会議①
アーガスタ街、とある店の会議室。
今日は秘密組織ネイラの初の会議である。秘密組織ネイラはまだ生まれてから十数日しか経っていない未だ初々しい赤子のような組織だ。しかし、その前身である旧エイリアンはこの街で最も大きな組織だったために、ネイラの実体は把握しきれないほどに巨大である。
今回俺が会議をする理由はその把握しきれない実体を把握し、ネイラの今後の方針を共有させるためである。
俺は予定の時間になると、指定していた部屋に向かった。
「さーて、どんな奴が来てるか楽しみだな」
会議室にはロンガスに頼んでネイラの傘下組織の中心人物を集めてもらっている。その辺は全てロンガスに頼んでいるため、俺はどんな人物が来るのかは把握していない。一応参加者の名簿は見せてもらったが、よくわからなかったのだ。
俺はまだ子供な上に世間知らずだ。
どこどこの店の店主だったり、過疎地の権力者とか言われても知らん。
そのため、今日はその辺の自己紹介もさせる予定だ。
指定した会議室の前に着いた。念のため銃の魔道具を腰につけてるのを確認する。左腕の製作が間に合わなかったのは残念だが、何かあったとしても大丈夫だろう。なんせ俺はあのオーランドを殺した男だ。大抵のことはどうとでもなる。
ドアを押して、俺は部屋に入った。
「どーも、みんな集まってるか?」
第一印象は大事だ。俺はニッコニコの表情で挨拶する。
が、部屋はやけに重苦しかった。
十数人の風格ある者達が俺の方を無表情な顔で見てくる。俺の気分はまるで牢屋を管理している刑務官だ。彼らの俺を見る目は完全に敵を見る目である。
「え、どうしたんだ?」
俺はいそいそと空いていた椅子に向かった。椅子の近くに控えていたロンガスに耳打ちする。
「何この反応? すっげぇ嫌な雰囲気なんだけど。お前何か言った?」
「いや、これはしょうがないというか。一応俺からもユーガのことは話してあるんだが、やっぱり前任のオーランドの印象があるから……。できればその辺の誤解も解いておいてほしい」
オーランドか……。確かに、ここに集まってる奴は最低でも一度はオーランドに会ってる奴らだからな。そのオーランドを殺して後釜に入った俺のことを危険視するのは当然といえば当然か。
飲食店で俺に好印象を抱いていた店主は例外の部類で、警戒するのが普通だよな。
まずはロンガスの言う通り、その誤解から解くとするか。……と言っても、人の印象を決めるのは大概が初対面だ。そしてその初対面は既に使い果たした。
……まあぼちぼちやっていくか。
俺は席に座った。参加者の名簿をポンと置くと、「さて」と切り出した。
「今日は秘密組織ネイラの記念すべき最初の会議に参加してくれたこと感謝する。……自分で秘密組織って言うの恥ずかしいな。まあ、なるべく秘密にしたいから秘密組織で良いんだけど。っと、そんなのはどうでも良いんだよ。あー、会議に関してだが、ほんとはもっと早くに開ければ良かったんだが、俺の方で諸事情があってだな。少し遅れてこの日にさせてもらった」
参加者たちの視線が痛い。
単に恐怖の眼だけで俺を見てるのなら良いが、俺を品定めしていたり、俺の挙動から実力を測ろうとしていたりする視線もあるせいで落ち着かない。
流石は旧エイリアン傘下の中心人物達だ。色んな奴らがいる。
「今日の内容は二つ、と思ってたけど三つになった。先ずはネイラの方針についてだ。次に取り敢えずの施策。最後に、俺のイメージの改善だ」
どんよりとした空気が漂っている。気に入らない空気だ。その中心に俺がいるとなると余計に気に入らない。
「お前らがオーランドにどんな印象を持っていたのかは大体予想が付くが、それに俺を当てはめてもらったら困る。今後のことを考えると今のうちに俺のイメージ改善を図った方が良いと判断した。ってなわけで、先ずはお前らに自己紹介をしてもらおうと思う。その時に各自、俺のイメージについても口にするようにしてくれ。俺の方でもお前等の考えを知っておきたいからな。じゃ、先ずはロンガス、お前からな」
ということで自己紹介が始まった。
◆
三人の自己紹介が終わった。倉庫の管理をしてる奴、飲食店を経営してる奴、物流を管理してる商会の奴。色んな奴がいた。
四人目、無精ひげのカッコよい40代ぐらいのおっさんが立った。その瞬間、周囲が急にソワソワし始める。かなり興味深そうにおっさんの話に耳を傾けていた。
おっさんが俺に向いて、自己紹介を始める。
「俺はこの街の冒険者ギルド長をやらせてもらってる。他の奴も言ってたが、正直あの人を殺したのが少年だってのには驚いた。というより、あの人が死ぬとは思えない。うちの戦力を全てかき集めても殺せる自信が無い」
どよめきが上がる。俺もどよめいていた。
このおっさんがギルド長なのかよ……。それ以前にエイリアンの傘下にギルド長ってやばすぎだろ。何があってギルド長を傘下に入れたんだよ。
と、おっさんの纏うオーラの色が変わった。
「なあ、ユーガ殿。その実力、我々に見せてもらえないだろうか」
「あ?」
何だって?
