会議②
会議の参加者全員の自己紹介を終え、残るは俺だけとなった。
立ち上がって見渡す。
「じゃ、最後は俺だな。俺の名前はユーガ。つい最近まで孤児院で世話になってたガキだ。エイリアンに送られてからは、オーランドを殺してオーランドの代わりをすることにした。お前らは俺に対して色々思うところがあるだろうが、俺の命令には従ってもらう。これからよろしく」
それだけ言うと俺は座った。
俺の後ろに控えているロンガスが何か言いたげだったが気にしない。こいつが気にしている事なんて、今の俺が何を言っても無駄なことだ。
頬杖をついて話を進める。今日会議を開いた本題に入る。
「思ったよりも自己紹介が長くかかったからな。手っ取り早く行こう。ネイラの方針についてだ」
一段階、空気が重くなった気がしたが、俺は気にせず話す。
「まあ、ロンガスにある程度の話は聞いてるだろうが──」
「──え!?」
素っ頓狂な声が後ろから鳴った。
俺は後ろに首を向ける。ロンガスの弁明が始まった。
「あ、いや、ああ、すまん、話してなかった」
「……あー、俺も別に言ってなかったし良いぞ。お前があまりにも会議を順調に進めてたから俺の説明も一通りやってるもんだと思っただけだから」
「なんか、悪いな」
「いやいいよ。まあ、予めロンガスが話してたら会議する意味もなくなるしな。寧ろ言ってなくて良かったまである」
俺はコホンと咳をした。
向き直ってから、提案するようにやわらかく手のひらを見せる。
「ネイラの当分の方針だが、取り敢えずは『街の問題を解決する』方向で行こうと思ってる。旧エイリアンが街の治安を悪化させるような働きを長期に渡ってやってたからな。まずはそれをチャラにしたい。というのも、俺がネイラを創設した理由の一つにオーランドへの意趣返しがある。その一環として見てくれて構わない」
どよめきがあった。参加者がそれぞれ顔を見合わせ合っている。まるで俺が言った言葉が全く予想外だったと言わんばかりだ。
……心外である。
「で、だ。目下の問題は大きく分けて二つある。一つは食糧問題で、もう一つは治安問題だ。一先ずはこの二つの解決に努めたい。それで俺からアイデアを持ってきたんだが。……と、この辺でいったん区切った方が良いか。ここまでに質問はあるか?」
あまりにも参加者の困惑が大きかったから、一度確認のための時間を取ることにした。これから彼らには足並みを揃えて貰わないといけない以上、互いの認識に食い違いがあってはいけない。
特に、今日集まったのはそれぞれが初対面だ。余計に注意深くする必要がある。
「よろしいですか?」
一人の少女が手を挙げた。18歳ぐらいで、俺より少しだけお姉さんだ。この錚錚たるメンバーの中では最も年齢が低い。よっぽど優秀なのだろう。……確か魔道具技師会の長をしていると言っていた奴だ。
俺は発言を許可した。
「街の問題を改善するための理由として、ユーガ様はオーランドへの意趣返しと仰りました。しかし、私達はまだオーランドという方とユーガ様について詳しくありません。できればその辺りも教えてくだされば幸いです」
俺はロンガスへ眼をやった。ロンガスが首を横に振る。
どうやらロンガスは俺について大したことは話していないようだ。まあ、俺の根幹に関わる情報を俺の許可なく話すのは良くないか。
「分かった。少しだけ話す」
少し、などと言いつつ、俺は大体、かなり、殆ど、全て話してしまった。
数十分後、室内に鼻水を啜る音が複数響きわたっていた。時折叫び声のような嗚咽も聞こえてくる。
「まさか……、そんなことが……。許せません……グスッ……」
「子供にあるまじきオーラと思ったが、そこまでの地獄を見てたなら、納得だ……」
「あああああああ。まざがぁあああ。こんなああああああ!!!!!!!」
すすり泣きと号泣のミックス。会議の進行は強制的にストップされた。既に話を聞いているはずのロンガスでさえ、目尻に涙を溜めてすすり泣きをしている。
「……しまったなぁ」
