エルフとわたし#14
教会の扉をギィっと開けて「こんにちはーピュイトお部屋にいるー?」と奥に向かって呼び掛ける。
「ほうほう、ここがピュリンハイドのいる教会ですか」
「小さいものだな」
「像ではなく女神様は浮き彫りでいらっしゃる」
各々感想を言いながらぞろぞろと中へ入ってくる。
奥のブライベートスペースへと続く扉から音がして「ミアですか?マリッサの具合がよくないからしばらく勉強会は中止……」としゃべりながらピュイトが姿を現した。
「ピュリンハイド!!」
姿が見えるなりウェルツティン先生は大きく腕を広げてピュイトに抱きついた。
「はっ!?えっ!?お、お祖父様!?」
仰け反りながらもウェルツティン先生を受け止めたピュイトは目を白黒させながら、今度はミアの後ろに立っている二人を見てさらにぎょっとしている。
「こ、これは何事です!?」
「あのね、話すと長くなっちゃうんだけどピュイトにお願いがあるの……」
教会のベンチに皆で座って事情を説明する。
「なるほど……それでお祖父様とエルフの皆さんがここへいらしていると……」ピュイトは顎に手を当てて首を傾げて考えている。
あ、これ、さっきウェルツティン先生もやってた。
ちょっと微笑ましく思いながら見ていたら、ピュイトは徐に「わかりました、エルフの国まで私が同行しましょう」と言った。
「ふぇっ!?」
「ピュリンハイド!?」
「考えてもみて下さい?このような小さな子供を保護者無しで旅をさせるなんてどうかしてます。幸い私はご両親からの信頼もあり、エルフの国のこともよく知っている。うってつけではありませんか」にっこりと、そう、とてもにっこりとピュイトは笑って言った。
「で、でもピュイト、教会はどうするの?」
ピュイトには女神様の教えを皆に教えるお仕事があるんでしょ?
すると、ピュイトは笑顔を消して視線をサーシェルさんへと向けた。
「サーシェルさん、あなた、神殿で私を苛めてた1人ですよね?」
突然そんなことを言われたサーシェルさんは目をしばたたかせながら「え?あの、いや…」と口ごもった。
「忘れたとは言わせませんよ?私はあなたもその仲間の8名の名前も顔もきっちりと覚えていますからね」目を細めてサーシェルさんを見つめるピュイト。
「思い出せないならこれでどうです?」耳の横の髪をかきあげて「丸葉だ、丸葉だとよくもまぁ飽きずに毎日からかってくれました」
「ピュリンハイドっそれは本当か!?」
「あ、あの頃は私もまだ子供で……」
あたふたしてるサーシェルさんをふんっと鼻で笑いながら、ピュイトはミアをちらっちらっと横目で見てくる。
……あ、そーゆーこと?
「えーっ!サーシェルさんそんなひどいことしてたの!?」
「ち、違うのです、子供の私はまだそれがそのように悪いことだとは思っておらず……っ」
「慈悲深い女神様の信徒がそんなんでいいのかなー?ミア、女神様に言い付けちゃおうかなー?」
それを聞いたサーシェルさんは茹でる前のザリガニより真っ青になった。
「そ、そ、そ、そ、それだけはお許しを………っ何でもっ何でもしますからっ女神様へお知らせするのだけはっ……!」
「なら、ピュイトが帰ってくるまでここにいて?」
「は、はいっ喜んでーーーっっっ!」
サーシェルさんの後ろでは片手を目に当てながら「またしても手玉に取られてしまった……」とシェファフルトさんが呟いていた。
「せっかくピュリンハイドと一緒に過ごせると思っていたのに……」としょんぼりしているウェルツティン先生と、浮き彫りの女神様に向かって一心不乱に祈り続けているサーシェルさんと、左手に鳩を出したまま「これは、どのように報告をしたらよいのだ……?」とぶつぶつ言ってるシェファフルトさんの三人を教会へ置いて、ピュイトとミアはじぃじのおうちへ向かうことにした。
「何て言って話すの?」
「ありのままを。少々話が複雑ですから作り話をしてしまうと後が大変になります」
「巻き込んじゃってごめんなさい」
「最初に誓ったでしょう?あなたがここで両親と暮らせるように力を尽くすと。それを守っているだけです、気に病む必要はありません」
「…うん、ピュイトありがとう」
じぃじのおうちに着いたら、ゲーテおばさんが驚きつつも中に入れてくれた。
応接室のベンチに座って何故来たのかを説明する。ピュイトはわかりやすく話してくれる。
ミアがエルフの国へ行くと決まったところで「儂がっ、儂が付いていってやるから大丈夫じゃ、ミア安心せい」とじぃじが椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「落ち着いて下さい」
「そうだよ、気持ちはわかるけど兄さんには村長の仕事があるじゃないか」
そう言われて、じぃじはへなへなと腰を下ろした。
「こんな小さな子に一体何をさせるつもりなのかねぇ」最後まで話を聞いたゲーテおばさんは目に涙を溜めて怒ってくれた。
じぃじはぼんやりとミアを見つめている。
「じぃじ」
座ってるじぃじの膝に頭を乗せる。
「一緒に来てくれるって言ってくれてミアうれしかった」
パパの本当の娘じゃないのに、こんなに可愛がってくれるなんて初めて会った時は思いもしなかった。
「儂は…、リリーにもマリッサにもカッツェにも何もしてやれんな……」
じぃじはミアの頭を撫でながらがっくりと首を垂れた。
……リリーはパパのお母さんだ。
「そんなことないよ、じぃじにはね他にお願いがあるの。パパがねママの側を離れられないからじぃじとゲーテおばさんに旅の支度をお願いしなさいって……」
それを聞いたゲーテおばさんはさっきのじぃじより勢いよく立ち上がると「任されたよ。カッツェの代わりにきちんと支度をしてあげるからね」と頼もしく言ってくれた。
じぃじも「もちろんじゃ」と引き受けてくれた。




