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第9話 魔力回路切断

 魔力剣の刃を消したアレスは、柄を握る手にグッと力を込める。

 だが、刃部分に変化はない。アレスが刃のない剣の柄を握っているだけだ。


(あまり使いたくなかったけど、魔法を使うんなら仕方ない。厄介な棍棒は落とした)


 アレスは柄をゴブリンキングの手首を狙って、投げる。

 クルクルと回転しながら、ゴブリンキングの手首を――――


 ――――すり抜けた。


 すり抜けた柄は落下し、カラン、カランと音を鳴らした。

 アレスは何をしたのか……?


 後ろで眺めている少年ですら、意味が分からなかった。

 すり抜けた時点でおかしいが、それ以前に何故武器を投げるのか?


(まさか……ほんとのバカだったのか)


 何も知らないゴブリンキングは痛みに耐えながらも、自らの敵を殲滅すべく腕を突き出す。


 アレスは魔法が来ると分かっているはずなのに、その場から一歩も動かない。終いには目をつむり出した。


「お、おい! 分かってんのか! 魔法がくるぞ!」


 少年は大声で呼びかけながら、直線上に入らないように移動する。

 それでも尚、アレスは動かない。


 やがて、ゴブリンキングが魔法を発動。辺り一面を焼き尽くす炎が放たれ――――――なかった……。


「ゲギャ……? ギャゲギャ……」


 魔法が発動しないことに違和感を覚えるゴブリンキング。

 その光景を見ながら、アレスはニヤリと笑った。

 目を開き、両手に魔力を集中させていく。


 今、自分が放出できる魔力を振り絞り、巨大な槍へと変形させた。


「悪いな、俺の勝ちだ……」


 あらん限りの力で腕を振る。それに合わせて、巨大な槍がゴブリンキング目掛けて投擲された。


 ――――――ドオオオオオオオン!!


 放たれた槍がゴブリンキングの腹を貫いた。貫いた槍は後ろの壁にまで深く突き刺さった。

 断末魔の叫びすら、上げることはできなかった。


「ハア、ハア……」


 さすがに、あれだけ巨大な槍を作ると、アレスでも疲弊する。

 目から光を失ったゴブリンキングは、うつ伏せに倒れた。

 見習い冒険者のアレスが、本来なら格上のゴブリンキングを討……伐した瞬間だった。


 肩で息をするアレスに、少年が恐る恐る声をかけた。


「アレス……今、何したんだよ……」

「………」


(どうするかな……あんまり知られたくはなかったけど。これから使っていくなら、いずれバレることだよな)


 アレスは、正直に話すことに決めた。知られたところで、アレスにしか使えないから。


「魔力回路を切断したんだよ」

「……は?」

「魔力回路を切断すれば、魔力が送られることは無い。さっきのすり抜けた攻撃で切断したんだよ」

「………」


 アレスの切り札である、魔力回路切断。柄に内蔵されていた魔力で極薄の刃を作ったのだ。

 遠くから見れば透明に見えても不思議では無い。


 そして、この刃はあらゆる物を透過する。


 斬れるモノはたった一つ―――――魔力回路のみ。


 魔力回路切断といっても、切断された魔力回路は一定時間で回復する。

 回復する速度は人により異なる。魔法の扱いに長けた者であれば、数分で回復する。


 それに、魔力回路切断はいいとこづくめでもない。

 例えば、右腕の魔力回路を切断したとしても、右腕を起点とした魔法発動が出来ないだけだ。

 ならば、左腕で発動すればいいだけの事。


 相手の魔法を封じるには、両手両足の魔力回路を切断するしかない。可能ではあるが、現実的ではない。


 だが、初見であれば非常に優位にはたらく。魔法が使えなければ、少なからず慌てるだろうし、何が起こったのか分からないはずだ。

 そこに、大きな隙が生まれる。


 少年は色々なことが起こり過ぎて放心状態だ。魂が抜けているような感じだ。

 それを見て、クスリと笑うアレス。


 そんな時だ、ニクソンを探しに行ったライツが戻ってきたのだ。


「おい、お前たち! すごい音がしたが、大丈夫か?」

「あっ、ライツさん。大丈夫ですよ。それより、ニクソンは?」

「そいつならここだ」


 そう言って、自分の背中に目を向けるライツ。ライツの背にはニクソンがいた。


「無事だったんですね、良かったです」

「……無事ではないがな」


 ライツの言葉がアレスに引っかかる。


「それはどういう――――」

「それよりもなんだ、このデカブツは……」


 アレスの言葉は続くライツの言葉に遮られた。アレスは、「ああ」と頷くと、何があったのかをライツに話した。


「ってことがあったんですよ」

「………確かに、ゴブリンキングだが」


 ライツは倒れる魔物に目を向けるが――――


(アレスが倒した、というのも問題だが……さらに問題なのはゴブリンキングの方だ)