そこからさらに数十分後、大体落ち着いたかなぁって頃を見計らってから、俺はテーブルをバンッと叩いて立ち上がる。片腕だとバランスが悪くて上手く立ち上がれなかった。少しだけよろける。
俺の片腕が無いことを不憫に思った奴らが、思い出したかのように再び泣き始めた。
……チッ。
俺はイラッとして叫んだ。
「そう言うのは要らねーんだよ! 俺は会議をするためにここに来たんだ! お前等の泣き顔を拝むためにきたわけじゃねえ! さっさと話を進めるぞ!」
ブンッと腕を横に振るう。その瞬間、全員の顔から嘆きの眼が消えた。
……泣くなと言ったのは俺だけど、こうも一瞬で涙を引っ込めてもらうとそれはそれで虚しいな。
こいつらはなんだかんだ言って旧エイリアンに見出された奴らだった。自分の顔を一瞬にして変えることなどわけないのだろう。
会議室に入ってきたときのような理性のある表情へと切り替わっている。末恐ろしい奴らだ。だが、そっちの方がやりやすい。
俺は深呼吸をしてから席に座った。
「ネイラの方針はさっきの通りだ。次は施策について話す。まずはこれを見てほしい。……インフィニティ」
俺はインフィニティから予め作っておいた資料を取り出した。資料は人数分の紙束だ。
「それは!?」
「……なんだその魔道具はッ!?」
何やら騒がしい奴が居たが、俺は無視した。ロンガスに頼んで資料を全員に回してもらう。
全員に行き届いたのを確認してから詳細を話す。
「そこに書いてあるのは当面の食糧問題への対処だ。この街は周囲を魔物の森に囲まれているせいで、他と比べて食料自給率が著しく低い。だから領主は毎年外部から食料を輸入しているが、今年はその量が少ないせいで、街の隅々まで食料が十分に行き届いていない。ここまでは共通認識ってことで良いよな?」
それぞれが頷く。
一部、それどころじゃない奴が居たが、俺は無視した。時間も押してるし後で誰かに話を聞いてもらえば良い。
「その紙に書いてあるのは食糧問題への改善案だ。俺は素人だからお前たちの意見を参考にしたい」
俺が考えた改善案はざっとまとめるとこんな感じだ。
街の周囲に居る魔物を狩りまくって魔物の肉を大量に得る。しかし、その魔物の肉はそのままだと食べられない。そのため、俺が考案した魔力を抜く魔道具を使って、魔物の肉を食用の肉に加工する。魔道具の大量生産までには時間がかかるため、その間は冷凍倉庫に保管する。
っと、まあ、大体こんな感じだ。
重要になるのは、魔物を狩るための冒険者ギルド等の武力組織、魔物の肉を保管するための倉庫、俺の設計した魔道具を生産するための魔道具技師会。最低でもこの三つの組織の協力が要る。
俺が資料を配ってからというもの、皆は俺の資料を舐めるように読んでいた。会話は一切なく、室内を満たすのはページをめくるための音のみ。
…………控えめに言って暇だ。予め資料を配って読んでおいて貰えば良かった。そうすればこの空虚な時間はカットできたのに。こういう準備不足が後に響いてくるんだよなぁ。まあ、邪魔するのも悪いし別の事でもするか。
インフィニティから別の資料を取り出す。
人形の名前案が書かれたものだ。面倒なことにシール達が考えてくれた名前が問題ないかどうかを俺が判断して判を押さないといけない。向こうで勝手にやってろと言ったが、ネイラの頭である俺が正式に名前を認めることに意味があると言って譲ってくれなかったのだ。
何百もの名前に責任をもって判を押さなければならない。とても面倒だ。
などと判を押していると、資料を読み終えた人がぼちぼち出てきた。
俺はくわぁと背伸びをして凝り固まった身体をほぐす。ぽきぽきと良い音が鳴って気持ちが良い。
「どうだったか聞かせてもらおうかな。ああそうだ、俺に遠慮せずに率直な意見を言ってくれよ。これは命令だ。もし俺に忖度して嘘を付いたらどうなるか覚悟しろよ」
冒険者ギルド長と魔道具技師会の長が視線を合わせていた。眼で何やらやり取りをしてから、冒険者ギルド長のおっさんが俺に向けて姿勢を正す。
二人の間で行われたやり取りは意味不明だが、話すのはおっさんで良いようだ。
