会議
テーブルには8人の子供と倉庫の従業員の大人が数名集まっている。
俺はその中でもっとも見やすい真ん中の椅子に座った。その隣にミコがぴょんと腰を下ろす。流れるように俺にもたれかかってきた。
「というわけで下で起こっていた状況を説明しようと思う」
俺は状況を説明した。
ざっとこんな感じだ。
オーランドは神を信仰していた。俺とゲンは神への捧げものとして捕まった。しかし俺は奇跡の生還を果たしてオーランドを殺した。
「というわけだ」
「……というわけだ、じゃないが。一体何があったんだ? 君もそのお嬢さんも。……ゲン君は?」
ロンガスが皆を代表して俺に質問をしてくる。まあ、突然こんなことを言われて受け入れられないのもわかる。当事者の俺でさえそうだしな。
だが、ロンガスよりも子供たちの方がショックは大きかった。
「ゲンにいちゃん死んじゃったの?」
「ゲンが? どうして?」
真偽を確かめたいと俺の方をじっと見てくる。俺が嘘でしたーとでも言うのを待っているのだろうか。
俺はゆっくりと頭を下げた。
「……わるかったな。俺が不甲斐ないばっかりに」
正直、俺はわるくない。ミコに確認してわかったことだが、ゲンは俺が脱獄する前に捧げられていたらしい。
でも、俺はやるせなさを払拭することができなくて、子供たちに頭を下げた。
子供たちの中から一人、俺の前に歩いてきた。初日に話をした少女だ。たしか、両親が冒険者だったと言っていた。
「ユーガも大変だったね。腕、義手なんでしょ?」
俺は頭を上げた。少女は僅かに目元に涙を溜めていた。
「おまえ、名前は?」
少女の顔に手を伸ばした。その目元に溜まった涙を指で救う。
隣のミコに腹を小突かれた。「こふっ」とえずく。
そんな俺を見て少女が少しだけ口角を上げた。
「私はシール。今更名前を聞いてくるなんて遅いよユーガ」
「……そうだな。もっと早くに名前を聞いとくべきだった。よろしくな、シール」
「よろしくね、ユーガ」
俺は立ち上がって部屋の中の奴らを見渡す。
「というわけだ。ゲンは死んだ。それで、これからの話がしたい。嘆きたい気持ちは分かるが、時間がないんだ。孤児院から子供たちを借りられる期間は明日までだろ。それまでに話を纏めないといけない」
シールの頭にポンと頭を置く。シールは涙を流しているが、強い子供だった。俺の急な話にもついて来ようとしてくれている。
だが、そうじゃない子供もいる。ゲンの死に悲しみ、ひたすらに涙を流している。部屋中に泣き叫ぶ音が木霊していた。
これでは話ができないが、責めることはできない。こんな状況についていけるやつのほうがおかしいのだ。
「シール、こいつらを任せても良いか? 俺はロンガス達と話がしたい。必要な話なんだ」
シールは黙って首を縦に振った。
「貸しだからね」
「わーったよ。後で何でも聞いてやる」
こんな状況でも強かな少女だ。これなら任せられる。ゲンはもう死んだ。なら、俺がゲンの代わりにこいつら子供たちの面倒をみないといけない。少なくとも孤児院に返すまでに何か問題があったらゲンに顔向けできない。
シールが泣いている子供たちを部屋の外に連れて行った。部屋には俺とミコ、それと倉庫で働いていた大人だけが残る。
俺はテーブルに肘をついた。魔道具の腕が露出する。
「話は理解できたか?」
ロンガスが代表して答えた。
「まあ、少しは」
その声は随分と歯切れが悪かった。
子供たちがゲンの死を悼んでいるのとは別に、こいつらはオーランドの死を悼んでいるのだろうか。
いや、違うか。恐らく俺が怖いのだろう。
つい最近会った時はただのガキだったのに、十数日の間に別人のようになって戻ってきた。俺自身にその変化が感じられるのだから、傍から見ている奴らには俺は全くの別人に見えているはずだ。
