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聡明な子供たち


 秘密組織ネイラ(旧エイリアン)。地下施設。食事処。


 子供たちの様子を見に来ている。子供たちというのは孤児院から俺と一緒にエイリアンに派遣されてきた子供たちだ。

 ゲンが死んでしまったから、子供たちの面倒は代わりに俺が見ることに決めた。ゲンを死なせてしまったせめてもの償いだ。


 今は孤児院に返すまでの間に良い飯を食わせるため、食事処に集めている。ネイラの食事は驚くほど美味い。旧エイリアンのコックの人形が作っているとあって、かなりの絶品だ。子供たちも喜んでくれている頃だろう。


「よぉ、腹いっぱい食ってるかぁ?」


 俺は景気よく声を張って中に入った。

 だが、中はそれほど良い空気ではなかった。


「おい! それは俺のだぞ!」

「俺のとかないよ! これはみんなのものだよ!」

「ちょっと男子! ケンカしないでよ!」


 みなが声を上げて料理を奪い合っている。

 俺は仲介に入った。


「おいおい、料理は沢山あるんだからそんなに喧嘩するなよ」


 しかし、誰も俺の声を聞こうとはしなかった。

 子供たちの中で最も年長者であるはずのシールでさえも俺の声に全く反応していない。全員食事に夢中のようだ。


「まあ、ここの料理は美味いからな」


 近くには白い帽子を被った少女……人形が子供たちを見守るように立っていた。

 俺の視線に気付いた人形が近寄ってくる。


「マスター、今日はまだ何も食べていないようですが」

「ん? 後でな」

「そう言って、昨日は一食しかしていませんよね?」

「……最近魔道具弄りばかりやってるからな。でも必要なことだし」

「はぁ。仕方ありませんね」


 人形がどこからともなくフライパンを取り出した。


 状況を即座に判断した俺は流れるように手を上げて降参をアピールした。


「まて、わかった。食べるから。それで良いよな?」


 俺の思いが伝わったようだ。人形が渋々といった風にフライパンを仕舞う。よっぽど手に持ったフライパンを使いたかったのか、何だか残念そうだった。

 ついこの間まで物言わぬ人形だったとは思えない。


「もう少しぐらい駄々をコネてくださっても良かったのですが」

「…………やっぱお前たちに自由意志を持たせたのは間違いだったか?」


 ガンッ!


「痛いなぁ」

「マスターはもっと私達のことを考えるべきです。前のマスターよりは考えてくださってますが、この程度では足りません」

「はぁ、まあ、考えとくよ」


 ガンッ!


「痛いなぁ」

「というわけです。今日のところは見逃しますが、後日、伺うことにします。それと、食事は欠かさず毎日三食しっかり食べてください」

「……わ、わかった」


 人形の癖に主に堂々と意見してくるとは……。これも俺が組み込んだ仕掛けが働いているからなのだろうが、少しやり過ぎてる気がする。

 次に整備するときにでも修正した方が良いか?


「ユーガって意外に嫁さんの尻に敷かれるタイプ?」


 シールだ。俺が人形にフライパンで頭を叩かれたのを見ていたようだ。他の子供たちと一緒になって俺の醜態に首をかしげている。


「うーん、そもそも嫁がいないタイプだな。俺みたいなのが結婚できるとは思えない」

「そうかな? 私が見てる感じだとユーガは頑張り屋でモテそうだけど」

「モテるも何も、俺は人付き合いが殆どないぞ。人間として欠けてる部分が多すぎる。腕もないしな」


 俺は自虐気味に左肩を見せた。そこには本来あるはずの腕がなく、空虚な隙間が空いている。


「あのおもちゃの変な腕はどうしたの?」

「持ち主に返したよ。今度は一から作らないといけない。精々良いものを作るさ。っと、俺の話は良いんだよ。今日はお前等の様子を見に来たんだ。今後の予定も立てたい」


 そう、俺は子供たちがこれからどうしていくかの予定を決めに来た。……ほんとはゲンがいなくなって子供たちがどうしているかも気になってたんだが、俺が気にするまでもなかったようだ。

 完全に立ち直っているのかはわからないが、パッと見は元気に食事をしている。悲しみに暮れて無気力になるようなことはなっていない。


「私達の予定って? これからもここに居るんじゃないの?」

「そんなわけないだろ。お前たちはしばらくしたら孤児院に無事に返す。それが俺の務めだと思ってるからな。ゲンに誓って、お前たちが普通に生きていけるようにサポートするつもりだ」


