ウィゼンベルク村とわたし#19
今朝のミアは早起きさんだよ!
♪ふんふーん、ふ、ふんっふん、ふんふ、ふんっふ、ふ♪
朝の体操でお約束の歌をハミングしながらミアはお庭でカイ兄ちゃん達を待つ。昨日はおはようを言えなかったから今日はちゃんと言うんだ。
確か昨日はこれぐらいの明るさの時に来てくれたはず。
ミアになってから遊ぶ約束なんて初めてでソワソワしちゃう。
そんなミアを見て「あらあら、朝ごはんはちゃんと食べてね?」ってママは笑ってたし、パパは無言ですりすりもにもにの時間が長かった。
ヤギママがいつもより早く庭に出てきたミアに近づいてきて「めぇめぇめぇ~」と挨拶してくれる。みあも「おはよーごじゃいましゅ」とちゃんと挨拶した。ヤギママのお顔をなでなでしていたら、じゃりっと土を踏む音。
カイ兄ちゃん来た!
振り向くと、あれ?大人が二人に子供が一人。
………じぃじ!?
朝日に照らされたあれはどう見てもじぃじ!隣には苦笑いのイオさんとカイ兄ちゃん。
びっくりして慌ててパパとママに知らせに行こうとおうちへ向かって駆け出したら、足がもつれて一歩も進まないうちにべしゃりとこけた。
は、鼻が痛い……。鼻の奥がツーンってする。骨折れてる!?って思えるぐらい痛い。
「ふぇっ」涙がポロポロでてきて立ち上がれない。
そしたら「儂の孫娘!」と焦った声がして大きな手がミアを掬い上げた。
「急に走りだしたら危ないわい。女の子の顔に傷が残ったらどうするんじゃ」と、頭を撫でられる。
優しくされたら何でだかもっと痛くなって「おはにゃ、いちゃいよぅ」ヒックヒックとじぃじの肩に顔を擦り付けて泣いてしまう。
「おぉそうかそうか可哀想にの、じぃじがずっと抱っこしておるからもう走らんでも大丈夫じゃ」
ん?ずっと?
「ミア、大丈夫か?擦りむいたなら水で洗った方がいいぞ?」カイ兄ちゃんも心配してくれてる。
イオさんはミアの顔を覗き込んで「血もでてねぇし、ただ打っただけだ」と怪我してないか見てくれた。
そんな話し声を聞き付けてパパとママがおうちから出てきた。
「と、父さん!?」
「お義父様!?」
二人ともすごくびっくりしてる。
「おはよーさん」
「ミアの父ちゃんと母ちゃん、おはよう!」
イオさんとカイ兄ちゃんがパパとママに挨拶してる。
けど、じぃじとパパとママは固まったまま動かない。
一昨日、仲直り?したとはいえ話はほとんどしてないもんね。きっとお互い気まずいのかも。
イオさんはそんな3人を見て、困った奴らだ。みたいな顔をした。
「あー、マリッサ、歩いてきたら喉が渇いちまったんだ、すまねぇが中で水でも飲ませてくんねぇか?」
ママははっとして「え、えぇ!もちろんよ、すぐお茶を用意するから、中へどうぞっ」と皆をおうちへ入るように案内する。
「なぁ、父ちゃん、喉渇いたのか?水ならあっちに流れてるぞ」
「うるせぇ、黙ってろ」
あ、カイ兄ちゃん頭をはたかれてる。
後でなでなでしてあげよう。
皆がおうちへ入るといつものテーブルにある椅子じゃ足りない。パパは背もたれのない小さい椅子をお着替えコーナーから持ってきた。
ミアはじぃじのお膝の上だ。
「みあ、いしゅありゅよ?」とじぃじに話しかけてみたけど、じぃじはミアの椅子をちらっと見ただけで膝の上から移動させようとはしなかった。
まぁ、いいか。
ママはパタパタとお茶の支度をしている。ミアはおうちでパパとママがお茶を飲んでるの見たことがないけど、お茶あるのかな?
ママは囲炉裏にかけたやかんがしゅんしゅん湯気を出すのを待って、戸棚から取り出した掌サイズの瓶の中身を全部直接ヤカンに入れた。
じぃじはそれをじっと見ている。
ちらっと見えた中身は茶色かったから、昨日ゲーテおばさんが淹れてくれた紅茶みたいなのかもしれない。
やかんを火から外して茶漉し網を使って人数分を木のカップに注いでテーブルにそれを並べる。
ミアとカイ兄ちゃんはミルクをもらった。
「イオ、持ってきたのを渡せ」
じぃじが顎をしゃくる。
「人使いが荒ぇな」イオさんは笑顔で文句を言いながら昨日も背負ってきた籠付の背負子から、何だか大きな布の包みを取り出した。それをママに渡す。
「何かしら?」大きさの割には軽いみたいでママはひょいっと受け取った。
テーブルの上にはお茶があって置けないから、ママはベッドまで行ってその包みを広げた。
「まぁ、毛糸!」
弾んだ声からしてママには嬉しい物のようだ。
「寒くなる前に帽子を編んでやるがいい。耳が冷えたらかわいそうじゃ」じぃじがミアの長いお耳をさすさすしながら言う。くすぐったくて肩が上がっちゃう。
「みあのおぼーし?」
「そうじゃ、耳まですっぽり入るのを作ってもらうといい」
見上げたじぃじは無表情だけど、とても優しい目でミアを見ていた。
「じぃじ、ありがちょ!」ぎゅっと抱きついてお礼を言った。
じぃじは「うむ」と一つ頷いた。
「これって炉色じゃねーの!?」
いつの間にかカイ兄ちゃんがママの側まで行って毛糸を覗き込んでいた。
ろいろ?
ミアも見たい!
「じぃーじ、おりりゅ」膝から下ろしてもらってベッドへとてとてと歩いてゆく。
包みの中は白い毛糸がたくさんと薄いオレンジ色のがその半分。あと赤というか朱色というか、赤とオレンジ色の中間みたいな濃い色の毛糸が少しあった。
すごくキレイで温かそうな色。
「こりぇ、ろいろ?」って指を指してカイ兄ちゃんに聞いたら「囲炉裏の火みたいな色だろ?そーゆーの炉色っていうんだぜ。村で取れる染料の中でもいっちゃん高ぇやつなんだぜ」って教えてくれた。
いつの間にかパパとイオさんも覗きこんでる。
「「……炉色だ」」
じぃじはずずっとお茶をすすってる。
「いいのかしら?」ママはどうしましょう、という感じでじぃじを見る。
「それだけあれば帽子ぐらいはできるじゃろう。残りは好きにしてくれて構わん」
「まぁま、みあのおぼーしちゅくって?」じぃじがああ言ってるんだから遠慮はいらないと思うな。ママのスカートを引っ張りながらおねだりする。
ママはミアを見て、じぃじを見て、ふふふって笑った。
「ありがとうございます。お言葉に甘えていただきます。耳まですっぽり入る温かいのを作りますね」
じぃじはまた「うむ」と一つ頷いた。
毛糸は一旦そのままベッドへ置いておいて、皆お茶を飲む為にテーブルに戻った。ミアはまたじぃじに捕獲されてお膝の上に乗せられた。
「で、父さん、何でわざわざここまで来たんだい?」




