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エルフとわたし#18

「よしっ、この辺でいいかなっ」


テントから少し離れたところに林檎の樹さんの鉢植えを下ろす。

「あの……?」

グリフェルダさんはずっと不思議そうにしている。


「もうちょっと待っててね!」

「はぁ?」

「見ておればわかる」

シェファフルトさんはニヤニヤしてる。

他の隊員のエルフ達も遠巻きに見ている。


林檎の樹さんに「あのね、エルフの皆に林檎をあげたいの。大きくなってくれる?」ってお願いする。

すると、葉っぱをザシュザシュ動かした後、カッと光ってみるみるうちにいつもの立派な大樹になった。


「デザートを皆の分下さーい!」と、お願いすればいつも通りストンストンと林檎が落ちてきた。

「はいっどーぞ!」と隊員さん達に向かって言えば「おぉーっ!」「また林檎が食べられる!」「林檎だっ林檎!!」「いやっふぉーい!」と大はしゃぎで皆一つずつ拾ってゆく。「愛し子様ありがとうございますっ」と口々にお礼を言ってくれてすごい喜びようだ。


ねぇ、もしかしてエルフの国が何とかしてほしい事って林檎が不作でミアの林檎を分けて欲しい。とかじゃないよね?


一つ拾ってピュイトに「はいっピュイトの分ねっ」と渡せば自分で拾っていたシェファフルトさんとグリフェルダさんはミアとピュイトを交互に見て

「あの、お二人はその……」

「保護者とは言ってましたが、そのような間柄でしたか」

と、よくわからないことを言っている。

「私達は手渡しの間柄ですが、旅の間の保護者と子供。教師と生徒。愛し子と神父でしかありませんよ?」とピュイトは林檎を受け取りながら慌てて2人に言っている。

当たり前の事を言ってるけど、何でそんな事言う必要があるんだろ?

きょとんとしていたら「皆様こちらにおいででしたか」とアトラスさんが声をかけてきた。手には器を2つ持っている。でも片方はスープが入ったままだ。

「今日も召し上がらなかったか……」

「はい、城と同じ食事を出せの一点張りで……」

「この村の宿は素泊まりしかなかったが、明日は食事を出す宿だったはずだ、それまで放っておくしかあるまいな」

「私が不甲斐ないせいで皆様にも御迷惑を……」

アイツ、皆の作ってくれたごはん食べないなんてふざけてる。

王族か何か知らないけど、やっぱりヤなヤツだよ。

アトラスさんはどんよりと「私がもっとしっかりしていれば……」と、すごく落ち込んでいるみたい。

何だか可哀想になってきた。

「林檎、持っていっていいよ?」

「え?」

「お腹が空いてると余計に不機嫌になるでしょ?アイツのためじゃなくてアトラスさんが少しでも楽になるために、アイツに渡してあげればいいよ」

本当はアイツにはあげたくないけどねっ。

「良いのですか!?ミア様っありがとうございますっ」

感激した様子でアトラスさんは林檎を拾ってる。

ミアは拾ってあげないよ?

そこまで優しくないんだから。


「しかし、一夜でこんな大樹が現れたらここの村人はビックリしますね」

林檎の樹さんを見上げながらグリフェルダさんが笑ってる。

「今だけだから見れないと思うよ?」

「はい?」

見回せば全員に林檎は行き渡ったみたいだし、そろそろいいかな。


「林檎の樹さん、今日もたくさんありがとう!また小さくなってくれる?」

幹に触れながらお願いをする。


「え?は?」

「見ておればわかる」


ミアの言葉に頷くようにざしゅざしゅと葉っぱを揺すってから、林檎の樹さんはまた縮こまるようにして鉢植えサイズへと小さくなってくれた。

「あ、ありえない」グリフェルダさん、声が震えてる。

ふふふ、そんなにビックリしたのかな。


「はい!出来上がりー」


鉢植えを抱えてくるりと後ろを振り返れば、エルフは全員跪いていた。

シェファフルトさんもグリフェルダさんもアトラスさんも隊員さんも全員だ。


「え?え?え?」


何?何で?どうしたの?

さっきまで皆あんなにはしゃいでいたのに、今は誰も音を立てずに跪いて頭を下げている。

立っているのはミアとピュイトだけだ。


「えっと?皆どうしちゃったの?」

隣のピュイトの服の裾を思わず掴む。

おろおろしながらシェファフルトさんに聞けば、ニッと笑って「今は気になされずに」と返された。

この状態で気にしないなんて無理だよーー。


シェファフルトさんは立ち上がってミアの横へ並んだ。

そして皆を見回して「先にグリフェルダが通達した通りだ、愛し子様が“星”である。心してお守りせよ」と声を張り上げると皆一斉に「はっ」と返事をした。


鉢植えを抱えたまま固まっているミアに「宿へご案内いたします」とグリフェルダさんが声をかけた。

「ねぇ、“星”ってミアのこと?“星”ってなぁに?」歩きながらグリフェルダさんに尋ねれば「“星”とは護衛対象が複数の場合に使う、最も優先するべき対象の呼び名でございます」と真面目な顔で言われた。

えっと?

護衛する人がたくさんいるとして、一番に守る人ってこと?

それがミアなの?

でも近衛隊は王族を守るのがお仕事じゃないの?

それが何でミアが一番なの?

そう聞きたいけど、自分で近衛隊のことは知らないことにしちゃったから聞けない………。









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