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転生エルフとパパとママと林檎の樹  作者: まうまう


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所長さんと私#1

本編がキリのいいところまできたので、本日はサイドストーリーをお届けしたいと思います。


右側の車線をすごいスピードで黒くてしゅっとした車が走っていく。あっという間にずいぶん前まで走って行ってしまった。所長さんが「あんなにスピードを出して危ないなぁ。そんなに急いでどこへ行くってね」と呟く。それを受けて助手席の奥さんも「本当よねぇ」と頷いた。

みりあは今、所長さんのマイカーに乗せてもらっている。隣の県まで高速道路を走っているところだ。

とても楽しみにしていた春の遠足に風邪を引いて熱を出してしまって行けなかったのだ。みりあの生活は学校と施設の往復だけだ。休日にお父さんの運転する車に乗ってどこかへ行ったり、お母さんの運転でお買い物へ行ったりすることがないからだ。

だから学校からバスに乗って行ける春の遠足を、とてもとても楽しみにしていた。しかも3年生の今年はお菓子の工場の見学だった。皆は見学の後で小さなお菓子をお土産にもらって帰ってきたらしい。

滅多に泣かなくなっていたみりあが一人でしくしく泣いていると施設のお姉さんが所長さんに報告したらしい。

所長室に呼び出されて「みんなには内緒で土曜日にいちご狩りに連れてってあげる」と言われた。

なので、今みりあは高速道路の無機質な壁を眺めながら初めてのいちご狩りへ向かっているところだ。

ラジオから流れてくる歌に合わせて二人とも鼻唄を歌ってる。

所長さんと奥さんはとっても仲良し。

みりあがそう言ったら、

「そういうのをオシドリ夫婦って言うんだよ」って。「自分で言ってどうするのよ」って奥さんにつっこまれて「あ、いや、そうかっ」って照れてる所長さん。毎年夫婦で奥さんが好きないちご狩りに来るんだって。今回はみりあがそこへお邪魔してる。

「にぎやかなのも楽しいわ」って奥さんは言ってくれる。

所長さんは、みりあが入所した時にはもう所長さんで、白髪がいっぱいの頭をしてる。今年定年退職なんだけど、何とかっていうお仕事を延長する手続きをして続けて施設の所長さんをしてくれてる。でもそれも一番長くてあと4年なんだって。みりあが卒業するまではいられない。次の所長さんが来るのはちょっとこわい。

そんなことを考えていたら車は高速道路を下りていた。

しばらく走っていると、道の両側にたくさんのビニールハウス。それにたくさんの幟や看板。そのどれにも◯◯農園とかイチゴ狩りと書いてある。

「すごい、いっぱいある」初めて見る光景に目を輝かせると「おばさんオススメのところへ行くからね」と後部座席を振り返って奥さんが笑った。


奥さんオススメのところはイチゴのかわいいキャラクターが目印になっているところだった。

駐車場に車を駐めて、入り口へ向かう。二人とも何度も来たことがあるようで迷わず進んでいく。

受付で「11時に予約してある佐藤です」と所長さんが係の人にスマホの画面を見せている。

受付には大きく料金表が貼ってあって、大人2500円 小人1500円って書いてあった。

ハーフパンツのポケットを探りながら、ほっとする。

よかった、足りる。


ポケットの中にはお財布として使っている、ネコの顔の形の小さめのポーチが入っている。

中身は今月のお小遣いの500円玉と、お正月にもらったお年玉の3000円がポチ袋のまま入れてある。

予約の確認が取れた所長さんが係の人にお金を払おうとしている。

「これ、みりあの分」急いで出した1500円を係の人に差し出した。


でも係の人は「え……っ?」って言って受け取ってくれない。

あ、消費税!?

慌てて500円玉を引っ込めて、1000円札をもう一枚出した。

そしたら係の人は所長さんと奥さんの顔を交互に見てさらに戸惑っている。


所長さんは慌てふためいて「みりあちゃんは払わなくていいんだ、私が払うからね」と言った。

「どして?」

「え?」

「だって、みんなみりあに言うよ?自分の事は自分でって。だから、みりあが食べるいちごのお金はみりあが払うんだよ?それに所長さんと奥さんは“お父さん”でも“お母さん”でもないからみりあの為にお金を払わなくていいんだよ?」

みりあが自分でお金を払わないと、いちごが食べられないよ。


そう言ったら所長さんはぐぐっと眉毛を寄せて眉間に深く皺ができてしまった。

なにが悪かったのかわからないけど、所長さんは怒ってしまったみたい。

「……ごめんなさい?……あの、みりあ車で待ってる?」


「何言ってるの!みりあちゃんも一緒にいちごを食べるのよっ。お金のことは気にしないで?ちょうどスタンプカードがいっぱいになって子供一人分がタダになるんだからっ」奥さんはカバンからお財布を引っ張り出して「中にスタンプカード入ってるから払っておいて。私はお手洗いに行ってくるから」と所長さんに押し付けた。

「みりあちゃんもイチゴ狩り始める前にお手洗いに行っておきましょう?」とトイレに連れていかれた。


みりあがトイレの個室に入ると、隣に入った奥さんのトイレから「グジュ……ズビッ、ズビビッ」と鼻をかむ音が聞こえてきた。

なんだ、鼻をかみたかったから慌ててトイレにきたんだ。春だから花粉症がひどいのかな。






おかしいな、終わらなかった。

続きます。

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― 新着の感想 ―
うん…前世のエピソードはいつも少し切ないよね。 その分、今世の幸せ感が凄く素敵に感じられます。 読み始めて日の浅い一読者ですが、良作に出会えたと感謝しております。
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