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第6話 冒険者登録

 ジャンヌと別れ、終焉都市アウトムンドを発ったアレスは中央交易都市セントヴルムへ向かっていた。


 道中特に危険なことも無いだろうし、仮にあったとしても今のアレスなら十分対処可能だろう。


 セントヴルムまでには、ノアの大森林と呼ばれる森が広がっている。

 森を突っ切る必要はあるが、整備された道を通れば問題ない。


 野宿や宿泊を繰り返しながら、セントヴルムまで残り半日となった。

 今日は朝から雨でずっとフードを被っている。


 そんな中、少し先に何かが見える。


(なんだ、あれ……? 馬車の、残骸か……)


 小走りで近づいていくアレス。


 そこには、無惨にも壊れた馬車と思われる残骸。馬の死骸。そして、人の死体があった。

 雨なので匂いなどはかき消されている。


「酷いな、これ……」


 盗賊に襲われたのか、と考えたアレスだったが周囲の光景を見て、その考えを改めた。

 盗賊の類であれば、荷物類が余すことなく奪われているはずだ。


 だが、辺りには散乱した荷物などがあり、盗賊の線は消えた。


「魔物にでも襲われて、全滅したって感じかな」


 アレスは集められるだけの死体を端に集め、手を合わせた。

 あまりこのような場に長居するのも良くないと考えたアレスは、その場を離れた。


 だが、何か呻き声のような掠れた消え入るような声が耳に聞こえてきた。


「まだ誰か息があるのか……」


「―――――くぅーん……」


 人ではないような鳴き声がする。馬車の残骸をどかしながら、しらみ潰しに探す。

 すると、木箱に隠れる形で小さい魔物が見つかった。


 そっと抱き上げ確認する。

 まだ幼いと思われる、毛並みは灰色に近く。尖った牙が口から覗かせている。


「………黒狼(ブラックウルフ)、か?」


 魔物を使役し戦う、魔物使い(モンスターテイマー)が使役しやすい魔物であり。初心者に人気の魔物だ。


 反対に白狼(ホワイトウルフ)もおり、こちらは毛並みが白いのが特徴だ。


 ベロン、と舌を出し目は薄く開かれている。体は冷たく、呼吸も荒い。危険な状態かもしれない。


(目立った外傷はなし、しばらくは保つか……)


「急いだ方が良さそうだな」


 黒狼(ブラックウルフ)と思われる魔物を懐に隠し、できるだけ温めながら先を急ぐ。

 こんな時、簡単な火魔法でも使えるなら随分楽にさせてやれるのだろうが……。


 アレスには絶対にできないことだ。


 ◇◆◇◆◇◆


「あれが、セントヴルムなのか……」


 あまりに巨大故に思わず息を呑む。

 都市全体を囲む巨大な壁。壁が高く、建物なども全く見られない程だ。


「こんなん、ほぼ城塞じゃないか」


 門には行列ができており、その人気の高さがうかがえる。

 馬車の列が並ぶ商人ゾーンとは別の一般ゾーンに並ぶ。


(時間がかかりそうだな……)


