エルフとわたし#4
叫び声に唯一、樹に登らずにいた人がぎょっとこちらを振り返った。
「誤解だ、我らは泥棒などでは………」
「林檎の樹さんっ、泥棒を振り落としてっ!!」
林檎の樹さんは一度ざわりと枝を揺すり、腰を捻るように幹を捩らせた。
「え…」
「は?」
「何だ!?」
樹の上で戸惑う声がするけれど、知った事じゃない。
「やっちゃって!」と、ミアが合図をしたらブゥンと風切り音を出しながら、捩った幹を勢いよく戻した。
その勢いに枝に捕まっていた泥棒は一人、二人、と地面にべしゃりと落ちてきた。落ちても手に持ってる林檎を離さない。
一番上にいる泥棒はしぶとくて落ちてこない。
「林檎の樹さんっ、払い落としてっ!」
「ま、待てっ!?」
下にいた人が焦ってミアを止めようとするけど、それより速く、蝿を手で払うように枝は泥棒をぺいっと払った。
「リデル様っ!」
先に振り落とされた一人が慌てて落下地点へ滑り込んだ。
「ぐぁっ」と落ちてきた泥棒の下敷きになった人が巨大カエルの鳴き声みたいな呻き声を上げた。
肋骨とか折れてるかも?
「ご、ご無事ですか!?」
「遅いっ!もう少しで地面にぶつかるところだったではないか」
はぁ?
何アイツ。
そこは「助けてくれてありがとう」じゃない!?
ミアがムカムカしていると、そいつはミアに向かって「私に害なすとは許さんっ、アトラスそいつを捕らえよ」と、自分が下敷きにした人に命令してる。
は?何言ってるの?
捕まるのは泥棒のそっちだよっ!!
朝もやが晴れて、庭に朝日が射し込んでくる。
泥棒達の姿がはっきりと見えるようになった。
全部で男の人が4人。
全員耳が長い。
エルフ………!
何でエルフがミアのおうちで林檎泥棒してるの!?
向こうもミアを見て、ぎょっとしてる。
「おぉ、本当におられた……」
一歩ミアに近づいてきた人はピュイトが着ているのと似てる、薄紫の学ランみたいな服を着ている。
教会の人なの?
「何をしているっ!?早くその無礼な子供を捕らえぬか!」
命令してるのはカイ兄ちゃんと同じぐらいの年に見える。そいつだけ他の大人のエルフより立派な服を着ているのがわかる。長い白金の髪、ミアを睨んでる瞳はアイスブルーだ。
何だろ子供なのに、すごく偉そう。
「リデル様、なりません。先代様の言う通り愛し子様はこちらにおられたのです。林檎の樹も存在してますし、間違いはないかと思います」
この人達、ミアが愛し子だって知ってる!?
一番年上っぽい、樹に登っていなかったおじさんが首を横に振った。おじさんも赤味がかった金髪を一つに括ってる。腰には剣をさしている。
「ちっ、お前、今度無礼な真似をしたらその時は許さんからな」と、リデル様とやらは吐き捨てた。
ぷちっ……
頭の中で小さな小さな音がした。
怒っていいよね。
うん、怒っていいとこだよ。
みりあは所長さんに、「汚い言葉で自分の心を表現したら、その言葉に心が引っ張られてしまうよ?」と教えられたからなるべく“ムカつく”とか言わないようにしてた。
けど、いいよね?
ここは所長さんじゃなくて、ゆかりお姉さんの教えを守るべきところ。
うん、絶対そうだ。
「ケンカ上等、ナメられたままでいられるかってーの」だ!!
『ムカつく』
久しぶりに使ったけど、今の気分にピッタリだ。
「「「「は?」」」」
『聞こえなかった?ムカつくって言ったの』
ミアがエルフ語をしゃべったのが意外だったのか、“ムカつく”が意外だったのか知らないけど、エルフ四人はぽかんと間抜けな顔をした。
おじさんの言ってることはよくわからないけど、あいつらがエルフだってことはよーくわかった。
ピュイトに教えてもらった通りだ。
エルフは自分達が一番偉いと思ってるって。
だから普人の血が混じってるピュイトは王都の教会へ行ったんだって。
そっか、こんな話の通じなさそうなヤツラばっかりなら、それは国を出たくもなるよ。
「ナメられていいことなんて、なんもねぇーかんな。〆るときはあたしが手伝ってやっからな」
ニッと笑うゆかりお姉さんを思い出した。
ミアがんばる…!
いつも読んで頂いてありがとうございます。
夏本番ですね。
そして夏休みですね。
仕事がかなり忙しくなるので夏休みが終わるまでは、週一の更新になりそうです。
すみません。
のんびりとお待ち下さい。




