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第4話 模擬戦

 ジャンヌの宣言通り、アレスの特訓は地獄の一言だった。

 というのも、肉体的に痛々しいというわけではなく、精神的な意味で地獄だった。


 ただ、魔力を具現化していくのだから、痛みなどは無い。


「はぁ、はぁ……」


(いつまでかかってるんだ、俺は……)


 魔力の訓練を始めてから、はや一ヶ月。日に日に、出せる魔力の量というのは増えてきているものの……。

 未だ、握り拳3つ分しか出せていない。アレスの想像以上に魔力の具現化というのは、難しかったのだ。


 さらに、一ヶ月前にジャンヌから言われた言葉がアレスを追い詰めていた。

 無論、ジャンヌにそんな意図はない。


 ―――――― 1ヶ月前


「アレス、もう1つ言っておくことがある。魔力以外に君が他の人より優れている部分がある。それは、魔力量だ」

「魔力量ですか? 俺ってそんなに多いんですか?」


 アレスの問いにジャンヌは短く「多い」と答えた。


「魔力量は遺伝する。君の両親――アランとミアの子供なら、とんでもない魔力量だろう。この魔力量の多さ、というのは大きなアドバンテージだ。少なくとも、君の体全体を覆える程の魔力を自在に操れないと話しにならん。だからといって焦るなよ、時間はある。

 いきなり大量の魔力を放出しようとすれば、魔力に体を奪われるぞ」


 と、まあこんな事を言われてアレスは焦っているのだ。


 そして、今日も今日とてアレスは魔力の訓練を始める。そんな時、ジャンヌが現れた。日中はよく出かけることが多いジャンヌが珍しく朝からいた。


 寝起きなのだろう、ピンと跳ねる寝癖をそのままにアレスに話しかける。


「アレス、順調か?」

「あっ、ジャンヌ教授。すいません……まだ全然です」

「そうか、そんな簡単にできることではないからな。ゆっくりでいい。ま、それは置いといて、そろそろ剣術と体術の訓練も始めようと思うのだが、どうだ?」


 この提案はアレスにとって希望の光だった。魔力訓練ばかり地道にやってきていて、いよいよ限界に近い状態だった。

 アレスは安堵の表情を浮かべ、答える。


「やっとですか……正直、限界だったんですよ」

「そんなにか……。なら容赦なくできるな」


 ドSジャンヌが目を覚ました瞬間だった。


 ◇◆◇◆◇◆


「はあああ!!」

「どうした、どうした! こんなものか!」


 カンッ、カンッと木剣が打ち合う音が響き渡る。

 真夏の太陽の下、アレスとジャンヌが激しく切り結ぶ。


 木剣を両手で持ち、下段に構えるアレス。

 方や、片腕で木剣を持ち正眼に構えるジャンヌ。


 アレスは腰を低く落とし、低空でジャンヌに接近する。繰り出されるのは、高速の刺突。

 カキンッと音が鳴り、アレスの攻撃がジャンヌに阻まれる。側面から押さえつけられている。


(くそ……これじゃ駄目だ……)


 そう思ったアレスはカァンッと木剣を弾き、再び距離を取った。

 だが次の瞬間、矢のような投擲がアレスを襲った。ジャンヌが木剣を投げたのだ。


「―――――!!」


 慌てて木剣を弾き飛ばす。その時、アレスはジャンヌから目を離してしまった。

 ジャンヌの姿を見えない。


(……しまった。ジャンヌ教授が姿を消したなら―――取るのは後ろ―――!)


「――――甘いな」


 後ろへ振り向くアレスだったが、消え入るようなその声は前から聞こえてきた。

 刹那、腹に衝撃が走る。


「うっ………がっ……」


 裏をかいたジャンヌの掌底がアレスを捉えたのだ。

 ガードの隙すら無かったアレスは、そのまま吹き飛んだ。


 これまでの訓練で、ジャンヌは後方を取ることが多かったのだ。アレスの脳裏には完全に、その印象が植え付けられていた。


(まんまと、はめられた……。弾き飛ばさずに、避けていれば良かったんだ……)


「アレス、まだまだ時間が必要らしいな」

「はい……」


 地面に倒れ、大の字で寝転がるアレスに声がかけられた。

 アレスはただ肯定することしか出来なかった。


 ◇◆◇◆◇◆


 体術や剣術などの訓練や模擬戦を続けていく中で、魔力訓練に関しても著しい成長が見られた。


 日々体を鍛え、訓練を行っているからだろうか。原因はともかく、着実に成長しているのはアレスそしてジャンヌの二人が感じていた。


 ――――――3ヶ月を過ぎた頃


 遂にアレスはやってのけた。

 現在、ジャンヌの目に映る光景には、アレスから放出された魔力がアレスを中心に円状に広がっている。


 訓練を始めた頃とは違い、アレスの体がすっぽりと収まるくらいの魔力を放出できている。

 そして、それを自在に操れるようにもなった。


「どうですか? とりあえず、常時これだけの魔力は自由自在に動かせます」

「良くやったとしか言えないな。正直、まだまだ時間がかかると思っていた……」


 アレスが自慢気に話す中、ジャンヌは手をおでこに当て、驚きを隠せない様子だ。


「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか」


 やや不満気に口を尖らせるアレスに対して、


「悪いとは思ってるよ。ただ、これで実践的な訓練ができると思ってな」

「実践的……? どういうことですか、それ」


 ジャンヌの言葉に疑問を覚え、首を傾げるアレス。

 パン、パンと手を叩いて何やら合図を出すジャンヌ。その合図に反応して、後方から二つの影が出現する。


「「お呼びですか、姐さん」」


 そう答えた二人は、大柄な男と小柄な男だった。突然、現れた男に後ずさるアレスだが、ジャンヌの知り合いということは明らかなので問題ないと判断した。


「紹介しよう、私の忠実なる下僕。1号と2号だ。元はCランクまで上り詰めた冒険者だったが、色々あって私の下僕となった。これからの、君の相手だ。とりあえずはこの2人を倒す事が目標だ」