「我々は突然のことでまだ戸惑っている。つい最近まであの人の名前が『オーランド』であることすら知らなかったし、組織に関わりを持っている奴らがこんなに居ることすら知らなかった。てっきりこの街であの人の下についている組織は俺だけだと思ってた。今回のことが発覚してから十数日、事の重大さで毎日頭が痛い」
他の者もおっさんの意見に強く頷いている。これが総意であるのは間違いないようだ。
「俺が実力を見せれば、俺を認めてやると? そう、解釈しても良いのか?」
「ああ、少なくとも俺はユーガ殿に従おう」
「……勘違いするなよ」
少し、認識の食い違いがあるようだ。
「俺に従うのは絶対だ。そこに俺の印象の云々は入ってこない。お前たちが俺に従わないのなら、俺はお前たちを世間に晒上げるつもりでいる」
「晒上げる?」
「ああ、こっちにはお前たちの何をしたのか全部あるからな。エイリアン時代にお前たちがオーランドの指示に従っていた内容を俺は全て知っている」
おっさんを筆頭に、よく理解していない奴らが呆けた顔をした。一部、理解できている者は厳しそうに下唇を噛んだり苦い顔をしている。
俺はギルド長のおっさんら理解していない奴らに脅しをかけた。
「お前たちがオーランドの指示でしていたことは全て普通の事だった。冒険者ギルドの場合は、そうだな、魔物の討伐や護衛任務か? その辺りの事を指示されてたんじゃないか? 他にもあるだろうが、まあ、細かい内容はどうでも良い。問題なのは、それを指示したのがオーランドだってことだ」
「……誰が指示してようが、指示している内容に悪い所はない。俺は、ユーガ殿が何を言っているのかわからない。商人やら役人やらの護衛、魔物の討伐の指示は確かにあった。だが、それは悪いことじゃないはずだ」
「お前がそう思ってるだけだ。実際は裏に何らかの悪い意味がある」
ロンガスが管理していた倉庫は物流をコントロールして市場を僅かに操作するために運用されていた。”僅か”であるため、倉庫一つでは大した影響は無かっただろうが、その”僅か”が他にいくつもあれば、街はどんどん悪い方へ進んでいく。
恐らく、冒険者ギルドに下っていた指令も同じだ。
それ単体では何の効力もないが、他と組み合わされば徐々に毒となるような曖昧なものだろう。
「悪い意味、というのは?」
「さあな。でも、何も意味が無いのならオーランドがわざわざお前に指示を出したりしないだろ。……旧エイリアンの記録を漁ってやろうか? お前たちが何のために動かされていたのか」
長い沈黙があった。
頭の中で可能性を追及しているのだろう。
その果てに重々しく答えを出す。血の気が引いている。
「……いや、遠慮しておく。心当たりがあった」
「そうか。ならいい。記録は漁らないことにしてやる。じゃあ、次の人は自己紹介をしてくれ」
その後の自己紹介はスムーズに進んだ。
参加者の中で冒険者ギルド長以外にめぼしいのは、複数ある魔道具技師会で最も大きな技師会の長、それと豪商の長だった。
俺が思ってたよりもかなり良い人選だ。これなら満足のいく施策ができそうだ。
俺は重たい空気の中、場違いにもニッと笑った。




