エルフとわたし#2
22.7.12タイトルを「ウィゼンベルク村とわたし#47」から「エルフとわたし#2」に変更しました。
本文の変更はありません。
夕方になって、パパが山のお仕事から帰ってきた。
「おかえりなさいっ」
さすがにもう抱っこはされないけど、ぎゅっと抱きしめてからの、すりすりは変わらず続いてる。
ママは「ミアがいつまで嫌がらずにさせてくれるかしらね?」って笑うけど、すりすりはずーっと続けるもん。
「ただいま。ミア、ママを見ててくれてありがとう」
ベッドに横になってるママに「すぐ夕飯にするから、もう少し待ってて」と声をかけた。
パパのお母さんが病気になってから家事全般をしていたパパはお料理もできちゃう。
山番のお仕事で疲れてるはずなのに、そんなこと全然出さずに「さて、何を作ろうかなぁ?」と、野菜籠を漁ってる。
本当は山番のお仕事は、あと一年だったはずだけど、他にやりたい人がいなかったのと、パパが山番になってから染料の木の手入れが丁寧で葉っぱや実の収穫量が増えたことから、パパが続けてやることになった。
だからパパは夏は山番、冬はじぃじの仕事のお手伝いの二足のわらじってやつだ。
「よし、今日はこれかな」
パパは籠からトマトと玉ねぎ、それに棚から乾燥麦を取り出した。
まずはやかんにお湯を沸かす。
沸騰したら大きなボウルに入れておいた乾燥麦がひたひたになるまで注いだ。乾燥麦は、蒸してから潰した後、天日干しされたものだから、お湯で戻すと柔らかくなってすぐ食べられる。
おなべを火にかけて、バターを溶かす、そこへ微塵切りにした玉ねぎを入れて炒める。玉ねぎが透明になったら、角切りにしたトマトを入れて潰すように混ぜる。
「ミアはおろし金でチーズを削ってくれる?」
「わかった!」
お昼も使ったおろし金をまた取り出して、固くなったヤギのチーズをゴリゴリ削る。
トマトがぷつぷつ泡立つ様に煮え始めたらお水を加えて、柔らかくなった麦も水気を切ってお鍋に入れた。
最後にお塩で味を整える。
しばらく煮たら完成だ。
「リゾットができたよ、さぁ食べよう」パパがママが起きるのに手を貸している。
その間にミアは木のお皿にリゾットをよそって、カップにお水を入れてテーブルへ並べる。
削ったチーズのお皿には、小さなスプーンも添えて、と。
「いただきます!」
食べる前にチーズをパラパラリゾットに振りかける。
「ママのもかけてあげる!」
「ふふ、ありがとう。じゃあ、少しだけお願いね?」
少しだけ。ママはたくさん栄養を取った方がいいと思うのに、最近はスープや口当たりのいいものしか食べなくなった。本当はお肉やチーズ、もっと食べて欲しい。
スプーン一杯をパラリとかけたら、すぐとろりと溶けだした。
「あちち、でも、おいしっ」
今年はトマトがとっても甘い。
仄かな酸味の柔らかく煮たリゾットはママでも無理なく食べられるよね。
「ミアが育ててくれる野菜はどれも美味しいね」
パパが誉めてくれる。
えへへ、子供をやる気にさせる冗談だってわかってるけど照れちゃう。
村で農家のお手伝いをした時も、ミアがお手伝いするとよく育つ。って、ミアが気持ちよくお手伝いできるように皆言ってくれたっけ。
夕飯はママも全部食べきってくれた。
ほっと一安心だ。
使ったお鍋や食器にクリーンをかける。それから、皆にもクリーン!
「ふぅ、さっぱりしたよ、ありがとうミア」
クリーンしたのに、パパはまたお湯を沸かしてる。
「どうするの?」
「クリーンでキレイにはなったけどね、ママの手足を少し温めてあげようと思ってね」
はっとしてベッドのママの手を握れば、夏なのにひんやり冷たい。
パパは「あちちち」と、言いながら布をお湯につけて絞ってる。
ほかほかの布でママの手をくるむと、「温かくてとても気持ちがいいわ」と、顔色も少し赤味が差して見える。
足も同じように温めてあげたら、すぅと眠りに入ってしまった。
「ママの手足が冷えてるのミア気がつかなかった。ごめんなさい」
あんなに気持ち良さそうなら、お昼もしてあげたかった。
「熱いお湯を使うから、ミアはやらなくていいよ、帰ったらパパがやるからね」
「でも、ママに何かしてあげたい」
そう言うとパパはミアのほっぺを両手で包み込んで
「ミアは十分お手伝いしてくれてるよ?パパは本当に助かってる。クリーンに畑のお仕事もなんて、普通はできないよ?」と微笑んでくれた。
「明日はカイが遊びにきてくれるんだろう?早く寝ないとね」
「うん、おやすみ」
パパはママの横へ、ミアは隣のベッドへ潜りこむ。
さすがに7才だと3人一緒のベッドには眠れない。
5才の時だったかな?寝返りをうったパパがベッドから落ちて頭を打って痛そうだった。
じぃじにお話ししたら村の大工さんにミアのベッドを作ってもらってた。
組立式になってて、おうちの中であっという間に出来上がった。
パパとママと離れちゃうのは少し寂しかったけど、パパがまた落ちてケガしちゃったら困るもんね。
ママの体調が早く良くなりますように。
ヘッドボードの棚に置いたセラちゃん人形にお祈りする。
薄緑の光をぼんやり見つめていたら、いつの間にか眠っていた。