俺に対して恐怖を感じていてもおかしくはない。他人に怯えられるというのは悲しい話ではあるが、今の俺にはどうでも良いことだった。
「オーランドが支配していた組織エイリアンは終わった。今日からは俺がここの支配者だ」
反論はない。俺は続けた。
「名を『エイリアン』から改め、新たに『ネイラ』とする。お前らはこれからはエイリアンではなく、ネイラの構成員として活動してもらうことになる。嫌な奴はいるか?」
部屋は静まっていた。部屋の外で泣いている子供の声が聞こえるほどに静かだ。
「ないようなら話を続けよう」
と、手が挙がった。
「なんだ?」
俺は手を挙げた者へ発言を許可する。
「今、貴族が反逆者を探して調査をしてるみたいなんだ。あの人が多分その反逆者なんだろ? 俺達は協力者だった。……俺達を突き出すのか?」
貴族が? それは……不味いな。折角をレが乗っ取ったのに、ここで潰されたら俺の組織ネイラは崩壊する。
ゲンを失って手に入れた組織だ。そんなことは許さん。
それに、オーランドを殺したのは俺だ。この組織の力は全て俺が貰う。後からのうのうとやってきた貴族に渡すものかよ。
「安心しろ。お前らを突き出すようなことはしない。寧ろ運命共同体だと思ってる」
「……ほ、ほんとうか?」
「何だ、信用ならないのか? 俺はまだガキだぞ。純真無垢なガキだ。信用できるだろ?」
俺は自分が他人を騙すような悪党ではないと主張した。ミコが俺の頬をツンツンと突いてくる。
「どうした?」
「……ガキがしゃしゃり出やがって」
なるほどな。俺はミコが言いたいことを完全に理解した。
ドンと頭を下げる。
「年下が上から目線でわるかった。ここ最近くそみたいなことが続いてたせいでちょっと態度がでかくなりすぎてた。でも、協力してほしいのは本当なんだ。俺はこの組織を終わらせたくない」
俺が頭を下げているのを見て、ミコがぼそっと呟く。
「ざまあ」
俺はミコが言いたいことを完全に理解した。
バッと顔を上げてミコの頬をつねる。
「お前!? 俺が頭下げるところを見たくて言ったよな!? このタイミングで俺が頭を下げる意味なんてないもんな!? 貴族にバラされたくなけりゃ俺の命令を聞けとでもすれば良いだけだし!?」
「馬鹿は死んでも治らない。どれだけユーガが成長した気になってても、ユーガは変わらず馬鹿。ばーか」
チクショ。俺は大の大人にビビられる程度には威厳を持ってたのに今ので台無しだ。もっと俺にカッコつけさせろよ。
俺は投げやりになった。ぷらぷらと手を振って俺が適当な人間だとアピールする。
「まー、そういうわけだ。俺にバラされたくなけりゃあ、俺の言うことを聞いてもらう。俺を疑うのは構わんが、拒否権がお前らに無いことは覚えておけ。つまり、旧エイリアン……現ネイラのことを貴族にバラしたり、俺に不利になることをした奴はわかってるな」
俺は首を切るように手をぶらぶらと動かした。
「ぷっ」
一同が互いに顔を見合わせてドッと笑う。
一番多く笑っていたロンガスが俺に手を伸ばしてきた。握手を求めてきている。
「ははは、わかった。ユーガ、様? 俺達は今日からあんたの下で動くことにする」
「え? 良いのか? いや、元から無理矢理にでもそうするつもりだったけど。……良いのか?」
「ああ、オーランドよりは悪い人じゃないみたいだしな。ユーガ様が作ったネイラって組織に俺も関わりたくなってきた。別に悪いことをするためにネイラを作ったわけじゃないんだろ?」
「様なんて言わなくて良いぞ。俺はガキだからな。純粋無垢で何の悪さも知らないガキだ」
「そうか。じゃあ、ユーガ、よろしくな」
「ああ、よろしくな」
俺はロンガスとぐっと握手を交わした。




