ウィゼンベルク村とわたし#18
午後は槍の練習をするんだって。
長い棒の先に菱形みたいな万年筆の先っぽみたいな形の刃物が付いている。イオさんが石積に的になる木の板を何枚か並べた。
そしてその木の板を狙って腕を突きだした。槍は木に突き刺さる。
おぉかっこいい。でも、なんで槍の練習なの?狩りは罠でするんじゃないの?
「罠にかかった獲物は動けねぇだけだろ?死ぬまで待ってたらどんだけかかるかわからねぇぞ。だから槍で急所を狙って仕留める練習をするんだ」
不思議そうにしていたからか、槍で突くマネをしながらカイ兄ちゃんが説明してくれた。
「ほぇー」なるほど、そうか。槍なら長いから安全にとどめがさせる。罠にかかった動物は暴れて危険だもんね。
「かいにぃちゃ、さしゅが!」
「りょ、猟師の息子だからなっ!」
見本をみせてもらったパパが槍を突き刺す。トスッという音がした。
「んー、やっぱ力が足りてねぇな。これじゃ急所まで届かねぇ。外すと余計に暴れるからな。押さえ込んでナイフで首をかっ切れるならそっちでもいいんだがな」
「はぁ、わかってはいたけど練習するしかないね」
「そーゆーこったな。明日も罠の様子見に来てやっから、かかってたら実践だな」
「了解」
明日もイオさんは来るらしい。
「かいにぃちゃもくりゅ?」
「おぅ、父ちゃん来る時は一緒に来るぜ」
「またあしょんでくりぇる?」
カイ兄ちゃんの手を取ってオネダリする。
「もっ、もちろん、遊んでやるっ!」
顔を赤くして手をぎゅっと握って約束してくれた。
「やっちゃ!かいにぃちゃありあと!」
やったー。明日も遊び相手ができた!
明日は何をしようかな。
あ、そーだ、カイ兄ちゃんにお土産渡さなきゃ!カイ兄ちゃんのママ喜ぶって言ってたもんね!
手を握ったまま、とてとてと林檎の樹に走りよる。
「ひろうのてちゅだって。カイにぃちゃのおうちじぇんぶでにゃんにん?」
「オレん家は父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃん2人とオレで5人だ」
ふむ、なら1人2個でいいかな?
「りんごのきしゃーん、じゅっこくらしゃーい」
両手をパーにして頭の上にかざす。
そしたらちゃんとミアに当たらないように、すとん、すとんと10個落ちてきた。
「これ全部もらっていいのかっ?」
「どーじょ」
2人でせっせと拾う。
「なぁ、カッツェ、……林檎ってあんな風に落ちてくるもんだったか?」
「うちのは落ちてくるんだよねぇ」
最後の1個を拾って、イオさんのところへ行く。手のひらに林檎を乗せてあげた。
「はい、どーじょ!みんにゃでたべてにぇ!」
乗せられた林檎を見てイオさんはニッと笑ってくれて「あんがとな」って言ってくれた。
「なぁ、カッツェ、今までオレの手のひらに乗せられてきた石や虫や泥団子、ありゃ何だったんだろう……?」
「石や虫や泥団子だったんじゃない?」
「なぁ、カッツェ、やっぱ林檎と一緒にもらって帰っていいか?」
「断る」
「ケチ。ま、カイが頑張ってくれりゃ、そのうちウチの娘になるかもしれねぇから、それまで待つか」
「嫁には出さないから。婿養子一択だから」
ほぇえ、パパってばそんな事考えてたんだ。なら、ここはあれだね。父親が娘に言われたいセリフNo.1の出番!
「みあぱぁぱとけっこんしゅる!」
えへへとパパの足に抱きつきながら見上げる。
「ミア……っ!」パパはキラキラと歓喜の瞳でミアを見つめるとすばやく抱っこして「ママー!ミアがパパと結婚してくれるってーー!!」と、うちに向かって歩きだす。ママに自慢しにいくようだ。
その場に残されたイオさんとカイ兄ちゃんは「「言われてみてぇ」」だって。カイ兄ちゃんも将来は娘が欲しくなったのかな。
「んじゃ、明日またくるからよ!今日はこれで帰るわ」と、イオさんがパパの背中に声をかける。
振り向いたパパはミアに頬擦りしながら「うん、今日はありがと。明日も頼むね」と笑いながら言った。
ミアもバイバイしなくっちゃ。
「かいにぃちゃ、ばいばーい」小さく手を振る。
「あ、明日も絶対来るからな!遊んでやるから!」
「またあちたねー!」
2人が庭を出て見えなくなるまで手を振った。
涼しい風が頬を撫でた。
暑い空気と冷たい風が混じる。
お昼からまだそんなにたっていないのに、空にはほんの少し黄色が混ざり始めた。
もうすぐ本格的な秋になるんだな、と、ぼんやり思った。
自分の書くスピードの遅さに絶望を感じずにはいられません……。