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ウィゼンベルク村とわたし#22

ブクマ200がうれしくて筆が進みました。

なので、いつもより早めに投稿です。

勢いよく扉を開けて飛び出したミアが見たのは逆さに吊るされて首から血を滴らせているラビーだった。

ミアに気がついた大人三人は気まず気な顔をした。


「ミアっまだ家の中にいようぜっ」焦った声でカイ兄ちゃんがミアの腕を引っ張るけど、ミアの足は固まってしまって動かない。

カイ兄ちゃんに話しかけられても、ミアの目はラビーを凝視したままだ。


「見るのは初めてなんじゃな」

じぃじがゆっくりと近づいてきてミアを抱っこした。

「初めてなら驚いたかもしれんな。でも怖くはないんじゃぞ?狩った獲物はみんなこうして肉として処理をするから食べられるようになるんじゃから」

ミアの知ってるお肉は白いトレーの中にきれいに並べられてラップでくるまれているやつだ。

薄切りや塊なんかがあって、調理をしてくれる須藤さんは「この鶏肉は筋が多い」とか「この豚肉は脂身が少なくていい」とか言ってたけど、どれもこれも生きてる時の姿を想像させることはなかった。ただ単に[肉]としか認識してなくて知識としてはそれは牛や豚や鶏っていう動物だっていうのは、もちろん知っていたけど本当にそうだと意識することなんてなかった。

吊るされたラビーは下に置かれた桶にポタポタと赤い血を落とし続けている。


「今日はカッツェに一通り教えちまいてぇから、ミアに気ぃ使ってるヒマはねぇんだ。悪ぃけど村長、ミアを家ん中に連れてってくれねぇか?」

イオさんは血がついたままのナイフを握ったまま、じぃじに言った。


「……みあ、ここにいりゅ!」

歩き出そうとしていたじぃじが足を止めた。

「無理はせんでもいい」って頭を撫でられるけど、ミアは首を振ってもう一度「ここにいちゃい」って伝えて下ろしてもらった。

「しんどくなったら家に入っとけ」イオさんはそれだけ言うとラビーの方を向いてしまった。パパは心配そうな顔をしているけど何も言わなかった。

「あんまり見て楽しいもんじゃねぇぞ?」カイ兄ちゃんが心配してくれてる。

ラビーは徐々に毛皮を剥がれているところだ。ふかふかの毛皮の下から生々しい皮膚が現れる。

うぅ、はっきりいって気持ち悪い。

あんまり近くはやっぱり怖かったから少し離れたところから見ていたけど、それでもつい目を瞑ってしまいそうになる。


でも、ミアがここで生きていくなら慣れなくっちゃ。ここではこれは普通のことなんだから。

……ううん、みりあの世界でだって、普通のことだったはずだ。みりあが知らなかっただけで、どこかの食肉工場で誰かが生き物からお肉にするためにこの作業をしてくれていたはず。

あのきれいにパックされたお肉はそうしてできていたはずだ。


桶の中に内臓が出されてイオさんが新しい桶と替えた。さすがに内臓がでろんと出てくるところは見ていられなくてじぃじの後ろに隠れちゃった。


「よし、これで終わりだ」

イオさんとパパは使った道具を洗いに水場へ行った。


まだポタポタと血を落とすラビーに恐々と近づくミアの手を握りながら、カイ兄ちゃんも一緒に来てくれる。


「おわり?」

「もうちょいかな?血が残ってると美味くねぇからな」

ふーん、そうなんだ。

皮を剥がれてピンク色の肌をさらしたラビーはひどく生々しい。けど、こうなった以上、なるべく美味しく食べなきゃいけないよね。



そーだ!

お水を流した時みたいに血が流れちゃえば、ポタポタ落ちるの待ってなくていいんじゃない?

早くすれば、ママだってお料理するのにたくさん時間をつかえるもんね!


えと、ラビーに向かって手をかざしてっと、それで、水を流したときみたいに呪文?を言うっと!

美味しいシチューのために気合いを入れて、ミア頑張る!!


「らびーの、ち、じぇーんぶないない!!」


ミアが呪文?を口にした途端、ポゥっとラビーが青白く光って、びちゃびちゃと血が桶に当たる音が響いた。


やった!成功じゃない!?


そう思って見上げたラビーはさっきまでの姿とは全然違っていた。


なんで!?


シワシワのカラカラ!!!


吊り下げられたラビーはミイラのようになっていた。


「はぁ!?え?なんでいきなり干し肉になっちまった!?」

横でカイ兄ちゃんがすっとんきょうな声をあげている。

「これは一体どうしたことじゃ…」

じぃじもビックリしている。

カイ兄ちゃんとじぃじがラビーのミイラをつついたら、軽くなったラビーは簡単にプラプラと揺れている。


どうしよう!

パパがせっかく捕ってきてくれたのに!

どうしよう!

ママかシチューを作れない!

どうしよう!!

もう元には戻せない!!!


頭が真っ白になったミアの目から涙がポロポロ溢れだす。

「ご、ごめんなしゃ……」

そう小さな声で呟いたミアに、振り返ったカイ兄ちゃんとじぃじは信じられないものを見る目で見つめた。


じりっと後退りしたあとは体が勝手に動いていた。できるだけ速く足を動かして全速力でおうちへ駆け込んだ。


「ミア、そんなに泣いてどうしたの?」って驚いたママが聞いてくれるけど、ミアはベッドに潜り込んでダンゴムシのように丸まっていた。

ハァハァと息が切れて涙が止まらなくて頭の中も顔も、くしゃくしゃだ。


どうしよう……パパとママに嫌われちゃうよ………。


しばらくお肉のお話ですw



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