第21話 オークション
アレスは真ん中辺りに席を取り、オークションの開始を待った。
時間を追うごとに、人の入りは増えていった。開始時間10分前には、席が一杯になった。
基本的にオークションにおいて、貴族などが優遇されることはない。席は早い者勝ちで、一般人も貴族も関係ない。
やがて、オークションの開始時間になり、前方の舞台に司会の男か登場した。
テンション高い声で、会場を盛り上げる。
『それでは、開始時間になりましたので毎週恒例、中央オークションを開催致します!!』
司会の挨拶と同時に、会場全体から大きな拍手が送られる。
オークション初体験のアレスは、その興奮に呑まれて自身もテンションが上がっていた。
『では、早速オークションを始めていこうと思います。まずは――――』
目玉商品は最後に回されるため、最初の商品の落札はかなりの速度で進んでいく。
アレスが目当てのスパイラルスパイダーの硬糸はそこまでの目玉ではないので、中盤あたりでくることが多い。
今回のオークションで出品されていない可能性もあるが、アレスは信じてその瞬間をじっと待つ。
そして、運が良いことにその瞬間が訪れた。
『では、次の商品に参りましょう。次は、スパイラルスパイダーの硬糸でございます。ただいま、絶賛高騰しており値段がじわじわ上がってきている商品でございます!こちらは、金貨1枚から始めさせていただきます! それでは、札をお上げください』
(――――!! き、来た……。絶対落札してやる)
アレスはかたく決心すると、勢いよく57番の札を挙げる。
『おっと、57番! 金貨2枚入りました……さらに、102番金貨3枚です!』
(な、なんだと……ライバルがいたのか……)
アレスの所持金は金貨15枚。だが、全てを使い切るつもりなど毛頭ない。最大金貨10枚までを目標としている。
まだ、余裕はあるため続けて札を挙げる。
『さあ、対抗して57番が金貨4枚! 102番はどうか? お、102番金貨5枚入りました!』
対抗して札を挙げる102番をアレスはチラリと横目で見る。30代ほどの優男に見える。
(あいつがライバルか……くそ、こんなところで負けられない!)
『またまた57番が金貨6枚! どんどん上がっていくー! 102番は……挙げている! 金貨7枚です! 負けじと57番も金貨8枚だーー!』
アレスの心中は穏やかではなかった。
余裕の表情で淡々と札を挙げている102番に苛立ちを覚え始めていた。
『いつまで続くのか! すかさず102番が金貨9枚だ! おーっと、57番が勝負に来たかーー! 一気に金貨15枚まて上げてきたぞ! 対する102番は……』
(頼む……限界額の金貨15枚だ。あんな優男に落とされてたまるか……!)
しかしアレスの祈りも虚しく、続く司会の言葉で希望は打ち砕かれた。
『あーーっと、102番が金貨16枚で来たぞー! 勝負を仕掛けた57番は……札が上がらない! 資金が尽きたか……57番!』
―――――カンカン、カンカン
『ここで終了ーー! スパイラルスパイダーの硬糸は102番、金貨16枚で落札決定でーーす!』
(……あ、終わった。もういいや、帰ろう)
意気消沈したアレスは、俯きながら会場を後にした。
ロウがチラチラと、顔色を伺っているが今のアレスにはロウの顔は見れない。
とぼとぼと、歩いていると後方から大きな声で呼び止められた。
「お待ちくださーーい! そこの冒険者殿!」
「……え? 俺……」
後ろに振り向くと、そこには102番の優男がいた。貴族ほどではないが、小綺麗な服装に身を包んでいる。
アレスは優男の顔を見て、露骨に嫌な顔をする。
「なんなんですか? 負かした相手を笑いにきたんですか?」
普段とは違い、一つ一つの言葉に棘がある言い方だ。
それでも優男は態度を変えずに、アレスの話しかける。
「そ、そんなことしませんよ……。あなたに少し用がありまして」
「俺に用……?」
「ええ、そうですとも。あなたは、かなり高位の冒険者とお見受けしました。Cランク以上はあるかと……」
