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デート


 話は一通り纏まった。今俺は僅かな休養を取るために倉庫の外に出ている。

 倉庫の外ということはつまり、


 お天道様の下である。


「あー、生き返る」


 隣には真っ白な肌のミコがいる。日焼けがあれだなと一瞬思ったが、面倒だったので指摘しなかった。まあ、俺なら肌を焼いたミコでも可愛いと思える。

 つまりは問題はない。


「ミコは日光に当たったことがないんだっけ? 災難だったけど、よくそれで狂わずにいられたよな」

「ユーガみたいに軟弱じゃないから。ミコは太陽が無くても生きていける」

「ほーん、ミコは丈夫に作られてるんだな」


 ミコは巫女だ。そういうこともあるだろう。


「でも、なんかそれは寂しいな」

「ユーガは自称人間不信だったくせに」

「良いだろ別に。俺は独りでも良いけど、ミコには寂しい思いはしてほしくないんだよ」

「狂ってるね」

「悪かったな」

「……悪くない」


 俺はだらーっと身体を伸ばした。ここは倉庫の上だ。俺が伸びても誰も文句を言ってくる奴はいない。思う存分光合成が出来るスーパースポットだ。


「そっか。そりゃあ良かったよ」


 陽の光が身体に吸収されていくのを実感できる。全身の疲れが消えてゆく。

 日光を長らく浴びてなかったが、これは確かに長期間浴びてないとストレスが溜まるな。地下に籠っていた時のどんよりとした気持ちは日光を浴びてなかったからかもしれないって本気で思ってくる。


 俺はごろりと身体を転がした。ミコの太ももに手をおいて、ミコの顔が見えるように見上げる。下から見ても可愛い顔は変わらない。ついでに深い闇の眼も下から見ても変わらなかった。


「孤児院の子供たちはもうしばらくネイラで預かることにした。ゲンが死んだこととかオーランドの事を外に漏らさないように教育しないといけないからな」

「魔道具ですれば?」

「それは考えたけど、魔道具で無理矢理脳内を弄るのは危険がある。もちろん、最後には魔道具の処置をするつもりではあるけど、本人の意志と同調する命令は脳に副作用を及ぼしにくいんだ」

「ミコにいう必要あった?」


 俺は苦笑した。


「分かってて言ってるだろ。ミコには知っててほしかったからだよ。お前は俺にとって特別なんだ。………………あ、これを俺に言わせたいから言ったのか?」


 ミコがクスクスと笑う。


「もっと早く気付けばよかった。ミコの勝ち」

「わーったよ。ミコの勝ちだ。って、何が勝ちなんだ?」

「ん、」


 ミコが遠くを指さした。そっちの方角は、大通りの方だ。飲食店や宿、武器屋とか冒険者ギルドなどの様々な店が立ち並んでいる。

 街の治安が悪くなっても未だに活気のある道だ。いや、唯一の活気ある道と言ったほうが正しいか。


「あれが、どうしたんだ?」

「行きたい」

「そうなのか」


 べしッ、と頭を叩かれた。


「ミコが勝ったから連れてって。外に出たのにここから出られないのはつまらない」


 ミコはお怒りだ。ぷんすかと俺の頭をドラムのように叩く。


「あー、わかったわかった。わかったから。連れてくから。それで良いだろ? 叩くのはやめてくれ」

「ん」


 強く頷く。

 そのまま俺の手を強く引いた。少女とは思えないほどの力で俺の身体が無理矢理に起こされる。


「ちょ、おいおい、今からか?」

「ん」


 今かららしい。俺は今日ゆっくりしようと思ってたのにとんだ仕打ちである。だがまあ、ミコがやりたいと言い出したのはこれが初めてだ。

 叶えてやらんでもない。


「いいぜ。じゃあ、今から行くか」


 ということで俺は地下から上がって早々に街へ出向く羽目になってしまった。


 ◆


 通りはとても多くの人でうるさいぐらいに賑わっていた。この中から二、三人攫っても誰も気づかないだろうと思う程度には人が多い。

 まるでゴミのようだ。

 俺とミコはそんなゴミ達をかき分けながら飲食店を探す。


 ……にしてもやけに多いな。治安が悪いのなら全員家の中にいろよ。外に出てくるなよ。っていうかあれ? なんか俺達の方にゴミの流れが来てないか? 何かのイベントでもあってるのか?