おっさんはドヤ顔に近い顔をしていた。強い声色で言う。
「これは行ける!」
俺はおっさんの言葉を疑った。
「……ほんとにかぁ? 俺に忖度してるんじゃないだろうな?」
「大丈夫だ。行ける。多少荒はあるが、その辺は俺達の間で十分修正できる範囲だ」
「……根拠を聞こうか」
俺は俺自身を過大評価しない。それは俺の生来の性質でもあるが、エイリアンとの戦闘で身に着けた処世術でもある。
だから、俺は俺自身の理論を大して信用していない。魔道具に関してなら多少は強気になるだろうが、食糧問題に関しては俺は全くの素人だ。弱気になるのも当然だろう。
でかい態度で自分に自信が無いとハキハキ話す俺の姿は、彼らにさぞ歪に見えているはずだ。だというのに、ここにいる誰もが嘲笑を見せてこない。
俺が感心していると、ギルド長のおっさんは魔道具技師会の長である若き少女に目配せをしていた。それだけで伝わっているようだ。少女が首肯する。
「では、私の方から。よろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
少女は魔道具のページを開いた。俺が考案して設計した量産型の魔物の肉の加工魔道具のページだ。
「こちらの魔道具の設計はユーガ様がなさったとありますが、他に協力者などはいらっしゃいますか?」
「そうだな……。エイリアンにあった魔道具を参考にはしたな。それを大量生産用に簡略化しただけだ。個人的にかなり精度が良いと思うんだが」
「仰る通りです。この魔道具は設計通りだと不備がないように見えます。……実際に作ってみないことには真実の程はわかりませんが、少なくとも私の眼には懸念点はありません」
……そりゃあ嬉しいな。俺以外の魔道具技師に誉められたのはこれが初めてだし。それに、こんなに綺麗な人に誉めてもらえるなんて儲けもんだ。
「それが決め手って感じか?」
「はい、これが無かったら私もそこのおっさんも首を傾けていたでしょう」
なるほどね。
俺はほんの少しだけ調子に乗った。だが俺は一流のガキだったので調子に乗っているのを悟られないように能面を作った。
「良いだろう。施策に関しては概ね俺の出した資料に則ってもらう。利益配分やら今後の予定やら詳細な点はそっちの方で都合してくれ。丁度、ここには必要な人材が揃ってる。……おっさん。えーっと、冒険者ギルド長のおっさん」
「何か」
「一先ず、ネイラの傘下組織はお前を中心にして回せ。俺に確認を取るのは最低限、お前が必要だと判断したときだけで良い」
面倒なことは他人に押し付けるに限る。俺にも個人的にしたいことがあるしな。
「了解した。……だが、何故俺を?」
「お前が一番肝が据わってたからな。そこの女も悪くないが……、裏方の魔道具技師ってのもあって、お前には劣る」
おっさんが魔道具技師の少女にドヤ顔をかました。先程から薄々感じているが、多分この二人は既知の間柄だろう。
「というわけだ。今日の会議はここまでとする。各自、さっき話したとおりに協力してことに取り組むこと。それと、我がネイラは常に街の発展に貢献したいと考えている。何かあれば俺にまで報告しろ」
他には……ないな。
俺は立ち上がって散会した。ロンガスに後を任せて部屋を出る……ところで、声をかけられた。
「よろしいでしょうか?」
魔道具技師会の長を名乗った少女だ。
「どうかしたか?」
「不躾ですが、よろしければ一度私と魔道具について話をする場を設けてはもらえないでしょうか?」
「んー、まあ、悪くないな」
魔道具は今は俺の生活の一部どころか八部にまで食い込んできている。興味が無いと一蹴するのは難しかった。
少女がパッと花のような笑みを浮かべる。堅苦しそうな口調ばかりが目立っていたが、こんな顔も出来たのか。……中々悪くない。
「ありがとうございます! いつでも私らの工房にいらしてください!」
「ああ、割と近いうちに伺うとするよ」
少女がひっそりとグッと拳を握っている。年相応の愛嬌があった。




