ウィゼンベルク村とわたし#34
お互いに何となく気まずくなってしまった空気を変えるようにピュイトは立ち上がった。
「女神様のお話を記録するのに、少々準備がいるので少しだけ待っていて下さい」と部屋を出て行った。
5分ぐらいで戻ってきたピュイトの手には大きな葉っぱが何枚も。それを机の上に置いて引き出しから鉛筆のような先の尖った棒を取り出した。
「まずは前のあなたが女神様にお会いした時の事を、最初から話して下さい」と言った。
ミアが一生懸命思い出しながら話をしていると、ピュイトは「なんと」とか「定説が覆る…!」とかぶつぶつ呟きながら葉っぱにメモをとっている。
葉っぱがどうなっているか気になって見せてもらった。
手渡された葉っぱは、棒の先で押されたところが細胞が潰されて濃くなってる。ちゃんとメモになってる。
違う、もっと重大な事がある。
葉っぱにはみりあもミアも知らない文字。
………でも、なぜか読める。
葉っぱには
・新説 女神は双子
・姉、妹論争、妹説で確定
・容姿の記述 極めて正確(只し服装については除外)
などと書いてある。
読める。読めちゃう。
あれかな、赤ちゃんの時から言葉がわかったのと同じかな?
ミアが考えこんでいると「どうしました?」と声をかけられた。
どうしよう、言う?言わない?
あーでも異世界から来たってもう知ってるし、今さらだよね。
「あのにぇ、みあ、これよめりゅ」
「……カッツェに習いましたか?」
「ううん。こっちのじ、みたの、はじめちぇ」
目をカッと見開いたピュイトは別の葉っぱに何かを書き込んでミアに見せた。
ローマ字みたいに大きい字と小さい字がくっついてるのは最初の葉っぱに書いてあったのと一緒の字。次のはどこまでが1つの字なのかわからないような、ずらずら繋がった文字。アラビア語だっけ?砂漠のあるところの文字に似てる。それにもう1つのは記号が組合わさってできてるみたいな文字。それぞれで“これは読めますか”と書いてある。
「これはよめましゅか」と1つずつ指をさして声に出して3回読んだ。
「全てわかるとは……ミアはよほど女神様に愛されているのですね」とピュイトは瞳をキラキラさせて言った。
「初めの文字は大陸共通語です。今、私達が話している言葉ですね。2番目の文字はエルフ語です、主にエルフのみが使います。エルフの国の公用語です。3番目は神聖古代文字、もう話すことのできる人はいませんが古文書に文字として残っているものです」
葉っぱをミアから回収しながら「助かりました。ミアには女神様の話を聞きつつ、文字やエルフやこちらの事を教えなければならないと思っていたのです。文字が読めるのならば思ったより早く進めることができるでしょう」と言った。
「みあ、おべんきょーしゅる?」
「あなたが嫌でなければ。ですが嫌でも勉強をしておいた方が後々のあなたの為になると思います」
「がっこーありゅ?」
「この村にも近隣の村にも学校はありません。子供達には最低限、読み書き計算を家庭や教会で教えます。ですが皆に混じって習うより先にこちらの世界の事を覚えておいたほうがよいと思いますよ?」
確かにそうかも。だってお耳のことだってミア知らなかったし、いきなり変なことしたら大変だよね。
「わかっちゃ!みあ、おべんきょーしゅる!」
「よかったです。では、エルフの手習い本が届くまでは、まずは普人の一般常識的なところから始めましょうか」
「めがみしゃまのおはなしはもーいーの?」ピュイトの大好きな女神様だよ?
「あなたの力になると女神様に誓いましたし、それに今日聞いたことだけでも神学会に大変な論争を巻き起こすほどの話が聞けました。……それに何よりあなたは危なっかしい」
ピュイトは膝をついてミアと視線を合わせた。
真剣な瞳。
ミアは思わず正座になった。
「いいですか?父母と平穏に暮らしていきたいのならば、あなたが異世界から来たなどとは決して知られぬようにした方がよいでしょう。人は自分と違うものを排除しようとします。あなたのことを誰がどのようにしようとするかわかりません。悟られぬようにするにはきちんとこちらに馴染む必要があります。わかりますか?」
その瞳は知ってる。
みりあの過去を、将来を憂いてくれた大人達の瞳。一番にはしてくれなかったけれど、でも真剣にみりあの事を考えてくれていた、あの瞳。
「……わかっちゃ。みあ、なんにもわからにゃいから、ぴゅいとがおしえて?」
と返せば
「えぇ、もちろん」
と、とびきりの笑顔を見せてくれた。




