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これから


 白い天井は記憶に残る最後の景色と同じものだ。白い髪も最後に俺が嗅いでいたのと同じものだ。耳に心地良い細い息遣いも同じだ。

 俺が気を失う前の光景と大体同じだった。


 違うところを上げるとするなら、俺の後頭部が柔らかいものを支えにしていて、俺の視界を埋め尽くすように少女の顔があることぐらいだ。

 闇よりも黒い瞳をした少女だ。


「……遅い」


 相変わらずだな。

 俺は身を起こした。


「運が良かったな。魔力炉の爆発を受けても生きてる。俺の祈りが効いたか? 土壇場になって敵のはずの俺を神様が守ってくれたみたいな。」

「……頭は無事?」

「手厳しいな。互いに生きてたんだから少しは俺に優しくしろ。……オーランドは?」


 俺は周囲を見渡した。


 真っ白な空間には傷一つ入っていなかった。魔力の爆発にも耐えうる施設とは驚きだ。そんな施設があるとは聞いたことがない。……もしここを国に報告すれば国宝級の空間になるだろう。


「オーランドは……。あれか……」


 大蛇が倒れている。いや、倒れているというよりは、皮のみになっていた。中身がすっからかんで、白い床にカーペットのように敷かれている。

 生きているとは思えなかった。


 ミコがオーランドの死体の傍までいって、皮をぺらぺらとめくる。


「魔力が残ってない。完全に死んでる。ざまあ。南無阿弥陀仏」

「……魔力が残ってたら生き返るのか?」

「魔力を使って肉体を作れるから、その肉体に魔力を保存できる」

「よくわからんな」


 魔力に愛されて生まれるものは特殊な生物なのだろう。理解できない。


「ユーガはそれで良い。ミコが知ってるから」


 ……ほーん。


 俺は白い空間の奥、祭壇があると思われる方へ眼を向けた。ここにきた一番の目的は既に達成することができた。なら次だ。


「ゲンたちは何処にいるんだ?」


 ミコは少し黙ってから、オーランドの皮を白い柱にぐるぐる巻いていく。まだら模様の大蛇の皮は高級品のように綺麗で、柱に良く似合っていた。

 ぼそりと呟く。


「一人以外は、上に居る」


 遠回しだな。ミコにしては珍しい。

 俺に気を遣ってるのか?


「なあ、オーランドは死んだんだろ? あいつはここのリーダーで、あいつ以上の立場の者は居ないんだよな?」


 ミコが首肯する。


「じゃあさ、ここは俺のものだ。それで良いか?」


 ミコは首肯した。

 俺はあくびをしながら大きく両腕を伸ばす。俺の魔道具の片腕がガシャガシャと鈍い音を立てて落ちた。

 床に落ちて部品が瓦解する。


「はは、耐久にはまだ問題があるな……。っとまあ、オーランドはもう死んだんだからどうでも良いんだよ。それよりも、」


 俺はミコの頭に手を置いた。


「この組織と、ミコについて色々教えてくれよ。お前に命令を出してたオーランドはもう死んだんだ。これからはその代わりを俺がする。……ダメか?」


 ミコは俺を見上げて、その真っ黒な瞳を向けてきた。まるで深淵のように深い闇だ。気を抜くと呑まれそうになる。


「エイリアンは大きな組織だってオーランドが言ってた。この組織を操るのは私でもちょっと手間になるとも言ってた。ユーガには不可能だよ」

「それは、そうかも……しれないけどさ。まあ、あれだ。この組織にはロンガスみたいな普通に働いてる人も居るんだろ? 神とかエイリアンとか関係なしに普通の人達もさ。そういう人達の力も借りられるなら、何とかやっていけると思う」

「ロンガス? ……ああ、そんなのも居た……ような?」


 一応同僚って扱いなんだし覚えておいてやれよ。

 俺は苦笑した。ミコの髪をわしゃわしゃと撫でる。


「そう言うわけだ。今日からはここの主は俺だ。そして、ミコは俺の部下だ。俺の命令は聞かないといけない」

「……おかしい。ミコは別にオーランドの部下じゃなかった。ユーガがオーランドの地位に入るなら、ミコがユーガの命令を聞く必要ない」


 ミコとオーランドの関係を細かく知ってるわけじゃないが、ミコとオーランドはどちらかと言うとミコの方が立場が高かった。それはミコの巫女という性質に由来している。俺がオーランドを殺してオーランドの位置に入ったのなら、逆に俺がミコの命令を聞かないといけないことになる。


「わーった。じゃあ、こうしよう。これからこの組織エイリアンは一新する。俺をトップにしてミコを部下にして、元エイリアンの構成員は全部俺の下に置く。魔族はもう全員殺したか逃げたし、残ってる構成員はロンガスみたいなただの一般人だけだ。そいつらを全部俺の下に置く。それでどうだ?」

「……どうって?」

「つまり、俺が作る新しい組織にミコも入ってほしいんだ。そして、俺の命令を聞いてほしい」


 あれ? っと、一瞬思ったが俺は押し通した。

 これじゃあまるで俺がミコを我が物にするためにエイリアンを乗っ取っているようなものだ。ミコは可愛い。そんじゃそこらの別嬪さんを遥かに超えるどころか比べることができない。

 誓って言うが俺はロリコンではない。


 俺はそんな邪険な感情を抱きながら、ミコに手を伸ばした。


「ダメかな?」


 俺はミコについて多くを知っているわけじゃない。だからミコが何を望んでいるのかがわからない。


「ユーガは、ミコが必要……なの?」

「ああ、ミコのことをもっと知りたいと思う。ミコは口は悪いし、育ちもそんなに良いとは言えないけど、俺を助けてくれたし。あとは、まあ、可愛いし良い奴みたいだしな」


 ミコの瞳が大きく見開かれる。俺を見透かすように覗いてきた。

 その大きな瞳に俺の姿が写っている。俺は随分と情けない薄ら笑みを浮かべていた。……なんかプロポーズみたいになってるんだしもうちょっとカッコいい顔出来ないのかよ俺はよ。


 情けない笑みを浮かべる俺の手に柔らかい手が重なる。


「頼りないユーガでも、ミコは構わない」


「ほ、ほんとに良いのか? 正直俺って結構やばい人間だぞ? 特にエイリアンの施設に来てからは人外じみたことばかりやってきたし」

「……ほんとそれ」

「いや、まあ、そこは否定してくれても……。ん?」


 ミコが繋いだ俺の手を引っ張った。その方向は祭壇の方だ。


「行こう。エイリアンと私について少しだけ話してあげる。馬鹿なユーガにもわかるように分かりやすく」


 祭壇には何かがある。多分、そこには俺が見たくない真実があるのは分かっていたが、止めることはできなかった。


ここまでで思ったより字数がかかってしまったからこれから先は若干急ぎ足になります

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