未来
祭壇は質素なものだった。
大人一人が寝転がれるようなこじんまりとした台が一つ。その奥に申し訳程度の木彫りの偶像が一つ。
こんなに広い空間だと言うのに、たったそれだけしかなかった。
「これが祭壇?」
エイリアンは巨大な組織だった。地上には街を裏側からコントロール出来るような工作員が居て、地下には魔族と大量の人形が居る。
その組織の最大の目的が神への奉公だ。なのに、その神の偶像とも呼べる木彫りは小さくて、神と関わり合いになる祭壇はちっぽけだった。
「意味が分からん」
そういう教義なのだろうか。質素倹約を司るとか。……それにしては施設は大規模なものだったが。
ミコが台座を指さした。
「そこに生贄を寝かせて、儀式を行う。そしたらふわっとして、生贄が無くなる」
「ふわっと……ねぇ。というか、ほんとに神様は居たんだな。全然信じてなかったけど」
ミコが手に持っていた物を俺に見せてきた。親指サイズの布袋のようだ。
「特別な力を持った魔道具は知ってる?」
「ああ、銃の魔道具みたいな奴だろ? 普通の魔道具よりも能力が特殊と言うか強力な奴。その布もそうなのか?」
ミコが小さく頷いて、近くの柱を指さした。そこには数個の魔道具がある。
「ここにある魔道具は全部そう。普通の魔道具よりも特別な力を持ってる。……感じるでしょ?」
感じる? ……ん? 何が?
俺は目を凝らした。
「……いや、わからん」
「そんなユーガでもミコは受け入れてあげたいと思う」
「そりゃどうも」
ミコがそれら特別な魔道具を抱えて一か所にまとめた。ひ、ふ、み、……大体10に満たないぐらいだ。
ミコはそれらを一つずつ丁寧に扱っていた。
「これが神様が与えてくれたもの」
「なるほどな、特別な魔道具を貰ったお礼に生贄を捧げてるって感じなのか」
「……まあ、そんな感じ」
ミコは半ば歯切れ悪そうに肯定した。反応からして俺の言っていることは厳密には違うのだろう。
それでも俺を否定せずに肯定してくれるのは、俺の知能を心配してくれているのだ。情けなくて涙が出る。
だが、俺はそんなことはどうでもよかった。
「それで、ゲンは……。俺は遅かったのか?」
ゲンという少年がいた。俺と同じ孤児院にいて、俺と一緒にここに派遣されてきた子供だ。俺よりも価値のある人間だったと思う。
ミコは巫女だ。恐らく儀式にも何らかの形で関わっているのだろう。薄々は分かっていた。でも、俺はそれを知っておきながらここまできた。
ミコがぽつりと零す。
「ごめん」
「いいよ。悪いのはオーランドだ」
ミコは特別な環境で育った少女だ。価値観や知識が偏ることは容易に想像できる。俺も家庭で色々あって人間不信になったから、少しは気持ちが分かる。同情の余地があった。
「もう、オーランドは死んだ。エイリアンは俺のものになった。ゲンのことは……今は考えられない。もともと一日ぐらいしか知らなかったしな。そこまで思い入れが無かったんだと思う」
俺は天井を見上げた。シミ一つない限りなく白い天井だ。ウェディングドレスよりも真っ白で何色にも染まらない純白だった。
他者を拒絶する色だ。
無性に死にたくなったが、俺はミコが俺の手を握っていたから死ぬことは無かった。と、おもう。
「そっかぁ。俺は間に合わなかったんだな」
虚無感だ。抗うことのできない虚無感だった。今この瞬間と、この先の未来全てがどうでも良いと思うような、とてつもない虚無感である。
エイリアンを乗っ取ったこととか、何もかもが色あせていくような気がする。
「俺って何でここまで来たんだっけ」
ガチャリと音が鳴る。
銃の魔道具が新たな弾を装填した音だ。
「あれ?」
急激に疲れが来て、俺はふらっと横に倒れていった。




