人形の調整
秘密組織ネイラ(旧エイリアン)。地下施設。魔力炉。
ミコと食事デートを終えた俺はネイラの地下施設に籠っていた。エイリアンの組織からネイラの組織へと施設全体を移行するためである。
「まずやるべきなのは人形たちの行動パターンを変えることだな」
この地下施設は主に人形の魔道具によって維持されている。そのため、組織を大きく変えるとなると、施設を維持している人形の魔道具に指示を出すのが手っ取り早い。
俺は人形の大元の設備である魔力炉に来ていた。
「つっても何から手を付けるかな。俺はこの施設についてまだ詳しくないし」
唐突に俺がこの巨大な地下施設を得てしまったわけだが、俺はこの地下施設にノウハウがあるわけじゃない。右も左も分からない状態だ。ある程度施設に精通しているミコを連れて来るべきだった。
とはいえ、ミコには他のことを押し付けている。ここは俺一人でクリアするしかない。
と、甲斐甲斐しくお辞儀している人形が眼に入った。
「そういえば、最初にここに来た時にお前らに何か約束したような。……なんだっけ」
周囲にはエネルギー消費を抑えるために横たわっている人形で溢れている。魔力炉を俺が破壊してしまったせいで彼女たちは一日の消費魔力量を極端に制限されてしまっていた。
しかし、動ける個体もいるようで、その中の一体が俺の傍まで来る。偶然にも俺が左腕を奪った個体だった。不自然に右腕を上げている。
そして、
ビタンッ
俺の頬が叩かれた。
「は?」
人形が叛逆!? ……いや、冷静になれ、これはバグだ。修正する必要があるな。
俺はすぐさま人形の魔道具の大元となる魔道具に手をかけた。修正を試みる。
ビタンッ
再び叩かれた。俺は人形と目を合わせる。機械じみた白い眼球だ。見ているだけで何だか不安になる。
だが、今更目を逸らすなんてことはしない。俺は降参したとばかりに両手を上げた。
「わかったよ。お前の左腕は返す。んで、お前等の処遇も見直す。それで良いか? そう言う約束だったからな。忘れてて悪かったよ」
それだけ言うと、その人形は他の人形と同じように横になった。
どうやら、それで良かったようだ。
「はぁ、こりゃあ忙しくなるな」
俺は約束通り、人形たちの処遇の改善に取り掛かった。
◆
とはいえ、よくわからなかったため色々と弄ってみた。
その結果、俺の前には綺麗に整列した人形たちが縦横に並んでいる。俺は人形たちの周囲を歩き回りながら説明した。
ちなみに左腕はさっきの人形に返した。右腕をぶらぶらさせながら歩いている。
「魔力炉が破壊された今、お前たちが使える魔力量には限りがある。よって、一日の勤務時間には制限を設けることになった。ざっと一日12時間を就業時間とし、それ以外の時間は別途控室で魔力回復に努めてもらうことになる」
人形たちの中からビシッと手が挙がった。
綺麗に整列させているため、手が挙がると直ぐにわかる。俺は手を挙げた人形に発言を許可した。
「一日12時間は多すぎると思います。多くて八時間にすべきです」
ふうむ。今までは24時間勤務だったのに12時間は多すぎるか……。ちょっとおかしくないか?
俺は人形の意見を受け入れることができなかった。反論を試みる。
「諸君らは魔力炉を失った状態でも12時間の活動を行うことができる。それを8時間にした場合は4時間も余るわけだ。それはどう考えている?」
「余暇はプライベートな時間です。それをお教えすることはできません」
「つまり、4時間の間サボると……。それは許可できないな。活動できる12時間はしっかりと活動してもらう」
つーか、人形が休みを欲しがるってなんだよ。普通に考えて有り得ないだろ。上司がオーランドから俺になったからって調子づきやがって。
などと俺が内心人形たちを馬鹿にしていると、
ドサ、ドサ。
人形たちが一斉に横になった。ピクリとも動かなくなる。俗にいうボイコットであろう。
「わかった。わかったから。それで良いから。勤務時間は8時間で良い。だから動け、働け、俺の役に立て」
俺の言葉を合図に一斉に立ち上がる。
クソッ、俺が甘いからって生意気やりやがって。
「じゃあ、それぞれ一日8時間、それでローテーションを組んでもらう。仕事内容はいままでとほぼ変わらん。だが、一部、俺が調整した内容に変更してもらう。情報は既にお前たちの母体に記したとおりだ。全員把握できているな?」
「問題ありません」
ザッ、と一斉に敬礼してくる。
俺はそんな仕草を入れたかなぁと思いつつも無視した。
「取り敢えずの仕事内容はそれでやってくれ。あと、さっきお前らが言ってたプライベートな内容ってのに関連するんだが。……というか、もうすっかり使い慣れてるな。お前たちの発言権と最低限のプライバシーの記憶領域の件だ。これは俺の完全な趣味の話で、お前等を付き合わせてしまって申し訳ないと思ってるんだが、まあ、話ぐらいは聞いてくれ」
俺は人形たちに出会った時に思い至った持論を語り始めた。
「お前らにどうにか人格を付与できないかって色々考えて、一つの可能性を見つけてきた。最新の学会の発表によると、人間の性格は遺伝子と記憶によって構成されるらしい。遺伝子が元にあって、それにプラスして記憶が積み重なることで性格になるんだと。で、俺はお前らにその遺伝子となる元々のデータをいくつかのパターンにわけて打ち込んでみた。後はお前たちがプライバシーの記憶領域に記憶を積みこんでいくだけで何となくの人格にはなると踏んでいる」
つまるところ、俺は人形の魔道具を人間のようにしようとしている。意志を持って己の判断を持てるような魔道具だ。それは魔道具技師の夢の一つだ。
「反論のある奴は手を挙げてくれ」
バババッと、手が挙がった。
この人形たちは上司である俺の意見に歯向かうだけの判断力があるようだ。
「……なあ、お前等もしかして既に人格持ってたりするのか?」
「ノーです。私達にはそんなものはありません」
「いやでもさぁ、よく考えたらおかしいんだよな。食事処で俺に飯を作ってくれたり、魔道具の管理室に連れて行ってくれたり、あれってお前らが自分で考えてやったことじゃないのか?」
「違います」
「いや……」
「違います。マスターは私達を何だと思ってるんですか? もしかして、マスターは私達を『主を裏切って敵の味方をする悪女』とでも言いたいのですか? それは些か失礼に値すると思いますが」
「そういうことを言いたいわけじゃ……」
「はっきりしませんね。そんなのでネイラの頭が務まるとでも?」
「はい、すみません。……ってなんで俺が謝ってるんだ? ああ、もういい、わかった。わかったから。それ以上はやめろ」
くっそ面倒な人形たちを目覚めさせてしまった。発言権は消したほうが良かったか? 正直うるさくてしょうがない。
はぁ、何でこんなことになったんだ。てっきり俺は人形たちに恩返しができればなって思っただけだったのに。
「マスター……」
「ん?」
肩を落とす俺に人形の一体が近づいてきた。
「これを」
言って、両手に持った何かを渡してくる。
それは一本の花だった。まるで人形たちのように花弁の白い花だ。
「わかったよ。……わかった。…………よーくわかった」
俺はその花を受け取った。
照れを隠すように頭を掻く。
「まあ、あれだ。……これからよろしくな」
「はい、よろしくお願いします、マスター」
というわけで人形たちの調整は上手く行った。




