パパとママとわたし#13
林檎を食べてからはずっとおうちの中だけで遊んだ。ベッドでころころしたり、ママにお歌を教えてもらったり。
「そろそろ薄暗くなってきちゃったから、今日はここまでね」おうちの中は外よりも暗くなるのが早い。ママは手早く、縫いかけの布を畳んだり裁縫道具を片付ける。
外から土を踏む音がする。
パパ!
扉を開けてパパが入ってくる。
「おかぇり」
いつも通り抱っこしてもらってお約束をしようとしたら、パパがミアの上げた手を下ろして肩に手を置いた。
「ミア、お庭の石積みのところから水が出てるんだけど何か知らない?」
あれれ、パパもう見ちゃったの?
ミアはすっかり忘れていたのに。
パパはいつもの優しいお顔。
ここは知らないふり一択でしょ!
「みあ、なーんにもちてないよ?」
パパがママをちらりと見る。
「今日は午前中お庭で遊んでたけど、午後からはずっとおうちの中にいたわね」ママもパパをちらりと見る。
ほらね!みあおうちにいたんだよ?
そしたらパパはもーっと優しいお顔になった。
「ミア、何をしたの?」
「みあなんにもちてないよ?いしにもにょぼってないし、ぼう、ぶしゅってしただけよ?」
「棒?」
「ちょーよ、みあいしのてっぺんまでいけにゃかったから、いしをつっついたの。」
「ちょっと見てくる」と、パパはミアを抱っこして外へ出た。
水は昼間と変わらず湧いていた。下は大きな水溜まりになっていた。これはバレるはずだ。
石の隙間の棒はそのまま刺さっていた。
「棒ってこれ?」
「ちょれ」
「何でというか、何を思って刺したの?」
「こーゆーの、おみじゅでるのあるなーって!」
思っただけよ?ミア何にもしてないのよ?
パパと後からお庭に出てきたママはそろって、はぁ、とも、ふぅ、ともとれるため息をついた。「「愛し子だものな」ね」
「これで畑の水やりがすごく楽にはなるね、飲めればもっといいけど」
「あとはこの水のいく先を決めないとお庭が水浸しで困っちゃうわ」
そっか、飲める水かわかんないのか。お腹痛くなるのは困る。パパは水の出てくるところをじっと見て、「今から僕が飲んでみるから、明日の昼までに大丈夫だったらマリッサもミアも飲んでいいよ」と言った。
「大丈夫かしら?やめた方がいいんじゃない?」
「多分、大丈夫。川を流れてる水よりも土の中から湧きだした水の方がキレイだって昔、村の年寄りが言ってたんだ」そうしてパパは手のひらに水を受けて飲もうとした。
「……あのにぇ、みあがくりーんしたりゃだめ?」
「え?」
「おみじゅ、くんでかりゃ、くりーんしゅるの」
「「………!」」
パパとママはその手があったか!っていう顔をした。
しばらくしてどっちも動かないので、パパの腕をぺちぺち叩いて下へ降ろしてもらう。あとはこのままじゃお庭が水溜まりだらけになっちゃう。そしたら明日から遊べない。そんなのダメ。
キョロキョロ見渡して適当な棒を見つける。水が落ちてきて一番大きな水溜まりになってるところへぶすっと刺した。出せたのなら、なくすこともできるかも。
「おみじゅ、ないないよ~」吸い込まれろー。と、念じてみる。
すると、棒を刺したところからお風呂の栓を抜いた時みたいに水がどんどん地面に吸い込まれて、最後は渦を巻いて消えた。
後は上から流れてくる水がちょろちょろと吸い込まれるだけになった。
やったね!これでお庭は無事だよ!
得意満面で見上げたら、二人とも表情が抜けていた。
「「………これが愛し子」」
仲良し夫婦だね!ハモってる。