 ミコもかなりイラついていた。自分から街に出たいを言い出したのにも関わらず、ストレスを溜めている。

 はぐれないようにと繋いでいる手が痛いぐらいに握られていた。

 柔らかい少女の感触なのに、今は痛すぎて感覚が半分無くなってしまっている。虚しい。


「ゴミ共が。ユーガ、掃除して」

「無理に決まってるだろ。……にしても何でこんなに多いんだ?」

「……気付いてないの?」

「ん? ミコは何かわかるのか?」

「はぁ、ユーガが無能だからこんな羽目に。……ゴミがミコを見てる。理由は分からないけど」


 みてる? あ。


 ミコに言われて初めて俺は周囲の人の眼を見た。ミコのいう通り確かに道行く人がミコを視線で追っている。

 俺は他人に対して僅かな苦手意識を持っているから、必要が無い時は人の眼を見ないようにしている。そのせいで気付けなかったのだろう。


 ミコがぼそっと呟いた。


「チッ、人間不信が、もっと早くに気付けよ」


 相当にお怒りである。見たことないぐらい不機嫌そうな顔でやつれた声を吐いている。ミコは今まで碌に人間と関わってこなかった。だから人ゴミは慣れない環境なのだろう。ストレスが溜まるのも仕方がない。

 ……にしても何でミコが衆目を浴びるんだ? ミコが巫女なのは知られてないはず……。いや、見た目の問題か。ミコはそんじょそこらの美人よりも可愛いから、特に男の眼は簡単に奪ってしまう。


「みんなミコが可愛いから見てるみたいだな。良かったんじゃないか?」

「チッ、良くない」

「さいですか」


 誉めたというのに、ミコのおかんむりは晴れなかった。


「ユーガ以外のそういうのはいらないから。全部ゴミ」

「……さいですか」


 え。嬉しい。


 俺は心躍る心を隠すようにそっけない反応をした。ぎゅっとつないだ手を更に強く握る。日光を浴びたお陰か、俺の心は何だかポカポカしていた。

 ちょっと前の暗い気分が嘘のように抜けている。


「少し強引に行くぞ」


 良い所を見せたい。そんな気持ちがあった。こんな感情がまだ俺に残っていたのが驚きだが、残っていたのだから仕方がない。

 俺はミコの手を引いて通りを思いっきり駆けた。


 ◆


 食事処は少しおしゃれなところにしてみた。この街なら大概の人が知ってるような有名な店だ。この街に観光客などという洒落た人はほぼ存在しないが、観光客が来たならこの街の住民は皆がこの店を勧めるだろうという店でもある。


 そのため少しばかりお金が弾むのだが、今の俺はただのガキではない。一組織のトップだ。お金にはかなりの余裕がある。

 オーランドの貯えをざっと見た感じ、この街の数年分の税金分はあるかもしれない。それだけじゃなく、魔道具を換金すれば更に増えることになる。


 今の俺はちょっとした小金持ち気分だ。


「どんなもんだ」


 えっへんと胸を張ってドヤ顔を決める。


「キモイ」

「ストレートだな。少しは優しい言葉も覚えてくれ」


 ミコはこれから俺やロンガスのような光の心を持った優しい人たちと共に過ごすことになる。彼らの影響を受ければ言葉遣いが柔らかくなることも期待できるだろう。未来は明るい。


