エルフとわたし#10
「ミアー!遊びに来たぞーーっ。悪ぃ、母ちゃんがこの間のザリガニのお礼にってパン焼いてたもんだから、すっかり遅くなっちまった」
明るい声がして振り向くとカイ兄ちゃんがお庭の端に立っていた。
手に持った布の包みを顔まで上げて、そのまま固まっている。
「ぇ……エルフ!?」
ミアの前に立っているサーシェルさん達を見てビックリしている。
「なんで、今さらエルフが…!?」と呟くと、つかつかと大股でミアに近寄ってきて、後ろへ庇うように前へ立った。
「今さら来たってミアは渡さねぇぞっ!ミアは父ちゃんと母ちゃんが大好きでここで幸せに暮らしてんだからなっ!今さら迎えに来たってミアは絶対ぇ、連れて行かせねぇかんな!!」
と、すごい剣幕で怒っている。
エルフ達はぽかーんとしている。「迎えには来ましたが……今さら…とは?」サーシェルさんは戸惑っている。
あー、カイ兄ちゃんはミアがエルフから預けられた子だって思ってるから……
両方一編に説明するのは面倒だな……。
「パパっ、こっちの方よろしく!お医者さん来たら、また来てって言っておいて!」
カイ兄ちゃんの服をくいっと掴んで、「こっち来てっ」とお庭から引っ張りだした。
小川まで来てミアが手を離すと「どれがミアの父ちゃんだって!?オレまだ言ってやりてぇことあったんだぞ」とおうちへ引き返そうとする。
「どれもパパじゃないよっ!」と慌てて言えば「そうなのか?じゃあ、何でミアん家に?」と眉を寄せた。
「それは……っ!」
大事な秘密、愛し子であることを話さないといけないかな、とミアの頭の中がぐるぐるする。
「あ、あのねっ…!」と、ミアが話出そうとしたら、
きゅるるる………とお腹が先に空腹を訴えた。
カイ兄ちゃんはミアのお腹を見つめて、にやっと笑った。
「話の前にメシだな。その様子じゃ朝飯も食ってねぇんだろ?」と言った。
そう言われてみれば、ミアはまだ寝間着のままだった。靴だけはおうちに入った時にさっと履いたけど、着替えるヒマも朝ごはんを食べるヒマもなかった。
カイ兄ちゃんは持ってた包みをミアの顔の前でブラブラさせて「これ食おうぜ」と言った。
足を水に浸けながら、パンを齧る。
包みから出されたパンはコッペパンみたいに細長くて、甘酸っぱい匂いがする。
「やった!干し葡萄入りだっ」
つい、はしゃいだ声をあげたら「やっぱ食い意地張ってんなぁ」って笑われた。
「んで?あいつら何でミアん家に来たって?」
もぐもぐしながら、カイ兄ちゃんが尋ねる。
んー、カイ兄ちゃんに嘘つくのも嫌だし、ここで嘘ついちゃうと、いくつも嘘を重ねる事になっちゃう。
カイ兄ちゃんになら話してもいいかな。
「あのね、びっくりしないでね?実はね……ミアはね……」
ミアは女神様の愛し子であること。
だからエルフが置いていったのは嘘だってこと。
ピュイトとも相談して愛し子だってことは隠していること。
あのエルフの人達はミアを連れに来たけど、お断りしたこと。を全部話した。
今まで黙っていたことを怒られるかと思ったけれど、カイ兄ちゃんは
「ミアそんなすげぇやつだったのかよ。ただの食いしん坊じゃなかったんだな」と笑った。
「ミアそんなに食いしん坊じゃないってばっ!もうっ」ぷんぷんしてみるけれど、内心はカイ兄ちゃんの態度が変わらなくてすごくうれしい。
「じゃーあれか、あいつらは国のためにミアを連れに来たのか」
「そうみたい。でも、はっきり断ったから大丈夫!」
「……ふーん」
「ミアはぜったいパパとママから離れないんだからっ」
ふんすっと握り拳に力を入れて決意を新たにする。
エルフの国がどうなってるのかは知らないけど、自分の国の事は自分で何とかしたらいいんだよ。あんな風に魔法が使えるんだもん、きっとミアがいなくてもなんとかなるよ。
「この話は村の人には内緒にしてね?」
「あぁ、わかった」
「じゃあ、帰ろっか?」
おうちに向かって歩きだしたミアの背中へカイ兄ちゃんが小さな声で何か言った。
「……ずっと側にいろよ……」
「えっ?なぁに?」
振り返って聞き返したけど、「なんでもねぇよ」と早歩きで追い抜かれただけだった。
カイ兄ちゃんは庭までミアを送り届けると「今日はミアも大変だったろうから、もう帰るわ」と言って村へと帰って行った。
おうちへ帰ったら、パパとママは朝ごはん兼お昼ごはんを食べていた。
「エルフ達すぐ帰った?」と聞いたら
「うん、そうだね。あの子供のエルフだけはうちのヤギをいたく気に入ったみたいで連れて行こうとしてたけど、最後は後ろ足で蹴られそうになって慌てて帰って行ったよ」
また、アイツか!
ヤギママ本当に蹴っちゃえばよかったのに。
「ミア」ってママが手招きをした。
側まで行くとぎゅっと抱きしめられる。
「パパから聞いたわ。お医者さんがここへいらっしゃるって。とてもうれしいけれど、その為にミアが大変なのはママは嫌よ?」
ぎゅっとされたまま、ちゅっとこめかみにキスをされる。
ふふ、くすぐったい。
「大変なことなんてなかったよ?ミアはママが大好きだから、早く元気になって欲しいの。お医者さんに診てもらえば、きっと良くなるよ?」
「えぇ、きっとそうね」
ママの目は少しうるうるしている。
「あー、ママとミアだけズルいなぁ」
パパがふざけた声を出して、ミアと抱き合ってるママをミアごとぎゅっとする。
「パパを仲間外れにしない」
ぎゅむぎゅむと腕に力を入れられて「あははは、パパ、いたーい!」「あなたやり過ぎよ」って笑いながらしばらく3人でくっつきあってた。
愛し子とかミアに関係ない。
ミアはずっとずっとここにいたい。