 待つこと、30分――――――


 やっとアレスの番がきた。門番が声を張り上げる。


「次の者――――!!」


 門番の前まで行くと、声をかけられる。


「身分証はあるか?」

「いえ、初めてなのでまだ何も」

「そうか、それならこいつに名前と年齢、職業を書いてくれ」


 そう言って、1枚の紙を差し出してくる。アレスは紙を受け取ると、すらすらと書き連ねていく。


「これでいいでしょうか?」

「ん? 職業はないのか?」

「これから冒険者になろうかと」

「そういうことか……。次はこれに手を触れてくれ」


 透き通るほど綺麗な水晶が出てきた。アレスは迷うことなく手を触れる。

 なんの変化もない。アレスの顔が曇るが、


「変化なし、問題ないな。通っていいぞ、ようこそ中央交易都市へ」


 ◇◆◇◆◇◆


 これまた巨大な門を通ると、そこから先の光景はアレスの想像など軽く吹き飛ばすものだった。


 行き交う人々、賑わいを見せる屋台。大きな隙間なく建てられた店舗。

 どれもがアレスにとって新鮮なものだ。


「すげぇ……すげぇ、すげぇ」


 語彙力が死んで、すげぇという言葉しか出てこない。


「あっ、急がないと」


 懐に匿う黒狼(ブラックウルフ)を一刻も早く休ませてやらないと、とアレスは動き出した。

 ちょうどお腹が空いたし、黒狼も腹を空かせているだろうと思ったアレスは、屋台へと吸い込まれるように行った。


「おっちゃん、豚鬼(オーク)肉の串焼き2本ちょうだい」

「おっしゃ、任せとけ。ちょいと待っててくれよ」


「ほらよ、できたぞ。熱いから気をつけろよ」

「ありがと、おっちゃん。それとどこかオススメの宿屋知ってる? 出来ればセキュリティとプライバシーがしっかりしてるとこ」

「それなら、精花亭に行っとけ。兄ちゃん、冒険者だろ? 冒険者ならあそこが一番だ」


 串焼き代として銀貨1枚を渡したアレスは、おっちゃんの言う通り精花亭を目指した。


「ここだよな……」


 入口上の看板に達筆で精花亭と書かれている。急ぐアレスは中へと入り手続きを進める。


「はいはーい、お客さん。一人?」


 店番であろう元気一杯の金髪少女がカウンター奥から出てきた。


「うん、部屋は空いてる?」

「もっちろん! 何泊する?」

「う〜ん……一ヶ月まとめてがいいかな。出来る?」

「大丈夫だよーー。代金は先払いだけどいい?」


 こくり、と頷いたアレスはガサガサと懐を漁り、お金を取り出す。

 金髪少女は、一ヶ月の客が来て嬉しいのかずっとニコニコしている。


「じゃあ、一ヶ月食事付きで……銀貨50枚でいいよ」


 すっと、金貨1枚を差し出すアレス。金髪少女はそれを受け取ると、銀貨50枚をお釣りとした渡した。


「あたしは、フィエナっていうの。これからよろしくね!」

「うん、よろしく」


 部屋の鍵を受け取ったアレスは、すぐに部屋へ向かった。

 部屋に入ると、黒狼をベッドに寝かせ布でくるんでやる。


「とりあえず、寝かせておくか」


 串焼き肉は置いといて、起きてから食べさせてやることにした。


「俺は食うかな」


 アレスは、串焼き肉を頬張る。口いっぱいにジューシーな肉汁が広がる。


「うまっ。豚鬼(オーク)ってこんなに美味いのか……」


 瞬く間に食べ終えたアレスは、黒狼と同じく寝ることにした。長旅で疲労も随分溜まっている。


「ふわあ……おやすみ」


 ◇◆◇◆◇◆


 アレスが目を覚ますと、すでに陽は落ちかけており夕方だ。

 ベッドに目を向けると、黒狼が真っ直ぐアレスを見つめていた。


「お前、起きたのか……。どうやら元気になったみたいだな」

「アウッ」


 元気良く鳴く黒狼。アレスは黒狼を抱きかかえ、床に下ろすと串焼き肉を置いた。

 アレスが軽く頷くと、むしゃむしゃと一心不乱に食べ始めた。


「よっぽど腹が減ってたんだな」


 まだ幼い黒狼はとても愛らしく、アレスは無意識に手を伸ばし毛を撫でていた。


「くぅ――ん」


 撫でられるのが気持ちいいのか、目を細め尻尾を振っている。

 この時、アレスはこの黒狼をペットにすることに決めた。


 その翌日、冒険者登録のためアレスは冒険者組合(ギルド)を訪れていた。

 勝手にロウと名付けた黒狼は部屋で留守番させている。


 セントヴルムのギルドは豪奢で派手だ。魔法を表す杖と剣がクロスさせているのがマークだ。


 中は広く、吹き抜けの天井となっている。

 1階が冒険者ゾーンで、2階は食堂となっておりバーも隣接されている。


 カウンターへ向かい、声をかける。


「すいません、冒険者登録をお願いします」

「はい、ではこちらに記入をお願いします」


 接客してくれた受付嬢を見て、アレスは思わず声を上げた。


「えっ……フィエナさんじゃ……」

「えーと、お客様。フィエナをご存知なんですか?」

「ご存知というか、精花亭で店番を……」


 そう言うと受付嬢は、ああと納得した顔をする。くすくすと笑いながら、アレスに説明する。


「フィエナは私の妹なんですよ。で、私は姉のフィオナです」


 そう言い微笑むフィオナ。笑っているが、無言の圧力を感じたアレス。慌てて訂正する。


「すいません……。あまりにも似すぎていたので」

「大丈夫ですよ、慣れてますから。けど、次からはちゃんと覚えてくださいね」

「はい!」


 登録用紙に書き込んでいくアレス。特に悩む箇所はなく、数分で書き終えた。


「できました、お願いします」

「はい、う~ん……不備はないようですね。これで、冒険者登録しておきます。渡すものがあるので、ちょっと待っててください」


 用紙を持ち、奥へと消えた。アレスの脳内では。早速どんな依頼(クエスト)を受けるか、それとも迷宮に潜るか。楽しみで仕方なかった。


 しかし、それを無残にも打ち砕いたのは戻ってきたフィオナの言葉だった。


「こちらをどうぞ。()()()()()()用のプレートになります」

「……え?」

「どうかしましたか……?」


 アレスが突如、口を開けたまま動かなくなったので、フィオナは気に掛ける。やがて、アレスが呆然としながらも話しを続ける。


「見習い冒険者とは……?」

「ああ、それはですね。いきなり冒険者として活動できるわけではなくて、演習を受けて、合格された人が正規の冒険者になれるんです。けど、そんなに心配しなくてもいいですよ。演習と言っても、簡単なので。普通にやれば受かります」

「そ、そうですか……。では、その演習はいつ受けれるんです?」

「毎日行ってますので、いつでもどうぞ」

「じゃあ、明日お願いします!」


 カウンターから身を乗り出し、やや押し気味に言うアレス。若干戸惑いながらも、フィオナは受付嬢としての笑顔を絶やさなかった。


「それでは、明日10時にお待ちしていますね」


 演習の予約を済ませたアレスは、早々に精花亭へ戻った。今のアレスの癒しは、ロウと戯れることだから。


(ああ……やっぱりロウの毛並みは最高……)


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