「Cランク冒険者……」

「私はしばらく見れないからよろしく頼むぞ、1号、2号」


「「ははっ、お任せを」」


 ◇◆◇◆◇◆


 さらに時は過ぎ、1年が経った。そして、今日アレスと1号による真剣勝負が行われる。

 木剣など使わない。真剣を使った勝負。


 これまでの訓練の成果をアレスが発揮する時だ。


「坊ちゃん、本気でいかせてもらいますよ」

「もちろん、俺も本気でいきますよ」


 1号はアレスのことを坊ちゃんと呼び、先輩として可愛がっていた。

 アレスはこの9ヶ月間、2号を倒すことは出来たが、1号を倒すことはまだできていない。


 アレスは、アランの剣を抜く。そして、放出した魔力を撫でるように這わせて行く。

 特殊な効果は何も無い。ただ硬く、重くなる。それだけでいい。


(剣が黒く……坊ちゃん、色々考えてきたようですね)


 沈黙の中、アレスが剣を構え地面を蹴る。まずは様子見、と言ったところか。

 1号も剣を持ち、待ち構える、


 距離が詰められ、剣と剣がぶつかり合う。火花を散らしながら、互いに押し込もうと、鍔迫り合いが起こる。


(グッ………重い……)


 1号が苦痛で顔を歪め、段々と押し込まれていく。

 魔力によって単純な重さが加わる。そして、アレスの両腕にも魔力が纏われており、強化されている。


「うあああっ」


 アレスは力を込め、一思いに突き飛ばす。すかさず追撃のため、両翼の魔力を剣状に変化させ獲物目掛けて飛ばす。


「いけっ、デュランダル!」


 1号はすぐさま体勢を立て直し、迫り来る十数本の剣を迎え撃つ。

 剣を中心に風魔法を生成、風力を利用し叩き落としていく。


 全て落とされたのを確認し、アレスは突貫。魔力を分割し、周囲に展開しておく。

 1号は再び風魔法でアレスを攻撃。


「風魔法・風弾(ウィンド・バレット)!」


 風の弾丸が連続でアレスを襲う。右、左とジグザグに移動しながら1号に接近していく。

 フェイントをかけ、右から左へ方向転換。そのまま斬り掛かる。


(速度がまた上がってやがる……)


 何十回か斬合って、1号はカウンターを放つ。空いた胴目掛けて蹴りあげる。ドッと鈍い音がして、アレスが空中に放り出される。


 これは、アレスがあえて狙ったものだ。罠を仕掛けた。


(よし、ダメージは受けたが……概ね予想通り)


(甘いですね、坊ちゃん……。空中じゃ身動きとれんでしょうに)


「終わりですよ、坊ちゃん! 風刃(ウィンド・カッター)


 空中を振動する、風の刃がクロスで迫る。空中では、身動きが取れない。だが、それは足場がなければの話。


「来いっ!」


 引き寄せられた魔力が薄く円状に広がり、()()を作り出す。

 両足を乗せそのまま急降下。間一髪のところで、風刃を回避する。


「な、なにっ!」


 隕石の如く超速で落下。1号は全身で支え、剣を受け止める。

 ズシリ、と強烈な重さがのしかかる。

 アレスは先程の1号と同じく、右蹴りを側面から放つ。

 思わぬ反撃をくらった1号は、そのまま転がり飛ぶ。


「魔力展開!」


 さっき作った足場を何十個も空中に固定し展開させる。アレスは剣術が得意だ。意外にもそうだということが、訓練で分かった。


 故に、アレスの主な攻撃方法は剣による斬撃。


 アレスが編み出したヒットアンドアウェイ―――高速機動剣術。


 足場を蹴って蹴って移動を続け、1号に捉えさせないように動く。

 背後から、斜めから、下方から、時には真正面から斬りつけていく。徐々に切り傷が増えていく1号。


 耐えかねた1号は、竜巻を地面に叩きつける。轟音が鳴り、激しい土煙が舞う。

 早々に離脱したアレスは行方をくらませるが、1号にはアレスの位置が分かっていた。


(今度こそ終わりですよ……坊ちゃん!)


 魔力の色が見えていたのだ。

 だから、そこを見定め剣を振り下ろす。勝負は決まったかに思えた―――――


 しかし、1号の剣は空を切った。そこにあったのは、腕を模した魔力と魔力を纏った剣。


「―――――!!」


 その後ろでほくそ笑む者が一人。


 ぼふん、と煙を食い破りアレスが姿を現した。武器はない、文字通りの丸裸。

 しかし、ジャンヌに徒手空拳での戦い方を習っていたアレスには十分だった。


「もらったーー!」


 ドオオオォォン、と魔力を腕に纏わせ、重さを増したアレスの拳が1号の腹を撃ち抜いた。


「かっ………ぐは………」


 血を吐き、ぶっ飛ぶ1号。


「はあ……はぁ……」


 すでに満身創痍だったアレス。


 勝負の審判役の2号が信じられないような表情をしていたが、隣のジャンヌの横顔を見て、勝敗を告げた。


「……しょ、勝者! アレス・スタンディード!」



 苦節1年、魔力という力を得たアレスが初勝利を収めた瞬間だった。




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