ウィゼンベルク村とわたし#39
「うん、いいんじゃないかな。まぁ、うちはともかく、神父様には勉強を教えてもらうわけだしお礼をしなきゃと思っていたんだ。イオのところにも夕飯のお礼がまだだしね」
パパはいいよって言ってくれた。
採集の日より前に林檎を持って一度村まで下りてくれるって。
そうとなれば善は急げ!だ。
パパが空いている木箱を3つ用意してくれた。
「りんごのきしゃーん、はこみっちゅぶんくーだーさーい!」
久しぶりの大量注文。
林檎の樹さんがぷるるっと枝を振るわせるとたくさんの林檎がすとん、すとんと落ちてきた。
「不思議なハズなのに見慣れちゃったなぁ」ってパパは笑ってる。
ミアと二人で拾って箱へ詰めてゆく。
「ぴったし」
どーしてわかるのかわからないけど、林檎は箱3つにピッタリと収まった。
引っ越しの為に、またダズさんのところから借りてきた荷車にずっしりと林檎の詰まった木箱を乗せてもらう。
さて、あとはしばしのお別れの挨拶をしなくっちゃ。
ぎゅーっと幹にしがみついて頬を寄せる。
「りんごありがとじゃいます。みあたちね、じぃじのおうちにおひっこししゅるの。はりゅになったらもどってくるから、しょれまでいいこにしててね」
そしたら、ミアのほっぺに当たってる林檎の樹さんに鳥肌が立った。
木に鳥肌が立つなんて信じられないけど、一瞬確かにそんなカンジだった。
「ふぇっ!?」
鳥肌に驚いている間に林檎の樹は今までにないぐらい枝を揺すり、幹全体を震わせ始めた。
葉っぱの擦れるザワザワとした音と幹が捩れるようなギシギシミシミシという音が辺りに響く。
「どうしたんだ!?」
パパが慌ててミアを腕に抱えて林檎の樹から距離を取る。
ママも音にビックリして「どうしたの!?」と、慌てておうちから出てきた。
そうしてる間にも樹の震えは一層強くなり、広げていた枝は頭を抱えるようにぎゅっと縮こまっていた。
やっと震えが治まったと思った瞬間、カッと青白い閃光が放たれた。
「うわっ眩しいっ!」
「目がチカチカするわ」
「…めが、めがぁあぁぁ」
「ミ、ミア大丈夫かい!?」
ダメだ。一人でやっても周りを心配させちゃうだけだ。
「……うん、じちゅはなんともないの。……だいじょーぶ」
「そぅ、ならよかったわ」
居たたまれなくて、パパとママの顔が見られなくて、光った原因の林檎の樹に目を向けると、そこに林檎の樹はなくなってた。
「「「えぇっ!?」」」
皆で声を揃えて驚いた。
あんなにどっしりとした、風格さえ感じさせる佇まいのあの大樹はどこへ!?
キョロキョロしながら近寄っていくと、林檎の樹のあった場所にちんまりと鉢植えがあった。
「BONSAI?」
思わず英語で言っちゃうぐらい、そこには小さくなった林檎の樹。
テーブルの上におけるぐらいのサイズになってる。
クリスマスツリーのオーナメントみたいに小さな真っ赤な林檎も実っていて、とてもかわいい。
かわいい、かわいいけど、なんで急にこんなになっちゃったの!?
鉢植えの鉢の部分はどこから来たの!?
「は、はは……まぁ、そうかもね、いきなり生えたんだから、いきなり小さくなってもおかしくない、か?」
「そ、そうね……もう驚くことはないかと思っていたけど、まだビックリすることが残っていたのね……」
パパとママは冷静になろうと頑張ってる。
小さくなった林檎の樹に合わせてしゃがみこむ。指でちょんちょんとつついてみる。
「きゅーにちっちゃくなって、びっくりちたよ。どちたの?」
そしたらミニ林檎の樹さんは、鉢をカタカタと動かした。
「……もちかちて、おいてかれるのやだった?」
今度はザシュザシュと葉っぱを縦に動かしてる。
“肯定”!
うんって意思表示だよね!?
林檎の樹さん、そんなことまでできるの!?
パパとママはもう声もなく、ポカーーーンとしてる。
「いっちょがいーんだって」
返事がない。
「ちゅれてっていーい?」
もう一度聞いたら、二人ともやっと首をこくこくして頷いてくれた。
鉢植えはミアでも抱えられるぐらい。
荷車の林檎の箱の横へことりと置いてあげたら、さわっと葉っぱを揺らした。
よし、これでミアのお引っ越し準備完了!
あっ!お祈りも!!
セラちゃん人形を袋から顔だけ出して、採集がうまくいきますよーに!と、お祈りした。
あとは採集の日を待つだけ!




