ウィゼンベルク村とわたし#25
あれからパパとママは慌てて村へ行く支度をして、みんなで山を下りた。
ミアはまたヤギママの背中で寝ちゃったからあっという間だったよ。たくさん泣いてたから疲れちゃったみたい。
村に着いたらじぃじのお家に先に着いた。ここからはミアだけイオさんのおうちに行くみたい。
「じゃあ、二時間ほどしたら迎えにきてくれ。あ、二時間だぞ、二時間。一時間前とかから家の前で待ってるのとかしねぇでくれよな?」
イオさんがパパとじぃじに向かって言った。まさかぁ、そんなのしないでしょー。って、思ったのにパパとじぃじは露骨に目を泳がせている。
「お行儀よくしてね?」ママがミアの頭を撫でて、イオさんに「よろしくお願いします」と頼んでいる。
「んじゃ、また後でな」
「ミア、うちこっちだ!行こうぜ!」
ミアはカイ兄ちゃんと手を繋いでこの間とは違う知らない道へ進む。
夕日が道沿いの家々の白い壁をオレンジに染めて、赤い屋根はもっと朱く輝いている。それを指差しながら「きれぇーね」と言えば「そうかぁ?」とカイ兄ちゃんには見慣れた景色のようだ。
「こうしたらもっと見えるぞ」と、イオさんが肩車をしてくれる。家の並びを抜けた場所から山へ沈む前の夕日が見えた。ミアの心臓がきゅうっとした。
日が暮れる前はみんながおうちへ帰る時間。施設はおうちのようであっておうちではなかった。下校を促す音楽の記憶と一緒にみりあの何とも言えない感情を思い出して切なくなった。
大丈夫。ミアはパパとママに愛されてる。ごはんを食べたら、ちゃんとお迎えにきてくれる。
ぎゅっとイオさんの頭にしがみついたらミアのお腹がきゅるるる…と鳴いた。頭とお腹がくっついているんだから、もちろんイオさんにはしっかり聞かれてしまった。
「おー?ミアのお腹がシチューを待ってるな?」
「父ちゃん、オレも!オレも腹へったー!!シチューもう出来てっかなぁー?」
「母ちゃん早く美味く作るの得意だから出来てっだろ」
それを聞いてちょっぴり早歩きになったカイ兄ちゃんはミア達より少し前へ進むとくるっと振り返って言った。
「なぁ、昼間のあれってミアがやったってミアの母ちゃん言ってたけどほんとか?」
いきなり言われてドキっとしたけど、まだカイ兄ちゃんにもイオさんにも謝ってない事に気がついた。怒られちゃうかな……。
「ごめんなしゃい……」
「なんだよー、そんな面白いことするなら言ってからやってくれよなー」
「ふぇ?」
カイ兄ちゃんは器用に後ろ向きに歩きながら続ける。
「だってよー、村には魔法使えるやつなんていないんだぜー?オレが初めて見たんだって兄ちゃん達に自慢してやりたかったのによー」
「でも、らびぃだめにしちゃったよ?」
あのカラカラに干からびたミイラを思い出す。
「あー、ありゃ冬の食料に丁度良さげだったな。食うときゃ一晩ぐらい塩水につけてから茹でりゃいいんじゃねぇか?」
えっ!あんなになっても食べられるの!?
「ほんちょ?」
「あぁ。だから、気にすることはねぇからな。あぁ、ほら、うちが見えてきたぞ」
イオさんの指差す方向には他のおうちとは少し離れて二階建てのおうちがあった。
近づいていくとワンワンという犬の鳴き声とアンアンというかキャンキャンというか、それより高い鳴き声が聞こえてきた。
「すげーだろ、父ちゃんが帰ってきたのが、あいつらわかるんだぜ」
カイ兄ちゃんが「ピィーッ」と口笛を吹くと、おうちを囲ってある柵を飛び越えて茶色の犬がこちらへ向かって走ってくるのが見える。少し遅れて小さな真っ黒の犬がひっかかりながらも柵の間をくぐり抜けて後を追ってくる。
放し飼い?放し飼いなの!?
チャッ、チャッと爪の音をさせてあっという間にミア達のところまでやってきた。
二匹ともイオさんの周りをしっぽをぶんぶんしながらグルグル回っている。
大きいのはよく警察犬としてドラマとかでみるやつに似てる。賢そうな顔つきで濃い茶色と薄い茶色が混じってる。足の先っちょだけが白くて靴下みたい。小さいのは全身真っ黒。目も黒いみたいで、どこに目があるのかわからない。犬だし小さいのになんかジジくさい顔をしていてなんだか愛嬌がある。
でも、すごい勢いでぐるぐる回ってるからちょっぴり怖い。肩車されててよかった。ぎゅっと頭にしがみつく。
「あー、ミアにはちょっと怖かったかもしれねぇな。カイ、お前先にこいつら連れてって小屋に入れといてくれ。ついでに母ちゃんも呼んできてくれ」
「ん!わかった!」
カイ兄ちゃんが今度は「ピッピュッ」と二回短く口笛を吹いて駆け出して行くと犬達もそれに着いて行った。
「待ってろよ、もうすぐシチューだ」
末席ではありますが、本日の異世界転生・転移/週間・月間ランキングにのることが出来ました。
チャイムが鳴ったので、出てみたら盆と正月が「えへ、来ちゃった」と突然遊びに来たぐらいびっくりでうれしいです。
投稿したよい記念になりました。
ありがたや、ありがたや。




