エルフとわたし#5
その時、「ミア?これは何事?その人達は誰なんだい?」とおろおろしてるパパが戸口に現れた。
これだけ騒げば気がつかない方がおかしいけど、今はちょっと邪魔かも。
「パパ、ミア、この人達と大事なエルフ同士の話し合いがあるから、パパはママの側にいてあげて」
「何言ってるんだ、1人でなんて……」
「言う通りにしてくれないとパパのこと嫌いになっちゃうかも」
「うん、終わったら呼ぶんだよ?」
「わかってる」
背後で扉の閉まる音。
ごめんね。パパのこと嫌いになんてなるはずないけど、今はおうちの中にいて!
ヤギママがこちらへ歩いて来てくれてる。
さすがヤギママ、わかってる。
「ねぇ、泥棒、何か言うことがあるんじゃないの?」
とりあえず、一番偉そうな一番嫌なヤツに話しかける。
そしたらソイツじゃなくておじさんが
「だから、それは誤解である」と言い出した。
「何が誤解なの?」
「我々は泥棒ではない」
「じゃあ、泥棒ってどんな人の事か言ってみて?」
「泥棒とはな、人のものを勝手に盗んでいくやつらの事だ」
ここまで言っても気づかないなんて!
「これはヴィゼンベルク村の土地の山番の小屋の敷地にある、わたしの林檎なの。わたしはあなた達に林檎を食べていいって言ったっけ?」
林檎の樹を指差しながら丁寧に教えてあげる。
「あなた達は“泥棒”でしょ?違うなら今すぐ食べた林檎を元通りにしてよ」
林檎の樹の下には食べ散らかした芯がたくさん転がっている。
お腹を空かせたカイ兄ちゃんだって、いつもちゃんとミアに食べていいか?って聞いてくれるのに。この人達、本当になんなのもう。
ここまで言って、大人達はようやく自分達が泥棒をしたんだって気がついたようで、少し気まずそうな顔をした。
「食べた林檎が元に戻る訳ないではないか」馬鹿馬鹿しいといった顔でムカつくヤツが口を開いた。
だから、ミアはそれを言ってるんだってばっ!
「あ、で、では、これを」
下敷きにされた人が、腰につけたポーチから何か取り出す仕草をする。
「エルフの国では後からお金を払えば食い逃げしてもいいんだ?」
「いえ、あ……」
「何なのだ一体、さっきからぐだぐだとっ。私を誰だと思っているのだっ!林檎ならまた生るからいいであろう!?」
「あんたなんて、ただの泥棒だよっ!何でそんなに偉そうなの?」
「なっ」
「まさかと思うけど、本当にわかってないの?こんな簡単なことがわからないなんて、頭弱いの?あ、共通語がわかんない?エルフ語で話そうか?」
「な、なっ、なっ」
「泥棒が悪い事だって教えてもらわなかった?あ、ごめんごめん、頭弱いから教えられても覚えていられないんだよね?じゃあ、ミアが教えてあげる。いい?あんたは泥棒。わかった?」
そこまで一気に捲し立てたら、偉そうなヤツは顔を真っ赤にしてる。
「すまないが、そこまでにしていただきたい。この方は人に言われるのに馴れていないのだ」
おじさんが偉そうなヤツを庇った。
知るかそんなこと。
「ふーん、周りがそんなだから、だからこんなんなんだ」
ふんっと鼻で笑ってやる。
それを聞いた大人達は苦い顔をした。
神父の服を着た人が「愛し子様のお怒りはわかりました。我々はどうすればよいのですか?」と聞いてきた。
自分で考えろ!!!って怒鳴りたかったけど、話が進まなくなっちゃう気がしたから「わたしは謝罪と反省を求めます」って言ってやった。
悪いことしたら謝るのは当然でしょ!
「確かに、我々は誰も謝ってはいなかったな……」
おじさんがふむ、と納得してる。
「で、では、私から……」
神父の服の人が進み出てくる。
「久しぶりの林檎に我を忘れてしまってお恥ずかしい限りです。申し訳ありません」と、片膝を折って地面につけ、左手を心臓の上に置いた。
あ、これ、エルフの正式な謝罪の仕方だ。ピュイトに習った。
軽い謝罪なら膝を軽く曲げるだけで済ませるんだよね。
で、受け入れる方は右手を心臓へ当ててからポンポンと二回軽く叩く、と。
「謝罪を受け入れます」
エルフの作法で返されるとは思ってなかったのか、神父さんは目を丸くした。
次は下敷きになったアトラスという人が来た。
「愛し子様の大切な林檎を勝手に食べてしまってすみませんでした」こちらも膝を地面につけて謝ってくれた。
「謝罪を受け入れます」
ポンポンと胸を叩く。
次は?
ちらっと偉そうなヤツと目が合う。
「さぁ、リデル様、謝罪を。我々が悪いのですから」
先に謝ったアトラスさんが謝るように促す。
「……」
だけど、リデル様とやらの口は固く結ばれて開こうとはしない。
「頭弱いと謝る言葉も覚えられなくて大変だね。共通語が難しいならエルフ語でいいよ?あ、それもわかんないか。いい?エルフ語では『ごめんなさい』だよ?」
「くっ…お前みたいな者に誰が謝るかっ」
「リデル様!?」
アトラスさんは顔を引き吊らせた。
ダメだ、こりゃ。
こいつは諦めて、おじさんの顔を見る。
「私か?私は林檎を食べてはいないぞ?」
ダメなのがここにもいた。
「おじさんがこの人達のリーダーじゃないの?」
「あぁ、責任者は私だ」
「連帯責任って知ってる?それにおじさんは仲間を止めることができたでしょ?リーダーって何のためにいるの?」
と、問いかけると「……一理ある」と、他の二人と同じように謝ってくれた。
ミアもポンポンと軽く叩いておく。




