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ウィゼンベルク村とわたし#24

そおっとママの手が伸びてきて、お布団の中のミアの頭を撫でてくれる。

ゆっくりとお布団が捲られて、ベッドに腰かけたママのお膝に向かい合って抱っこをされた。

おうちの中にはママしかいなかった。

みんなお庭に出てしまったようだ。


「ラビーのシチューは、また今度作ってあげるからそんなに泣かなくていいのよ?」

ミアの背中をさすりながらママは優しく言ってくれる。

ママはカイ兄ちゃんのシチューが食べられなくてショックを受けてる説を信じちゃってる!

「……ちあうの、らびぃのおにく……らめに……しちゃの、みあにゃの」

どうしよう、やっぱり怒られるよね。

止まりかけていた涙がまたぽろぽろぽろぽろ溢れ出す。

「も…しにゃ……か、ら……みあ、きりゃいにならにゃ…い、で」

ひっくひっくと嗚咽がひどくなってちゃんと謝れない。

ママの胸に顔を埋めているから、涙がどんどんママのお洋服を濡らしてしまっているけれど、もしかしたらぎゅっとされるのはこれが最後かもしれないから、ママのワンピースを握りしめてすぐには離されないようにした。


「あら、ママはそんなことでミアのこと嫌いになんてならないわよ?……それでそんなに泣いていたの?」

嫌いにならないって言われて顔をぱっと上げてママを見れば、いつも通りの優しい顔で笑ってくれた。

よかった!嫌いにならないって言ってくれた!

ほっとしたら何だか違う涙がぽろぽろ溢れてきた。

「らって、ぱぁぱのおにきゅ、みあがまほーちっぱいしちゃからほしにきゅに……」

「ふふ、そうなのね。まぁ、ミアったらお布団の中で泣いてたから、頭が汗でベタベタよ?ママのお洋服も濡れちゃったから、ミア、一緒にクリーンしてくれる?」

そういわれれば泣きすぎて体が熱い。背中もしっとりするぐらい汗をかいている。

「くりーん!」

ふわっと光っていつも通り、さらさらになった。ママの胸元も涙が取れて乾いてる。

「ね、お手伝いはクリーンだけでもママはすっごく助かってるのよ?今はできなくてもクリーンみたいにいつか上手にできるようになるわ。焦らなくても大丈夫よ?」

ママはミアがお手伝いしたかったこともわかってくれた。

「まぁま、……だいしゅき」

ママの胸に顔をぐりぐりと押し付ける。ママの香りをそうして胸一杯に吸い込んだらようやく安心できた。

「ママも。ミアのことだぁーい好きよ」

ぎゅっとされて、おでことほっぺにちゅっちゅっとキスをもらう。

くすぐったくて幸せで、さっきまでが嘘みたい。

ママ大好き。大好き。ミアのママ。わたしのママ。大好き。大好き。

何回言っても足りないから、心の中だけで繰り返した。


すっかり甘えっ子モードになってママにしがみついていたら、扉がバンって開いてカイ兄ちゃんの声がした。

「ミア!ラビーのシチュー食えるぞ!」

きょとんとしてそちらを見ると、パパとイオさんとじぃじがおうちの中に入ってくるところだった。


「ミア!支度しろよ!ラビーのシチュー食いたいだろ!?」

カイ兄ちゃんはミアの手をママから剥がして、ぐいぐい引っ張ってくる。

なに?なに?どうしたの?

「こらっカイ!乱暴にするなって!それにそんなんじゃ何言われてんのかわからねぇだろ!?」イオさんが止めてくれてカイ兄ちゃんは「えっ?わからねぇか!?」ってビックリしてる。

イオさんが側まで来て、ママとミアに説明してくれる。

「急だからよ、ミアだけになっちまうんだが今から村まで来て、オレん家でラビーのシチュー食わねぇか?」

にかっと笑ったイオさんはわざわざしゃがみこんでミアと視線を合わせてくれた。

「こないだ仕留めたラビーが食べ頃になってんだ。そいつで今日はシチューにするって、うちのかみさんが朝言ってたからよ、ちっこいミアの分ぐれぇは何とかなるから、今から支度して村へ下りるぞ?な?」

大きな手がミアの脇に差し込まれて、軽々と抱っこされてしまった。

「ぱぁぱとまぁまはむりゃいかない?」

「いや、カッツェとマリッサも一緒に下りるんじゃ。こっちの二人は儂の家で夕飯をとる。夜の山道は危ないから夕飯を食べたらそのまま泊まってゆけばよい。もちろん孫娘も一緒にな」

パパとママを交互に見ればパパがママに「そういう訳なんだけど、いいかな?」って聞いている。

「え、えぇ、私は別にかまわないけれど、そんな急にいいのかしら?ゲーテおばさまもイオさんのところも支度があるでしょう?」

そうだよね、ここには携帯電話なんてないんだから「今から行くからよろしく」なんて連絡できないもんね。

「いや、ミアには是非ともラビーのシチューを食ってもらいてぇ」

「そういうことじゃ。儂の方も遠慮はいらん」

何だか二人とも夕飯のお誘いにしては目が真剣だ。

ママはイオさんに抱っこされたミアを見て、「ミア、イオさんのところで一人で大丈夫?」と心配そう。

「ミア!オレと一緒に晩飯食おうぜっ、母ちゃんのシチュー美味ぇんだぞ」

カイ兄ちゃんはうれしそうにイオさんとミアの周りをぐるぐるしてる。


他所のお家のごはん、ちょっと興味あるかも。

「かいにぃちゃとごはんたべりゅ」


「よし!決まりだな」

大きな手のひらでカイ兄ちゃんの頭をぐりぐり撫でながらイオさんがまた、にかっと笑った。

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