ウィゼンベルク村とわたし#2 村の神父様
ガチャリと両開きの扉の片方をパパが開ける。
中は思ったより暗くない。
白い壁、真ん中に通路、左右に木でできた背もたれ付のベンチ。
正面と左右の壁にキャラメル色の木でできた浮き彫りがある。正面のは多分セラスティア様。右の壁のが一番大きい。学校の黒板ぐらいあるんじゃないかな?大小様々な浮き彫りがあちこち壁に飾られている。
そして正面の天井にガラスが嵌め込まれているところがある。天窓っていうんだっけ?うちのランプと同じような薄い緑色。30センチ角ぐらいの小さいのが4枚、十字に金属で繋がれて嵌め込まれている。これのおかげで壁の鎧戸を閉めていても明るいんだ。
キョロキョロしていたら、左側の奥にある小さな扉が開いた。
「あぁ、もう来ていたのですね、お待たせしてしまいましたか?カッツェ」
コツコツと足音をさせて、暗がりからだんだん明るい方へ近づいてくる男の人。パパよりも背が高そう。銀髪、真ん中分けの前髪で耳の中程の長さで切り揃えられている。薄紫の学ランの様な服を着ていた。30才ぐらいかな?ミア神父様っておじいさんのイメージだった!
「いいえ、今来たところですよ神父様」
「今日は私達の娘の“ご挨拶”に伺いました」
「カッツェから聞いていますよ、あなた達夫婦にいつの間に子供ができたのかと少々驚きました」
そうして私達の前まで来た神父様はとても柔らかく微笑んでくれた。すごい美形だ。
「こちらの子が例の娘さんですね?」
床に膝をついてミアと目が合うようにしてくれる。
間近で見た神父様の瞳はシルバーグレーにペリドットグリーンが散らされた鉱石のようだった。
……こんなキレイな瞳見たことない。
思わずじぃっと見つめてしまう。
「こんな澄んだ瞳に見つめられては吸い込まれてしまいそうですね」
少し照れたのか、神父様は小首を傾げてはにかんだ。前髪がサラッと揺れる。
とたんにミアの心臓がドキドキしだした。
小首を傾げた神父様がキレイでかわいくて、何だかミアの方が急に恥ずかしくなってきた。
きっと赤くなってしまった顔を見られたくなくてママのスカートの後ろへ急いで隠れた。
ちょっぴりだけ顔を出す。
「しんぷしゃまのめんめもきれぃよ」
「ふふ、ありがとうございます」
神父様は一瞬きょとんとした顔をしたけれどミアにお礼を言ってくれた。
「では“ご挨拶”を始めましょうか。祈りのポーズは知っていますか?」
「ちってる!まぁまとれんちゅーちた!」
男の人は片膝、女の人は両膝をついて、両手でお水をすくうみたいにしてその手をおでこにくっつけるの。
女神様に感謝の気持ちを届けて、女神様からの慈愛を受けとるポーズなんだって。難しくなくてよかったよ。
「それは素晴らしいですね。では、あなたの名前は“ミリアンジェ”であってますか?」
……だれ?それ?
ぽかーんと口を開けていたらパパが「はい、そうです」と答えた。
「みあ、みあよ?」
「ミアはママがつけた愛称なの。ミアは“ミリアンジェ”というのよ」ミアの肩をぽんぽんしながらママが衝撃の発言をした。
え゛ーーーーーーーーーーーーっ!!!!!
ミリアンジェ!?
そうなの!?
ミアは愛称で本名はミリアンジェなの!?
ん?
みりあんじぇ?みりあ、あんじぇ?
みりああんじぇい………。
安西みりあ!!!
まんまよーーーっ!!!
まんまだったよーーーーっ!!!!!
セラスティア様、名前つけるの得意って言ってたよね!?
これ得意って言ったらいけないやつだと思うけどな!!
そしてなんか微妙だよ!
ミ・リ・ア・ン・ジェ!
脳内で名前についての真実に思いを馳せていたら「ミア?大丈夫?」とママに心配されてしまった。
「ちょとびっくりちた。もー、だいじょぶ」
「では始めますね?」
名前があっていたことがわかったので神父様はお祈りを始めることにしたようだ。
神父様が正面の浮き彫りの前で片膝をついて祈りのポーズをとった。ミア達も一段下がったところで跪く。
「豊かなる実り訪れる善き季節なり、父カッツェ、母マリッサの娘、ミリアンジェがつつがなく成長しご挨拶に参りました。女神の信徒ピュリンハイドが見届け、これまでの女神の慈愛に感謝を捧げます」
さっきの、ぴゅりなんとかが神父様の名前かな?
祈りが終わると神父様はミア達の方に向き直った。
「さぁ、あなた達も感謝の祈りを。ミリアンジェは初めましてもですね」と、祈りを促した。
えっと手を水をすくう形にしておでこにつけてっと。
ミアはセラスティア様に会ったことあるから初めましてじゃないんだけどな。あ、でもやっぱりミアになってからは初めてだから初めましてだ!
セラスティア様、初めまして。そしてお久しぶりです。ミリアンジェです。
無事に3才になりました。セラスティア様のおかげでミアは優しいパパとママに大事にされて毎日がとっても楽しくてうれしいです。ミアのお願い叶えてくれてありがとう。本当に感謝しています。セラスティア様も元気で過ごして下さい。
おでこにつけた手がほんの少し温かくなって、「よかったわ、これからも幸せにねー」って微かに懐かしい声が聞こえた気がした。




