エルフとわたし#11
少し焦るような、いつもと変わらないような、そんな四日間を過ごしてとうとうエルフのお医者さんがミアのおうちへ来た。
待ちきれなくてお庭でそわそわしてたミアの目に三人のエルフが映った。
シェファフルトさんとサーシェルさんとあと一人、白衣は着てないけど、あの人がお医者さんかな?
40才になるかならないかぐらいの見た目をしてる。
薄灰色?銀色に近い髪にきれいな澄んだ黄緑色の瞳。
今日はあのイヤなヤツとアトラスさんって人は来てないみたい。よかった。
あ、後から来るなんて事はないよね?
シェファフルトさんに聞いてみようっと。
「今日はあの偉そうな子供は来ないの?」
「あぁ、あの方はいても邪…ごほっ、今日は宿でお休みになっておられる」
シェファフルトさん、今、邪魔って言いかけなかった?
「そっ、よかった」
「初めまして、ミアって言います。今日はミアのママを診察して下さい。よろしくお願いします!」
お医者さんだと思われる人に腕を胸の前に交差させて左足を軽く後ろへ引いて膝を曲げるエルフ式お願いのポーズをする。90度に腰を曲げるほうが“お願いしてる”っぽいと思うんだけど、習った時にピュイトから「小さなことから異世界から来たことがわかってしまいますよ?」とやらないように釘を刺されてる。
ちなみにこれは目上の人にやるポーズで、エルフの国じゃなくても通じるから覚えておいて損はないって言われた。
「おやおや、愛し子様にそのようなことをされては困ってしまいますよ。私は医者ですから、患者さんがいるならば診察するのは当然なのですよ」
「でも、ミアはとってもうれしいの。あ、ミアはね、愛し子様じゃなくてミアって呼んで下さい」
「では、ミア様、ご期待に添えるように努めましょう。私の事はウェルツティンとお呼び下さい」
「はいっ、よろしくお願いします。ウェルツティン先生っ」
「はい、よろしくお願いします」
ふわりと微笑んでくれるウェルツティン先生。
あれぇ?この表情前も見たことある………?
……そんな訳ないか、今日初めて会ったんだし。
「パパっお医者さんのウェルツティン先生が来てくれたよっ」
扉を開けてパパを呼ぶ。
ウェルツティン先生がおうちの中へ入ると、シェファフルトさんとサーシェルさんも中へ入ってこようとする。
「ママを診察するんだよ!?お医者さん以外は入ってこないで!!」と睨んだら「…あ、これは失礼をした」とすごすごとまたお庭に戻っていった。
もうっエルフにはデリカシーもプライバシーもないのかな!?
待ってる間、ヤギママに教えてもらえばいいのにっ。
それを見てウェルツティン先生は「これはこれはしっかりしていらっしゃる」とくすくす笑った。
ベッドへ寄せた椅子から立ち上がったパパは「お待ちしてました。妻を、妻を是非診て頂きたい」と祈るような声でウェルツティン先生にお願いした。
今日のママはミアが知ってる限り今までで一番良くない。
体を起こしていられなくて、今日はずっと横になっている。
顔色も青いを通り越して、白いというか赤みが全然ない。唇が肌と同じ色だ。
「では、早速診てみましょう」と、ウェルツティン先生はパパが座ってた椅子に腰かけた。
見たところカバンとか持ってないけど、聴診器とか使わないのかな?
ママの寝間着はそのままでいいのかな?
ミアとパパは先生の後ろで立っている。どちらからともなく手を繋ぎあった。
静かに眠ってるママの上に手をかざすと、先生の手が薄緑に光った。すると、その手のひらの下にあるママの体も光った。
「まずは心臓から……」
先生はゆっくりと体の上で手のひらを移動させる。
魔力があると触らないでも診察できちゃうのかな?
次々とママの体をあちこち光らせながら、ゆっくり手のひらを移動させていた先生の手が止まった。
それはお臍の下辺り。
先生はそこでゆっくりと円を描くように動かすと
「この方は出産で難儀しましたか?」と聞く。
ミアが握ってるパパの手に力が込められた。
「はい、8年ほど前に…難産の上死産でした……」
「そうですか」
そのまま、今度は頭から爪先までまんべんなく全体にゆっくりと手のひらをかざし続ける。
ずいぶん長い間そうしていた気がするけど、最後にもう一度お臍の下辺りを光らせて先生は「わかりました」と言った。
「あちらで話しましょう」先生はミア達をテーブルへと誘った。
「奥様の不調の原因ですが、2つあります。1つは難産だった時に子宮に傷ができたのでしょう、その痕に大きな腫れ物ができています。そしてもう1つは、奥様の生まれつきの体質でしょう。血を造る力が非常に弱いようです。腫れ物がたくさんの血でどんどん大きく成長してしまってるせいで、体の必要なところへ血が巡らせられずにいるようです。もともと奥様は目眩がちだったのでは?」
そういわれてパパは軽く頷いた。
「先生、ママはどうしたら治るの?」
「……さてさて、どのようにお話しましょうか」
先生は顎に手を添えて首を傾げて考えている。
「まず、治療をすれば治ります。それには魔力持ちで腕の良い医者、それと薬が必要です」
良かったママ治る!
「……そして、その2つを用意するためには……そうですね、町に一軒家を建てるほどのお金が必要になるでしょう」
「え………?」
「家、一軒……です……か?」




