時にそれを掴んで、その銃口を鳥に向かって突きつけた。

 鳥は良い眼を持っている。俺が握っている魔道具の性能を一瞬にして見抜けたのだろう。


 瞬時に動きを止めた。


 バァン!


 放たれた銃弾が鳥の頭を撃ち抜く。

 脳天が貫かれ、鳥の身体が地面に向かって落下した。トスンと死体が転がる。


「いっちょ上がり」


 俺は鳥の死体を拾い上げて、眼球に傷が入ってないのを確認する。


「……にしても、最後に動きを止めたあれは、死を予期してショック死でもしたのかね」


 いずれにせよ興味深い。中々良い素材を手に入れられた。

 ちょっと数は足りないけど、今日はこの辺で良いかな。この後にじっくりとこいつの死体を研究したいし。血抜きとかもやんないといけないしな。


 この素材を作って作る魔道具か……。腕の素材にしたり、ネイラの施設の増強にも使えたりしそうだし、それ以外にも全く新しいタイプの魔道具も作れたりして……。夢がぐっと広がるな。


 が、その前にわすれていたことがあった。


「一応あいつらに報告しとかないとな。俺が死んだことにされて捜索とかやられても面倒だし」


 くっそテンションが下がったが、拘束時間は少しだろうと高をくくって俺は人間達の場所へ戻った。


 ◆


 戻ってすぐ、俺は直ぐに後悔した。


「ユーガでしょ!?」


 身なりの良い少女が俺を見て早々に声を張り上げてきた。森の仲だと言うのに鬱陶しい。隣に居る兵士らしきおっさんも困惑している。俺にはおっさんの気持ちがよく分かった。


「は、はぁ」


 誰だこいつ。


「何よその顔!? 私のこと忘れたの!?」

「……どちらさんで?」


 彼女は特徴的な姿をしている。身なりの良い服装は勿論のことだが、一番目を引き付けるのは身の丈程もある巨大な剣だ。少女の小さな身体で振り回すのが少々アンバランスに見える。だが、先程の戦闘を見て居た感じ、剣に振り回されるようなことはなかった。

 あれをみれば、少女の剛腕と体幹が並外れていることが分かる。


「あ!?」


 思い出したような気がする。

 そう言えば、俺がまだ家庭崩壊になる前の頃に割とちょくちょく会っていた少女がいた。最近の馬鹿げた出来事ですっかり記憶から消去されていたが、あの少女はたしか……。

 俺は思い出すかのように、記憶の断片を言葉にしていった。


「力が強くて、いつも俺を叩いてきて、冒険譚に憧れてて、でかい剣が好きで、可愛げが無くて──」


 バシーンッ!


 何故かわからんが俺が少女に叩かれていた。

 仁王立ちした少女がムスッとした顔をしている。


「可愛げが無くて悪かったわね!?」

「今のビンタで思い出したよ。お前エルニィか……」


 暴力幼馴染との久しぶりの邂逅だった。


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