「ユーガの言葉がゴミだから無理だと思う」

「俺の言葉はそんなに汚くないぞ。少なくともオーランドみたいな糞野郎よりは綺麗な言葉を使ってるつもりだ」

「綺麗な言葉を使ってる人はクソなんて言わない」

「……お見苦しい所をお見せしました」

「それで良い。そのぐらい腰が低い方が踏みつけやすい」

「やっぱミコに綺麗な言葉を使うのは無理だって!」


 素で煽ってくるミコに汚い言葉を使うなというのは難しい注文すぎる。俺は諦めた。ミコの言葉遣いの矯正はロンガスや孤児院の少女シールにでも頼むとしよう。


「……お客様?」


 おっと、ここは店の前だった。店員が俺達を見て戸惑っている。なんなら客じゃないなら邪魔だからどっか行けと言われてるような気もする。

 俺は直ぐに身なりを整えた。


「今は空いてますか? 二人なんだけど」


「ええ、空いてますよ。こちらへどうぞ」


 俺達は店の中に案内された。座ってからメニューを貰う。俺はメニュー表をミコに渡した。


「何でも頼んで良いぞ。金は無限にあるから」


 などと格好つけながらも、俺は貧乏性が祟ってちらっとお品書きにある料金を見た。


 ……は? なんか相場よりも数倍ぐらい高くね?


 ガタッ。あまりの驚きに思わず席を立ってしまった。……直ぐに着席する。俺は頭を抱えた。


 ……焦るな。今の俺は秘密組織ネイラのトップだ。これしきの金は問題ない。


「うーん、わからない。どれが美味しいの?」

「ごめん、俺もわからん。こんな店に来たことないし。ミコはエイリアンだと何を食べてたんだ? 食べなれてるものがあればそれを注文するのが良いんじゃないか?」

「ハンバーグとスパゲッティとチキンと……」

「あーわかった。随分と子供っぽいもの食べてたんだな。じゃあ、それを注文しよ……いてぇ」


 足のすねを蹴られた。痛い。

 俺はギッとした眼をミコに飛ばす。ミコがじとーっとした眼で睨み返してきた。


「ゴミ」

「まあ、スパゲッティにするか。俺も何度か食べたことあるし、それが丸いだろう」


 注文が決まったところで手を挙げて店員を呼ぶ。


「あれ?」


 頭に白いコック帽を被った男が俺達の方を凝視していた。

 俺の視線に気付いたコックの男が近寄ってくる。


「失礼」


 一言謝罪を口にしてから、コックの男が俺の耳に口を近づけた。


「あの、つかぬ事をお聞きしますが、お名前はユーガ様でいらっしゃいますか?」

「あ、はい」


 え? なんで? やっべ。全く警戒してなかったせいで素で答えちゃったんだが。多分これやばいやつだよな?


「どうして、俺の名前を?」


 コックの男は周囲をバレないように見て、誰も聞き耳を立てていないのを確認してから俺に耳打ちで話してくる。


「白銀の凄く綺麗なロリっ子を連れた男が後継者だと報告を受けまして」


 ……なるほど。こいつはエイリアンの傘下に入ってるのか。オーランドは随分と手広くやってたみたいだな。

 つまり、これからは俺の下ってわけか。


「黒目黒髪という特徴も報告と一致しています。本日は私の店に来てくださり光栄です。お代はいりません」


 気が利いてるな。……俺の特徴よりもミコの特徴が先に出た以外は。


「わかった。ありがとう。ああ、そうだ。近々、お前等を集めて今後の方針を決める予定だ。ロンガスからは話が行ってるだろ?」

「はい、私以外にもあの方の手先となっていた組織があったんですよね。それは把握しております」

「今までは横のつながりを結べないようにされていたが、今後は横のつながりを強くしたいと思っている。次の集まりの時にはロンガス以外にも秘密組織ネイラの傘下に入ってる奴らが来る予定だ。準備しておけよ」

「了解しました。それと、本日はご来店ありがとうございます。腕によりをかけて食事を作らせていただきます」


 コックの男は厨房に戻っていった。


 ふぁあ。あくびが出る。


「じゃあ、出来るまで待つか」


 その後に出てきたスパゲッティは中々美味しかった。


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