パパとママとわたし#19
そしてとうとう“ご挨拶”当日になった。
「おはようミア」
「お待ちかねの“林檎の蜂蜜煮”よ」
ちゅっとほっぺにキスされて、いっぺんに目が覚める。
「はちゅみつに!」
おうちの中はもういい匂いでいっぱいだ。
「晴れ着を汚すといけないから今日だけは寝間着のままでね」
「今日もパパと食べような」
抱っこされて朝食の席につく。
お皿の上にはホカホカのパンケーキ。
薄いのが3枚重なってる。その上に熱で溶けたバターがじゅわって染み込んでて、その隣にはとろーりと黄金色に輝いている“林檎の蜂蜜煮”がたっぷり!
ミアは丸っと一個とか半分に切ったのを煮込んでると思ってたけど細かく刻んでから蕩けるまで煮込んであってジャムみたいだ。
香りと視覚で口のなかが唾液でいっぱいになる。
ママが席につくのを待って
「いたーきますっ」
パンケーキに林檎ジャムをたっぷりつけてもらってフォークへかぶりつく。
「おいふぃーーーー!!」
甘いよ、ちょっと酸っぱいよ、ふわんと鼻に抜ける濃厚な蜂蜜の香り、すぅっとする林檎の爽やかな香り。
お口の中がリンゴフェスティバルやー!
頭の中でグルメリポーターさんが叫んじゃう。
パパのパンケーキは何枚も重なっていてすごい厚み。林檎のジャムは控え目で、その分バターがたっぷり乗せられている。ママのパンケーキはパパの半分ぐらい。林檎ジャムもバターも同じぐらい乗っている。
美味しくって夢中で食べた。
「ごちしょーちゃまでした」
お皿を舐めかねない勢いで完食したミアを見て二人とも笑ってる。
パンケーキ3枚じゃ足りなくてパパのを1枚もらったのだ。そのせいでお腹がぽこりんになっちゃった。
晴れ着のワンピース着られるかな?
3人共お腹いっぱいになって、お出掛けの準備をする。パパもママもいつもと違う服。
パパはいつものシャツの上に焦げ茶色のジャケットを羽織った。お揃いのズボンもあった。髪と目の色にあっててとても似合ってる。
ママは薄いオレンジ色のワンピース。スタンドカラーのところに少しフリルがついている。黒のくるみボタンがお腹のところまであってワンピースのアクセントになっている。
髪をいつもの一つ縛りじゃなくて、くるくるっと器用に巻いて首に近い位置でおだんごにした。ピンで留めて黒いリボンをぐるっと巻いて完成だ。亜麻色の髪によく似合ってる。
続けて小物入れから手鏡と小瓶を取り出した。ネイルカラーの入ってるぐらいの小瓶。中は黒いような赤いような液体だ。ママはそれを小皿にほんの一滴垂らした。それにさらにキッチンの棚から取り出した油を数滴加える。
ぶわっと色が広がって黒いような赤は、鮮やかな薄紅とも朱とも言える様な色になった。手鏡を見つめて小指にとったそれを唇にすっと塗り広げる。
口紅だ!
「まぁま、きれー!」
いつものママの顔がぱっと華やかになった。
「ママはいつもキレイだけど、今日のママも特別でいいね」と、パパもデレデレだ。
「二人ともからかいすぎよ?」
ママはわかりやすく照れて流しに手を洗いに行ってしまった。
「ほんちょにきれーなのにー」
「本当にキレイなのになぁ」
手を洗ってきたママのお顔はほんのり赤い。
「ほらっ次はミアのお着替えよ?」
タンスから水色のワンピースを大事に取り出した。
「おたのちみだからぱぁぱはあっちむいちぇちぇ」
「えっ!?」
「おきがえしゅむまでみちゃだーめー」
「いいっていうまで見ちゃダメですって」
「パパだけ仲間外れかぁ」
そう言いながらも、くるっと向こうを向いてくれる。
「しゅぐよぶよー」
「すぐ呼びますよー」
ママと二人でくすくす笑う。
よかった、胸のすぐ下が切り替えだからお腹は全然大丈夫だった!
パンケーキもう一枚いけたかも?
「いいでしゅよー」
くるりと振り返ったパパは大袈裟に誉めてくれた。
「なんてかわいいんだ!きっとミアはこの国のお姫様にだって負けてないよ!」正面から右から左から後ろへも回って「かわいい」を連呼してくれる。新人アイドルをその気にさせるベテランカメラマンのようだ。最後はぎゅっと抱き締められて「こんなかわいい子は外へ出しちゃダメだ、おうちにいよう」とよくわからないことを言い出した。
「“ごあいちゃつ”は?」
「行かなきゃね。行きたくないけどね。いや、行きたいんだけどね」ブツブツ呟いている。
「さっ、ミア、行くわよ?」
ママはパパをスルーすることにしたようだ。抱きしめられていたミアをササッと離させると、手を繋いで外へ出た。
パタリと扉を閉めて5秒後に「えっ!?待って、置いていかないで!?」と焦ったパパの声が聞こえた。




