ウィゼンベルク村とわたし#28
カイ兄ちゃんの向かいに座っているライが薄ら笑いで続けた。
「そんなチビの世話、喜んでしてやってバカじゃねぇの?お前が兄ちゃんになれるわけねぇだろ」
ヒドイ!
カイ兄ちゃんはちゃんと優しくしてくれて立派にお兄ちゃんしてくれてるのに!
「オレはミアの兄ちゃんになったんだっ」
「ライだって、小さい頃はカイを「オレ兄ちゃんだからな!」ってよく面倒みてくれたじゃない」
「そんな覚えてねぇ小せぇ頃のこと言われたって知らねぇよ」ライはみんなとは目を合わせずシチューを掻き込んでいる。
場の雰囲気が悪くなってしまったのを変えようとイオさんがやけに明るい声を出して言った。
「なぁミア、実はオレん家と村長のとこが遠い親戚だって知ってっか?」
え、そうなの?
「みあ、しらにゃい」
「オレもうろ覚えなんだがな…」
どうやらじぃじのお父さん、先代の村長さんの兄弟がイオさんのおじいさんらしい。でも何番目の兄弟だったとか詳しいことは忘れてしまったみたいだ。
「それを言ったら村中がどこかで血縁だったり結婚して親族になったりで、全員親戚みたいなものよ」とハンナさんは笑う。
「しんちぇき、いっぱーい!」両手を広げていっぱいを表現する。
すごい、ミアの親戚はじぃじとゲーテおばさんだけだったのに、急に増えた。自分に繋がりのある人がたくさんいるって不思議!
一族とかって憧れちゃう。だってその中にいれば自分がどこの誰かって、どうして今ここに自分がいるのかってわかるってことだもの。
少し興奮してお耳がピンっと立った。
「……本当の孫なら、な」
静かな声だったのに、それはよく響いた。
キッとイオさんとハンナさんが声を発したダイを睨む。ダイは思わず言ってしまった一言みたいで、口に手を当てて「しまった」という顔をしていた。
“本当の孫”……。じゃないけど、じぃじはミアを孫だって言ってくれたよ。って、ミアが口を開こうとした時だった。
「お前、捨て子なんだろ?親のエルフが捨ててったんだって村の噂になってたぞ」ライがパンを口に入れたまま言った。
心臓がドクンと大きく揺れた気がした。
“ミア”は違う。捨て子じゃないってわかってるのに“みりあ”の記憶が胸を締め付ける。
何気なく言われた無邪気な一言。
悪意を込めて放たれた一言。
「みりあちゃん捨て子なの?」
「あなた捨てられたんでしょ?」
喉が詰まってなにも言えなくなった。
「お前ら、いいかげんにしとけよ」
低い、低い声でイオさんがライとダイに向かって言った。
「カイにチビ、チビっていうくせにお前らはその年で言っていい事と悪い事の区別もつけられねぇのか!?」
二人は一瞬ビクッとしたもののすぐに忌々しそうにミアを見た。
「うっせーな、カイがそいつに乱暴したって村で女連中にオレまで責められたんだぞっ。どうせお前が村長の前で大袈裟に泣きわめいたんだろ!?何でオレが怒られなきゃいけねぇんだよ!?」
スプーンをテーブルに叩きつけて、ライは立ち上がるとダンダンと荒い音をさせて階段を上がって行ってしまった。
ダイも「本当の事を言っただけだし」と、後を追って行ってしまった。
静かになってしまった食卓に肘をついてイオさんは頭をかかえてしまった。
「ミアちゃん、もう少し食べない?」と、ハンナさんが優しく聞いてくれるけど、とても入りそうにない。
「おにゃか、いっぱい」
「そう、……そうよね、あの子達がごめんなさいね」ハンナさんの表情は暗い。気にしないでって言ってあげないと。
「ミアっ」って呼ばれて振り向くとカイ兄ちゃんが立っていた。
「ごめっ、ごめんなっ、オレのせいでこんな……兄ちゃん達……あんな、あんなことミアに………っ!」今にも目から涙が溢れそうだ。
「らいじょーぶ、みあ、きにしにゃい。だかりゃ、かいにぃちゃなかにゃいで?」ミアも椅子から下りて、カイ兄ちゃんの手をぎゅっと握った。
「おいちかった。ごちょさました。おかたじゅけ、てちゅだうね?」ハンナさんににっこりと笑いかける。
「あいつらよりミアのがよっぽど大人だな」イオさんが、ふぅーっと大きなため息をついた。
汚れ物を一ヶ所に集めてもらって「みあ、いまかりゃ“くりーん”しゅるよ!」とカイ兄ちゃんの目の前でクリーンをした。ぽわっと青白く光って一瞬でピカピカになった食器達を見て三人とも「おぉお!?」って驚いてる。まだもう一回。
「しちゅーのおれい」と言って三人にもクリーンをかけた。
「わっ、ミアすげぇ!夏に川で水浴びするよかさっぱりしてる!」
「お肌がつるつる……」
「汗臭くねぇ!?」
「ミアすっげぇな!」
三人が感動しているところに玄関の方からノックする音が聞こえてきた。
 




