エルフとわたし#1
22.7.12 サブタイトルを「ウィゼンベルク村とわたし#46」から「エルフとわたし#1」へ変更しました。
本文の変更はありません。
そんな風に毎年じぃじのおうちで冬を過ごして、山のおうちで夏を過ごしてあっという間に4年が経った。
ミア、7才の夏!
パパとママからたっくさんの愛情をもらって、ついでにお肉もお野菜もたくさん食べて大きくなったよ!
ミアはみりあより少し小柄な気がするけれど、毎日元気いっぱいに遊んでる。
7才っていえば、みりあの世界では小学一年生だ。そろそろ自分のことを“ミア”って呼ぶのを止めないといけないと思いつつ、クセになっちゃって止められない。小さい時は私はもうみりあじゃない、ミアなんだ。って、自分に言い聞かせる為にわざと言ってたのがクセになっちゃうなんて。
パパとママはもう少し大きくなるまでそのままで大丈夫だよ、って言ってくれてるから、しばらくはミアはミアのままだ。
風が吹いて、林檎の樹さんがざわざわと葉っぱを揺らしてる。
ミアの長く伸ばした髪もさらさらと風に揺れる。
冬の間、植木鉢のままお部屋の中で過ごしてた林檎の樹さんだけど、春になって元の場所へ置いてあげたら、みるみるうちにまた根を張って見上げる大木になった。
パパは「ははは…予想はしてたよ」と、今度は驚かなかった。ママも「やっぱりそうよね…」と、何度か目をパチパチさせただけだった。
林檎の樹さんも毎年、じぃじのおうちと山のおうちを行き来してる。
「林檎の樹さーん、ママ用にとびきり栄養のある林檎を下さーい」
少しの間があって、すとんっと林檎が一つ落とされた。
真っ赤でつやつや美味しそうなのが落ちてきた。
「ありがとう!」
林檎を拾っておうちへ入ると、ママはベッドで横になっていた。
暗いうちの中にいると、ママの顔色がとても悪く見える。
元々体の弱かったママだけど、今年の夏になってから長い時間立っていられなくなった。顔色もいつも青くって食欲もどんどん減っていってる。
ママとあとどれぐらい一緒にいられるかな……お勉強を初めてすぐピュイトに言われた事を思い出す。
エルフの国のピュイトのお母さんに送って貰ったエルフ語の本。
エルフの成り立ち?とかが書いてあるんだって。
それを読む前に話しておきたい事があるって真剣な顔で言われた。
「エルフというのは、普人と違って長命なのです。エルフの寿命は魔力の量によって差がありますが、純血のエルフであれば300年は生きるでしょう。ということは、ミア、あなたがご両親と過ごせるのは人生のほんの一部分だけということなのです」
淡々と、でも、とても辛そうな表情でピュイトは言った。
エルフは大体12才ぐらいになると一度成長が止まる。後はとてもゆっくりと年をとるらしい。
寿命近くの年齢になっても見た目は普人の60才ぐらいまでらしい。
「みあ、じゅっと、こどものまま?」
「えぇ、おそらくカッツェやマリッサが寿命を迎える頃はまだ子供のままでしょう……」
「しょっか……」
親孝行色々したかったけど無理な事もあるかもしれないな。
でも、先にミアが死ぬんじゃなければいいや。
「だいじょぶ、みあ、しょのときがくるまで、じゅっとぱぁぱとまぁまのしょばにいる」
そう言うとピュイトは、ハッと目を見開いた。
「今はそう思うかもしれませんが、辛くなったらエルフの国へ行くとよいでしょう、そこではみなが長命ですから」
「うん、ありがちょ。……ぴゅいとは?ぴゅいとはながくいきりゅ?」
「私は……正直よくわからないのです。混血のエルフはあまりいないので。普人よりは長く生きられるかもしれませんが、純血のエルフの様には無理でしょうね。何せ、50才でもうこの見た目ですからね」
えっ…ピュイト50才!?
思わずピュイトの顔を二度見した。
どうみても25~30才ぐらいだよ。
エルフは天然で年齢詐称ができちゃうんだ。
ミアの驚きを察したのか「年齢が意外でしたか?随分会ってはいませんが、母はまだ普人の20代ぐらいの容姿でいると思いますよ?」と寂しそうに微笑んだ。
ということは、ピュイトはお母さんより先に女神様の元へ召されてしまうということだ。
ピュイトも悲しい、お母さんも悲しい、どちらもやるせない気持ちになるのがわかって胸がきゅうっとした。
「あなたがそんな顔をする必要はありませんよ?これはどうしようもないことなのですから。……それに、私は誰とも人生を共にしないと決めたので、辛い別れはそれきりですむでしょうし」
それって、ずっと結婚しないってことかな?
気になったけれど、ピュイトは葉っぱにエルフ語の書き取りを練習するように言ったので、それ以上は聞けなかった。
ママの心配と、ピュイトの事を思い出して、ちょっぴり泣きたい気分になっちゃったけど、今から起こすママに暗い顔を見せる訳にはいかない。
「ママ、お昼の時間だよ?起きられる?」驚かさないように優しく声をかけたら「あら、寝てしまったのね」と、ゆっくり体を起こした。
「お昼ごはん、用意するから待っててね」
「ありがとう。助かるわ」
お昼ごはんは簡単な物でいいから、ミアでも作れるよ!
須藤さんのお手伝い、いっぱいしたの今役に立ってるんだから。
えと、今日はパンとハムを薄く切って、酸っぱいキャベツをちょっぴり乗せたやつ。それとママが食べやすいように擂り下ろした林檎。
パンは前後にナイフを動かすと上手に切れる。
ハムは塩分が強いから、囲炉裏にかけたお鍋のお湯でサッと湯通しした。
瓶からキャベツをフォークで掬い出して、お皿に乗せる。
後はおろし金で林檎を擂るだけ。
えと、これで炭水化物でしょ、たんぱく質でしょ、野菜に、果物でビタミン!給食と同じようになるようにしたけど大丈夫だよね。食育、もっとちゃんと習えばよかったな。
林檎をおろし金にゴシゴシ擦り付けながらママに必要な栄養は何なのか考えてみたけど、不調の原因がわからないから、わかるはずもなかった。
「ママ、ミルクも飲む?」
テーブルについたママに聞いてみたけど「これだけで十分よ」と小さく首を横に振った。
今日はいつもより体調が悪いみたい。半分も食べられなくて「せっかく作ってくれたのに、ごめんね?」とベッドへ戻って横になった。
「ママ、ミア畑のお世話してくるねっ」
水場からお水を運んで柄杓で根本へかけていく。
ママ、このままどんどん弱っていっちゃうのかな……もう、ミアのこと抱き締められなくなっちゃうのかな。
考え始めたらどんどん悲しくなってきてお水をパシャパシャかけながらポロポロと涙が溢れてきてしまう。
ヤギママがそっと近寄ってきて、ミアのほっぺを舐めてくれた。
 




