パパとママとわたし#12
次の日からママはミアの晴れ着作りに取りかかった。洗濯物はミアにお任せ。きれいにクリーンしておくよ!
ミアはお裁縫は夜にやるイメージだったけど、ここでは明るい昼間にやるお仕事だった。電気のないあんな暗さじゃ針目も揃わないし、手元が危ないよね。
ミアの体の色んなところをヒモで計って、テーブルに広げた布地に印をつけてゆく。どんなお洋服になるのか楽しみ。
でもそのお洋服の布地を裁とうとしているママのスカートの裾は元の茶色の生地が見えないくらいたくさんの違う布地で補強されている。継ぎっていうんだっけ。
「まぁま、みあのじゃなくてまぁまのしゅかーとにくっちゅけて?」
ミアは子供だから普段のワンピースでも恥ずかしくないよ。ママのスカートの継ぎが全部同じ布地なら裾がぐるっと一周水色でデザインみたいに見えるんじゃない?ママは少し困ったように
「ママのスカートの心配してくれてありがとう。でもママはミアのお洋服作りたいのよ?とっても楽しみにしていたの」と言ってくれた。
「じゃあね、おっきくなったらみあがまぁまのしゅかーとちゅくるね!」
「まぁ、それはとっても嬉しいわね。ママ楽しみにしているわ」
あ、ママあんまり本気にしてないカンジ。セラスティア様はお裁縫もできるようにきっとしてくれてるはずなんだから、ママにすんごく似合うのを絶対作っちゃうよ!
ママが真剣な顔で鋏を手に布を裁断し始めた。全部が鉄でできている重そうな鋏がシャキ、シャキと布のあいだを進んでいく。
ミアはお邪魔にならないようにお庭に出ていよう。
今日は何をして遊ぼうかな。
林檎の樹に引っ付きながら考える。ここには滑り台もブランコも絵本もおもちゃも何にもないから自分でできる遊びを考えなくちゃいけない。
林檎の樹のちょっと後ろは、庭よりも高くなっていて山の土を削って庭を作ったことがわかる。庭と山の境目には昔のお城の石垣みたいなザラザラとしたいびつな石が積んである。大人の腰ぐらいの高さかな。
よし、今日のミアはロッククライミングごっこ!てっぺんまで登れたらロッククライミングもうすぐ3才の部優勝でーす!
まずは足をかけて、右手で上の石を掴むでしょ。そしたら左足をあっちへ置いて、左手で…掴む、掴…む、あれれ、もう登れない。
ミア選手予選敗退決定です……。
せっかく思い付いた遊びなのに、すぐ終わっちゃった。
ちょっとくやしい。
その辺に落ちてた棒を拾って、目の高さにある石と石の間を突っつく。もうちょっと隙間が大きければここに手がかけれたのに。
そういえばテレビでこういう石の間から天然水が湧いてるのを見たことある。あれは石を積んだら水がそこから出るようになったのか、水が出るところに石を置いたのか、どっちかな。
ポリタンクを持って、たくさん水を汲んでいる人の映像を思い出した。
ここからも水が出たら、毎日遠くまで汲みに行かなくてもいいのに。
棒をブスリと隙間に差し込む。
お耳がぞわぞわってしてピンっと立った。何だか変なカンジがする。石積みの向こうから何かがじわりと近付いてくるような。そんなバカな。石積みはお山とくっついてるんだから、向こうは全部土だ。
じぃっと見詰めているとなんと水が棒を伝って流れ出してきた。
「ふぇっ?」
ちょろちょろ流れ出した水はだんだん水量を増して棒を無視して地面へ落ちていく。地面にだんだん水溜まりができていく。水はホースぐらいの太さになった。それは止まらずにこんこんと湧いてくる。
ちらっとおうちを見る。
ママはお洋服作りに忙しい。
……見なかったことにしよう!
うん、ミアは何にもしてないし、見てないよ!
太陽は真上らへん。そろそろお昼かな。
「まぁま~りんごたべよ~」
わたしはおうちへ駆け込んだ。