 ゴブリンキングは下位迷宮でも出現するが、5階層なんかで出現する魔物じゃない。

 最低でも中層で出現する魔物だ。


(まさか、あの時の二人組が関係してるのか……)


 ライツは、ニクソンを斬った男ともう1人を思い浮かべる。


(ともかく、詳しく調査をする必要があるな……)


 ライツは、これから自分がしなければいけない事を考え、顔が青ざめるが、仕方なしと割り切った。

 そして、ライツはアレスに小言を言う。


「アレス、お前……俺より強いんじゃないのか?」

「いや、それはないと思いますけど」


 手をブンブン振りながら、否定するアレス。


 Cランクともなれば、中々の冒険者だ。それにライツはBランクに上がってもおかしくない程の実力を備えている。


 ここで、問い詰めても意味がないと感じたライツは、ここを離れる旨を伝える。


「アレス、冒険者組合(ギルド)に戻るぞ。色々と報告することがあるしな」

「分かりました」


 ライツは未だ目を覚まさない、少年を起こすため声をかける。


()()、起きろ、スシ」


 少年の名前は、スシと言った。


 ◇◆◇◆◇◆


 冒険者組合(ギルド)に戻ってからは忙しかった。アレスは事情聴取のためと、連れて行かれた。

 ライツはギルドマスターに報告するために忙しなく動いていた。


 結局、アレスが解放されたのは完全に陽が落ちた後だった。


「つ、疲れた……」


 冒険者組合(ギルド)の椅子に深くもたれかかったアレスは、死んだ目をしていた。

 そこに、フィオナが現れアレスに話しかける。


「アレスくん、こんなとこにいないで早く宿に帰ったらどうですか?」

「……そうですね。ありがとうございます」

「それにしても、すごいですね。単独でゴブリンキングを討伐だなんて」

「あー、そのことなんですけど。人に話さないようにお願いしますね。一応ライツさんにも言ってますけど」


 アレスは今回の討伐に関して、自分が討伐したことを内密にしてくれと頼んでいた。

 理由としては、まだ見習いなのに注目を集めると、これからの冒険者活動に支障が出ると思ったからだ。


 事情を察したフィオナはふふ、と微笑みを浮かべると、はいと二つ返事で頷いた。


(早く帰って、ロウと戯れたい……)


 ◇◆◇◆◇◆


 場所は変わり、人気の少ない路地裏に移る。そこに、アレスと共に演習をしたスシと呼ばれた少年がいた。

 少年の他にもう一人、女がいる。


 女が呆れた様子で口を開く。


「はーー、団長。もうこれくらいにしてくださいね……」

「すまない……どうしても自分の目で確かめたくてね」

「ほんとに、もう……。見習いの演習に参加するなんて言った時は、遂に頭のネジが外れたのかと思いましたよ」

「ハハ、ほんとにすまない。もうしないから」


 これまでとは違い、気弱な感じではなくどこか堂々としている。演習時とは、えらい違いようだ。


 スシ少年が指をパチンと鳴らすと、


 髪や体格などが変化していく。やがて、高身長の大人の男になった。

 スシは偽名、演習に参加するため変身していたのだ。


 女は男にローブを手渡し、自分の団長に演習の詳細について聞いた。


「で、どうだったんですか? 例の()は……」

「予想通りだったよ。流石、アランさんとミアさんの息子だ」

「そんなにだったんですか?」

「ソロでゴブリンキングを討伐してたよ」

「………えっ?!」


 見習い冒険者がゴブリンキングを討伐した、という普通なら有り得ない話を聞き、驚きの表情を見せる女。


「面白いものも見れたし……参加してよかったよ」

「そうですか。それよりも、迷宮遠征の打ち合わせがあるので、急いでください」

「わかってるよ」


 どこまでも真面目な女を見て、苦笑する男。


 この男の真の名は、シス・グロース。


 クラン対抗戦第一部リーグ―――現七星(レガリア)の序列第一位。


 昨年のレイダース優勝クラン【王命(おうめい)】を率いる若き団長その人なのだ。


 シスは、これから来るであろう未来に思いを馳せながら、夜の闇へと消えていった……。



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