ウィゼンベルク村とわたし#35
「さて、何かわからないことや疑問に思ってることはないですか?」とピュイトが聞くので、とりあえず目の前にある疑問から聞いてみる。
「はっぱ。かみにかかにゃいのなんで?」
「紙は高いのです。なので覚書をするときは、こういった葉を使います」
「たかい?」
「えぇ、こういった二番紙、三番紙でもなかなかたくさん使うことはできません」
そういって机の上の紙を取って見せてくれる。薄い灰色と濃い灰色をしてる、どちらにも小さな字でびっしりと書きこんである。
「葉に書いた後、萎れる前にこういった紙にまとめます」
「はいいろなんで?」
「これは一番紙と呼ばれる白い紙の使用済みの物を、再度作り直したものだからです。元々の紙の白にインクの黒が混ざるので灰色になります」
この灰色の紙、再生紙なんだ!
こっちにもリサイクルがあるのか。
紙は高級ってことは作るのが大変なのか、材料が高いのかな?
「かみ、ちゅくるのたいへん?」
「作るのが、というよりは“狩る”のが大変ですね」
え?“狩る”???
「紙は木の魔物トレントの一種“ペペパ”から剥ぎ取ってくる物なのです」
「まもにょ、はぐ!?」
「なかなか厄介な魔物のようで、殺さずに剥いでくるのは専門の採集者でも大変なようです」
みりあが知ってる紙の作り方と全然違う!なにそれどうなってるの!?
もっと詳しく!と顔に出ていたみたいでピュイトは色々補足してくれた。
紙はペペパから無理矢理剥いでくる。火に弱い魔物なので、採集者達は火を使ったり、剣で闘ってペペパから紙を無理矢理剥いでくるんだって!
だから焦げていたり傷がついていたりで、きれいな紙としてつかえるところは限られる。無傷なところは公文書用紙になったり、一番紙として高級品となる。傷ついたところはリサイクルの時に細かくして混ぜて使う。その割合でまた値段が違う。なるほど、だから薄い灰色のと濃いのがあるのか。
「にゃんか、かわいそ?」
無理矢理体の一部を剥ぎ取られるなんて、人間が追い剥ぎをしてる。
「ペペパに言わせればそうかもしれませんが、増えすぎても他の木を枯らしてしまうので、加減して弱らせるのがまた大変なのです」
ペペパも周りに他の木がなくなれば養分を摂れずに死んでしまうらしい。
「にゃるほど」
ちなみにリサイクルできなくなるほど、使い込まれた三番紙は焚き付けに使われたり、トイレットペーパーになったりするんだって。
そうなんだ。
トイレ、ミアのおうちは葉っぱだったから知らなかったよ………。
みんなそうだと思ってたのに………。
最後に「覚書に使われる葉の取れる木は大体家の近くに植えられているので自由に取って使えますよ」と教えてくれた。
「あとは何を教えましょうか……」
んと、んーと、何だっけ?疑問におもったことって何でこういうときすぐに出てこないんだろう。
悩んでいたらノックをする音と「遅くなりました」と声が聞こえた。
「ぱぁぱ!」
「お迎えがきたようですね、では続きはまた今度で」
玄関まで送ってもらう。
ママもいる!
「女神様のお話はちゃんとできました?」
ママがミアをぎゅってしてくれながらピュイトに聞いている。
「ちゃーんとしたよ?」
「えぇ、非常に貴重な話が聞けました。しかし、この子にはもう少しエルフのことなどを教えたいので、またこのような時間を引き続きいただきたいのです」
「いっちょにおべんきょーしゅるの!」
と言えば「それはありがたい」と二人共目を輝かせた。
「ではそれは冬になってからお願いします」とパパが頼んでいる。
「冬ならば通わせることができますから……」とママも言っている。
冬ならいいの???
ミアはよくわからなかったけれど、ピュイトが「そのころには教材も届いているでしょうから、そのようにしましょう」と納得しているから、まぁ、いっか。
バイバイって手を振ってお別れした。
帰りもパパとママに手を繋いでもらって歩く。時々、せーのっ!で、二人に腕を高く持ち上げてもらうとミアの体がふわって中に浮く。楽しくって何回もお願いした。
そういえば、お話はもう終わったのかな?
「じぃじ、おはなしおわっちゃ?」
「あぁ、終わったよ。じぃじのおうちに帰ったらミアにもお話するね」ってパパはママと顔を見合わせて笑った。
いいお話みたい?
なら、急いで帰らなくっちゃ!




