エルフとわたし#3
楽しい夢を見ていた。
この間カイ兄ちゃんが山のおうちへ遊びに来てくれた時の夢。
その日はママも具合が良くて「二人で遊んでらっしゃい」ってお庭から見送ってくれた。
12才になったカイ兄ちゃんと一緒なら、お庭から出るのも許してもらえて、ミア達は前にママがお水を汲むために通った小川まで遊びにきた。
小川の側は日陰で涼しい風が吹いているから、夏に過ごすのはぴったりの場所だ。
足を水に浸けてあれこれおしゃべりする。
カイ兄ちゃんは連れてってもらえるようになった狩りの事を話してくれる。うんうんと相づちを打ってはいるけれど、ミアはそのお肉が美味しいかどうかが早く知りたい。
ふと、ミア達がいるのとは反対の草に覆われて影になってる場所、水中に何か青い物がゆらゆらしてるのに気がついた。
「カイ兄ちゃん、あれ、青いの何?」
「ん?どれだ?」
そっと水をジャバジャバさせないように近づいて水面に顔を近づけたカイ兄ちゃんは、またそっと戻ってくると
「ミア、すげぇぞ、いっぱいいる!」
と興奮してる。
何?何がいるの?怖くないやつ?
「急いでうちから何か入れるもん、持ってこようぜ」
急いで足を拭いて、おうちへ駆け出す。
「ねぇ、何?何がいたの?」
「ザリガニだっ、あれ美味ぇんだぞっ」
ザリガニ!?青いのに?
教室で飼ってた、アレ!?
アレってちょっと臭かったけど!?
カイ兄ちゃんはママから桶を受けとると、とって返してまた小川までやって来た。
「ミアはこっち側で桶が流れて行かないように押さえててくれな?」
ズボンを捲ったカイ兄ちゃんは、また反対側へそっと近づいていく。
両手を突っ込んだと思ったら、すぐ2匹掴んで、ミアが押さえてる桶に放り込んできた。
ビビっとザリガニが桶の中で暴れたけど、すぐおとなしくなった。
カイ兄ちゃんは次々とザリガニを放り込んでくる。
「ここ、誰も獲ってねぇから、滅茶苦茶いるぞっ。オレが全部獲ってやるからな!」
ポイポイと投げ込まれるザリガニ、あ、一匹狙いが外れて水中へ逃げちゃった!
「逃がさないからっ」
咄嗟に腕を水中に突っ込んでザリガニの背中をむんずと掴んだ。
美味しいなら逃がしてなるものか。
無事桶に入れてほっとしたら、カイ兄ちゃんがこっちを見ていた。
「ハハハッ!相変わらず食い意地はってんなぁ」
「ち、違わないけど、違うもんっ」
桶の中には20センチぐらいの、真っ青なザリガニがうごうごしてる。
50匹はいるんじゃないかな?
色以外は教室の水槽にいたのと変わらなくみえる。
「まぁ!すごいわ、こんなにたくさん!」
持って帰ったら、ママは桶の中を見て目を丸くした。
「早速茹でちゃいましょう」
おうちで一番大きなお鍋を出してきた。
お水を入れるのはカイ兄ちゃんに手伝ってもらった。ママが最近具合が良くないの、カイ兄ちゃんも知ってるから
「ミアの母ちゃんは座っててくれよ、オレらでやるからさ」と言ってくれる。
「ありがとう、暴れてお湯が跳ねるから気をつけてね」
ママは座って見守る係になった。
お鍋のお湯がぐらぐらと沸騰したら、お塩を多めに入れて次々とザリガニを入れていく。
「見てろよ?」
みるみるうちに真っ青なザリガニは真っ赤に変わった。
「赤くなった!」
茹で上がったザリガニからは、カニのような、エビのような香りが立ち上ってくる。
ミアのお耳とお鼻が勝手にピクピクしちゃう。
「出たな、ミアのピクピク!」
カイ兄ちゃんはいっつもそれをからかうんだから!
「もー!勝手になっちゃうの!」
ぷんぷん怒ったフリをするけど、本当はそんなに怒ってない。
それよりもホカホカ湯気を立てているザリガニが気になる。
だって、だって、すごく、すごく、久しぶり。
みりあが食べたことのある、海の海老や蟹とは違う味かな?でも香りはすごく海老っぽいから、期待がどんどん膨らんじゃう。
溢れた唾液を気付かれないように飲み込んだつもりだったのに、「味見は1つだけだぞ?」とニマニマしたカイ兄ちゃんに言われた。
カイ兄ちゃんは手際よく殻を剥いて「ほら、あーん」ってミアの口元へ差し出した。
そうされたら、仕方なく口を開けるけど、パパもじぃじもカイ兄ちゃんも、何でミアにいつまでも餌付けしたがるのかな。ミアもう7才なのに。
ぱくりと口に含んで、奥歯でぎゅむっと噛み締めるとプリっとした食感で身の繊維が解れる感覚がして、口の中が海老の香りでいっぱいになった。
澄んだ水にいたからか、泥の臭いも生臭さも全然ない。
これはもうザリガニじゃない、海老!海老にしか思えない!
「おいしいッ!」
ほっぺを押さえながらカイ兄ちゃんに伝えれば、「だろーー?」と得意満面になった。
半分より少し多いぐらいのザリガニをお土産にカイ兄ちゃんは帰って行った。
「来週の星の日、また来るからなー!」
庭に出て見送っていたら、なぜか林檎がころころと坂道を転がってカイ兄ちゃんを追いかける。
林檎は後から後から次々と樹から勝手に落ちて転がって行く。
待って!
林檎が全部なくなっちゃう!
慌てて追いかけるけど、走っても走っても追い付かない。
もぉ、これはミアの林檎なんだから!
勝手にどっか行ったらダメなんだから……!!
お耳がザワリとして、ふっと目が覚める。
あぁ、カイ兄ちゃんが遊びに来てくれるのは今日だったっけ、と、思い出す。
変な夢。
途中まではちゃんとこの間の事だったのに、林檎が出てきてからは、よくわからない夢になってた。
隣ではパパとママ二人分の寝息が聞こえてくる。
ミアももう少し寝ようともう一度目を閉じた。
ゾクゾクッと耳が震えた。
これ、気のせいじゃない!!
バッとベッドから飛び降りる。
寝間着のまま、外へ飛び出した。
庭に出てみると、明け方の薄いもやの中、林檎の樹に人が登っているのが見える。
一人じゃない、何人かいる。
そいつらは林檎をもいで、噛ってる。
ここにまで甘酸っぱい香りが漂ってくる。
「り、り、りんごドロボーーーーーーっっっ!!!!」
山間にミアの叫びが響いた。
何気に数話前からサブタイトルを変更しました。#1、#2を読んで、読んだよね?と、混乱してしまった方がいたらすみません。それは#46、#47のサブタイトルを変更したものでございます。
いいのが思い付かず暫定的にそのまま「ヴィゼン…」を使っていたのですが、さすがに内容と齟齬が出てきてしまってるので変更をしております。
タイトルで出オチ。
避けたかった………。




