ウィゼンベルク村とわたし#27
加速したハンナさんのおかげであっと言う間に食卓の準備が整った。
木でできた大きめのスープボウルやスプーン。それに陶器の水差しと小さめの金属のカップ。
テーブルの上にはどんっとお鍋が2つ鍋敷の上に乗っかっている。
イオさんが「ミアにぴったりなのがあるぞ」と、子供用の椅子をもってきてくれた。「あら、懐かしい」とハンナさんが目を細めているからカイ兄ちゃんが使ってたものだろう。
「ミアはオレの隣でいいよな!」と、カイ兄ちゃんがその椅子を自分の隣にセッティングしてくれた。ミアはハンナさんとカイ兄ちゃんの間で食べるみたい。
後は各自のお皿に盛り付けるだけになった。
「先にミアちゃんだけ食べさせようかしら?」とハンナさんが呟いたら、玄関の扉が開く音がして話し声がする。
「あー腹減ったー」
「兄貴の言う通りにしたのに、結局何にも捕れなくて草臥れ損だったじゃねぇか」
「オレのせいみたいに言うなよな」
近づいてくる声は何だかあんまり機嫌がよくないみたい。
「ただいま」
「やった、今日はメシ早ぇじゃん!」
食堂へ入ってきたのは二人の男の子。カイ兄ちゃんが言ってたお兄さんだね。
二人は子供椅子に座ってるミアを見て「「誰だ?」」と、ハモった。
「村長さんのところのお孫さんでミアちゃんっていうの」
「ミア、オレの兄ちゃん達。デカイ方がダイで小さい方がライっていうんだ」カイ兄ちゃんが紹介してくれる。二人とも赤茶のゆるふわの髪に海老茶の瞳。ハンナさんと同じ色だ。
「チビのお前に小さいっていわれたくねぇんだよ」
ライは通りすがりにカイ兄ちゃんの脛を蹴っていった。
「痛っ」
「こらっライ、やめなさい!」
「客の前でみっともねぇマネすんな」とイオさんが注意するけれど「客ったってこんなチビじゃねぇか」とぶつくさ言っている。
「さぁ、全員揃ったし食事にしましょ」とハンナさんが明るく言って夕食が始まった。
お鍋は1つはラビーのシチューで、もう1つはチーズ入りマッシュポテトだった。
ラビーのシチューはブラウンでもない、ホワイトでもない、合わせ味噌みたいな色をしていた。
みんなは深めの木のボウルみたいな器なのに、ミアのだけ金属の少し平たいお皿。なんでだろうと思っていたらハンナさんはよそったシチューの具をその中でナイフとフォークで小さくしてくれている。お肉もお野菜も大ぶりでとてもミアの口では一口で入らなさそうだ。みんなを見ると大きな口を開けてパクパク食べている。うーん、ミアには無理だね。
「野菜はいいから肉をたくさん食わせてやってくれ」
「まかせといて。はい、ミアちゃん、あーん」とスプーンを差し出される。
スプーンにはラビーのお肉がのっている。ぱくりと口に入れた。
もきゅもきゅと噛み締める。
ん?美味しい!
野生の動物だからもっと固くて噛みきれないようなのを想像してたけど、プリっとしててミアの小さなお口でもちゃんと噛めるぐらいのお肉!
変な臭みもないし、美味しい!!
「おいひぃ!」とハンナさんを見上げれば「よかった、どんどん食べてね」と二口目のスプーンを差し出された。
せっせとハンナさんに食べさせてもらっていると横から「母ちゃん、オレも!オレもミアに食べさせたい!」とカイ兄ちゃんがハンナさんに頼んでる。ミアに食べさせてばっかりだとハンナさんが食べられないからちょうどいい。
「あー」とカイ兄ちゃんの方を向いて口を開ければ「へへっ」と照れながらマッシュポテトを口に入れてくれた。
んー、これも美味しい!チーズが入ってるから少しねっとりしてて塩味がきいている。それに何かの香草?緑のツブツブも入ってて、ちょっと爽やかな味もする。
右を向いてハンナさんにシチュー、左を向いてカイ兄ちゃんにマッシュポテトを食べさせてもらう。
カイ兄ちゃんは「いーっぱい食べろよ、兄ちゃんが食わしてやるからな」とご機嫌でミアに餌付けしてくれる。
自分で食べれられないこともないけど、ミアはまだまだ小さいから甘えたっていいよね!
「ちゃんと兄ちゃんしてんな」とイオさんが笑いながらそれを見ている。美味しいごはんと誰かに甘えられるうれしさで耳がぴこぴこしちゃう。
「なにが兄ちゃんだよ、お前なんかなーんにもできないくせに」