 この秘密組織ネイラはまだ全貌を把握しきれていない。そんな怪しい組織に留めておくのは厳しい。

 叩きだすようなやり方で申し訳ないと思うが、俺の心情としてはさっさと孤児院に返したい。


 子供たちが一斉に嫌そうな顔をした。


「俺は嫌だぞ! あんな飯が不味い場所に帰るなんて。それに今の街の雰囲気は良くない! そんな中、帰るのは……」


 言いたいことは分かる。

 今の街の状況は正直良くない。エイリアンの問題は片付いたが、食糧問題と治安問題は酷くなる一方だ。その中で孤児院の子供が生きていくのは厳しいだろう。

 それについては俺も考慮している。


 ゲンから預かった子供たちだ。最低限以上の生活になるように努力するつもりだ。

 俺は現在の構想を少しだけ語った。


「秘密組織ネイラはこの街、アーガスタ街を立て直すために作った組織だ。食糧問題とそれに伴う治安問題はネイラの方で解決出来る範囲だと思っている」


 ごくりと唾をのむ音がした。


「お前たちもこの施設を少しは見ただろ? 旧エイリアンはちょっとやそっとの組織じゃなかった。それを丸々吸収したネイラはこの街でもっとも巨大な組織だ。もしかしたら、貴族よりも大きな影響力を持っているかもしれない。そんなネイラがこの街を良くしようって動くんだ。安心しろ。お前たちの生活は確実に向上する」


 最強の組織がバックについた子供など、この街はそれ以上に幸福な子供はいないだろう。俺はニッと笑みを浮かべた。

 人形が持ってきた肉にフォークを突き刺す。それを子供たちに見せつけるように掲げた。

 子供たちは何故か俺に怯えていた。


「この肉は元々は魔物の肉だったんだ。それをネイラの魔道具で加工して食えるようにしてる。……この意味が分かるか?」

「いや、わかんない」

「あー、説明するのは面倒だし良いか。結局だ、結局のところ俺がいるからお前たちは安心しろ」


 安心しろと言ったものの、子供たちは何故か委縮していて安心しているようには見えない。さっきまではしゃいでいた癖に急にゲンが恋しくなったのだろうか。

 ……違うか。なら良い。無理に聞くようなことでもない。

 俺は肉を口に放り込んで席を立った。


 ガンッ!


 フライパンで脳天をぶっ叩かれたような音がした。

 白い帽子の人形が俺の前に立っている。


「行儀が悪いですよ。食べながら立たないでください」

「悪かったよ……」


 言って叩かれた箇所を撫でる。

 こいつらマスターのことを何だとおもってやがるんだ。


 くすくすと笑い声が耳に入った。笑われていると言うのに不快感が無い。寧ろ、親しみのあるような温かいものだ。

 シールが笑っている口元を隠しながらぺこぺこと頭を下げている。


「ふふ、ごめん、ごめんね。別に馬鹿にしてるわけじゃないんだけど。なんか、ほっとしたっていうか」

「なにが?」

「えっとね。ほんとはちょっとユーガのことが怖かったの。だって、ユーガってあの怖い顔したイケメンの人を殺したんでしょ? それまでの話とか、ミコちゃん? に聞いたけど、ほんとに凄かったみたいで。腕も亡くなっちゃってるし、だから……」


 ああ、俺が別人になって返ってきたから怯えてたのか。


「でもね、今はもう、大丈夫だよ。だって、ユーガは馬鹿みたいだから。部下のシイナに叩かれてるのとかも、なんかおかしいし……。ふふ」

「シイナ?」


 誰だそれ? そんな奴はいなかったと思うけど。


「そこのコックの人形さんに名前を付けてあげたの。名前を聞いたらユーガが名前を付けてくれないせいで、人形さんたちはみんな無名なんだって。正確にはc7? っていうナンバーがあるみたいなんだけど、それだと味気ないからシイナって名前にした。良いよね?」

「まあ、構わないけど」


 俺はコックの人形……現シイナに顔を向けた。


 どや顔だった。名前を貰えたのがよっぽどだったようだ。


「じゃあ、俺もシイナって呼んでいいか?」


 シイナはフライパンを胸の前で持って、ニコッと微笑んだ。


「勿論ですよ、マスター」

「ありがとう、シイナ。ちょっとだけお前たちのことが理解できた気がするよ」

「でしたら他の私達にも名前をつけてくださいね」


 人形たちの正確な数を俺は把握できていないが、ざっと数百はいるはずだ。


「あ、ああ、考えとく……、いや、やるよ。……今は忙しいからその内だけど」

「今の言葉、記録しましたよ? しっかりと複数に分けて」

「……シール達にも協力してもらって、全員分やります」


 バンッとテーブルに両手をついたシールがはしゃぐ。


「じゃあ! その間はここに私達も置いてくれるってことで良いの!?」


 そう、なるな……。


 正直なところ、出来るだけ早く子供たちを外に出したかったが、シールの嬉しそうな笑顔には勝てなかった。


「そういうことにしよう。ロンガスと孤児院の方には俺の方から話しとくから、もうしばらくお前らはここに居て良いぞ」

「やったー!!!!」


 現在、孤児院には少しの間だけ雇用契約を伸ばしてもらっている。その際にかなり金を要求してきた。また伸ばしてもらうとなると結構要求してくるだろう。

 金に困っているわけではないため、孤児院程度が要求してくる額はちっとも痛くはないのだが、孤児院の中には子供たちの安否を心配している人もいる。

 一度顔を見せるようなことは必要だろう。


「何かあれば俺に言え。大抵のことは何とかできるはずだ」


 なんたって俺はこの街で最も力を持った人間だからな。


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