優男は自分の予想に自信があるのか、ドヤ顔だ。よっぽど自らの観察眼に自信があるのだろう。
「俺はEランクですけど」
「ハハハ、そうですよね。そうだと思いましたよ。Eランクながらもそれ以上の力を持っていらっしゃると思いましたよ……」
「……」
(なんなんだ……こいつ。ひょっとして人を見る目がないんじゃ……)
「まあ、Eランクですけど。それ以上の力があるのは認めますよ」
「ほお……それならば話が早い。あなたと取引がしたい。話しだけでも聞いてはくれませんかな?」
「その取引とは? 俺に何の利があるんですか?」
「そうですね……。結論から言うと、スパイラルスパイダーの硬糸をあなたに譲っても構いません」
「……分かりました。まずは話しを聞かせて下さい」
アレスは怪しいとも思ったが、話しを聞くだけならいいだろうと考えた。
何よりもスパイラルスパイダーの硬糸をくれるというのが、一番大きな理由だ。
アレスは優男に手を引かれる形であるレストランへと行った。普段アレスが利用するような大衆食堂などではない。
落ち着いた雰囲気のある格式高い店だ。
「お待ちしておりました、ビスタ様。失礼ですが、そちらの方は?」
店の店員が優男を出迎える。どうやら、ビスタという名のようだ。店員は後ろにくっついているアレスに視線を移し、ビスタに問う。
「私の客人です。失礼のないように」
「それは……失礼しました。では、こちらへどうぞ」
店員に案内され、個室に通される。対面になるように互いに席に着く。
アレスは少し緊張している。
「まずは、自己紹介をさせてください。私はジスターブ商会会長のビスタと申します。以後、お見知り置きを」
「これはどうも、冒険者のアレスです」
軽く挨拶を済ませた後、運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、二人は話しを進めていた。
「すいません、ジスターブ商会という名に聞き覚えがなく……」
「いえいえ、大きくない商会ですので。王都に出店できないくらいですから」
商会というのは王都に出店できれば、大きな商会と言える。
それほどの商会となると、大きなクランと契約を結んでいることが多い。
小さいとはいえ、商会長と繋がりができたのはアレスにとっても嬉しいことだろう。
「それで、取引というのは」
「ええ、あなたには依頼を受けて頂きたい。もちろん、指名依頼です。スパイラルスパイダーは前渡しで差し上げます。依頼の報酬もしっかりとお渡し致しますので」
「依頼内容について、今伺うことはできますか?」
「構いません、ノアの大森林の奥地にあるノア湖の銀水草を取って来て頂きたいのです」
ビスタが述べた依頼について、アレスはいささか疑問を覚えた。
採取系の依頼であれば、何も指名依頼でアレスに出さなくてもいいはずだ。
「依頼内容は分かりましたけど……それなら普通に依頼を出したらいいんじゃないですか?」
「そうですね。出しても誰も受けてくれないんですよ。ノア湖の周辺にはエルフが住んでいるのです」
「 エルフがですか……」
エルフという種族は人と距離を置き、森で暮らしている。魔法適正が特に高く、戦闘能力が高い種族として有名だ。
人里には滅多に姿を現すことがないので、幻の種族とも呼ばれている。
ビスタはさらに言葉を続けていく。
「ノア湖周辺に踏み入ると、エルフが迎撃してくるのです。並の冒険者では歯が立たないので、皆受けないのです。ですが、アレスさんであれば、と私の本能が疼いているのですよ」
「少し考えさせてください」
(エルフか……。実際に会ったことがないだけに、不気味な存在ではある。攻撃してくるということは、住処なんだろう。人とエルフの確執を考えると、一戦やり合うことになるか……)
様々な可能性を考慮してアレスは答えを出した。
「分かりました。その依頼お受けします」
これにより、アレスはジスターブ商会長ビスタの指名依頼を受けることになった。
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