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転生エルフとパパとママと林檎の樹  作者: まうまう


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205/214

家族の再会

じぃじの家に近づくにつれ、ディノの足はのろのろと遅くなった。


村の入り口近くで馬車を指輪にしまって、メロスだけを引いて歩く。


あいつらは何故か途中から乗り合い馬車には乗っていなかったから遠慮なく、そこにだけ大雨を降らせたり、吸い込むと深く眠れる花粉を出す眠り花を、夜営のテントの周りにたくさん咲かせてお寝坊させたり、食べられる美味しい茸そっくりのお腹を壊す茸を道沿いに生やしておいた。

トンボカメラのおかげで時間稼ぎはバッチリ☆

ミア、エルフでよかったぁ!


余裕であいつらより先に村へ着くことができちゃった。


じぃじのうちの前まで来たら、ディノの足は完全に止まってしまった。


うれしいのと気まずいのとごちゃ混ぜなディノの気持ちもわからなくもないけど、もうここまで来たんだし、ミアは一刻も早くパパとママとじぃじに会いたいんだから待ってなんかあげないもん。


手綱を柵へ結びつけたら、ディノをぐいぐいと押して扉まで誘導する。


「ミアっ、俺やっぱり……!」


ディノの言葉は聞こえないフリをして、紐を揺らしてベルを鳴らせば、久しぶりに聞く音に心が弾む。


足音がして、ガチャリとドアが開けられて……


「ただいまっ!」


目の前の体に勢いよく抱きつけば、懐かしいママの匂いがした。


「ミアっ、帰ったのね!」


その声を聞いて奥からは「ミアだって!?」「帰ったか!」とパパとじぃじの声もする。


後ろのディノからは緊張している空気が伝わってきた。


「パパっ、じぃじっ、ただいま!」


ドタバタと姿を現した2人の視線はミアの後ろへ釘付けだ。


「ディノ……?」

「ひ、久しぶりだな、兄貴」

「よく……よく帰ってきた……」

涙声になったパパはディノにがしっと抱きついた。

「悪かった……、ッ」

ディノも詰まる声でパパに応えると腕をまわして抱きしめる。


その間にミアはじぃじにしがみついた。


「じぃじ、会いたかったぁ」と頭をぐりぐりとこすりつければ「儂も愛しい孫娘に会いたくてたまらんかったわい」と優しく頭を撫でてくれる。


「は?……兄貴……アレは本物の親父か……?」

「あーうん、ミアが来てからはずっとああだ」


後ろでディノとパパが何か言ってるけど、この優しいじぃじが本当のじぃじでしょ!


「父さん、ディノが帰ってきたよ」


パパがディノをぐいっとじぃじの前に押し出した。


「親父………あ、あの、お、俺……」

上手く言葉が出てこないディノに、じぃじは「何をぼさっと立っている。さっさと中に入らんか」と声をかけた。


「い、いいのか?」

「いいもなにも、ここはお前のうちだ」


じぃじは殊更ぶっきらぼうに言って踵を返してしまった。


「あ、あぁ! た、ただいま!」


その背中を追いかけるように声をかけたディノだけど、じぃじは振り返らなかった。


「照れてるんだよ」

「こっちのが親父らしいよ」


パパとディノは顔を見合わせて笑い合う。


「パパっ、ミアもぎゅっ!」


両手を広げれば即座に掬い上げられる。

腕を回してパパの首にしっかりとしがみつけば、一人でにくふふと笑いがこぼれてしまう。


ミアのおうち。

ミアのパパとママ。

ミアの家族。


帰ってきたよ。

帰ってきた。


ふわりと暖かい空気に包まれるような不思議な感じ。

背中に羽が生えてるんじゃないかと思うくらい、なんだかふわふわとしてる。


きっとディノもそう。

パパとお話するディノはいつもよりずっと力の抜けた顔をしてる。



夕飯は指輪から取り出したミアが作った四つ目牛のハンバーグに黒ボアの煮込み。

それにママが作ってくれたキャベツの酢漬けに玉ねぎがとろとろになった黄金色のオニオングラタンスープ。

お土産に持ってきたワインをパパとディノには普通のゴブレットに。

じぃじとママにはミアが創造(クリエイト)したガラスの小さなお猪口に淹れてあげた。

ミアはまだダメってパパもディノも言うから、ミアだけ葡萄ジュース。

いつになったらお酒を飲ませてもらえるのかな?

見た目の判断ならエルフなミアは当分飲めない。

みんなの仲間に入れないのは、ちょっとつまんない。


小さなお猪口のワインにじぃじは物足りなさそうだけど「僕らも一杯だけにするから」とパパがなだめてくれた。


食事をしながらアイナブルゴヤでの暮らしやディノのお仕事のお話をする。


じぃじは無関心なフリをしてたけど、ディノがどんな仕事をしたりしてるか話している時はしっかり聞き耳を立てて、時々目元を緩ませていたのミアは見逃さなかったからね!

パパは「うん、うん、ディノは本当に立派になった」と手放しで喜んでいた。

パパに誉められたディノは照れながらもうれしそう。

ママとそれを見ながらくすくす笑いあった。

ママもディノと会うのは初めてだけど「ミアの手紙の通り、パパと目元がそっくりね」と親しみを持ったみたい。


美味しいごはんと笑い声でお腹はいっぱい。

やっぱり家族で食べるごはんは最高!


みんなにクリーンをかけて寝る準備。

そっとディノに目配せをするとディノも目だけでわかったと応えてくれる。


じぃじのお部屋によく眠れるようにラベンダーや落ちつく香りのハーブを飾ってきた。

その中にこっそり眠り花を紛れこませてある。


「おやすみ」と挨拶をしたじぃじはすぐに規則正しい寝息をたて始めた。



いつもならとっくにベッドに入っている時間、ミアの出した光石ランプをテーブルの真ん中に置けばパパの顔もママの顔もディノの顔もよく見える。

「何が始まるんだい?」

寝入ってすぐ起こされたパパとママは目をしょぼしょぼさせながらも、ミアの言う通りテーブルについてくれた。


紅茶は眠れなくなっちゃうから、大人にはホットワインを用意した。

蜂蜜とオレンジとスパイスの甘い香りが、冬がもうすぐそこまで来ている部屋の中へと広がってゆく。

せめてこの香りで少しでも気持ちが和らぐといいな。

ミアには蜂蜜入りのホットミルク。

カップを両手で包み込めばその温かさは話し始める勇気をくれた。



「……そうか、兄さんが…………」


ぽつり、とパパは呟いた。


怒るでもなく、哀しむでもなく静かにそのことを受け入れているみたい。


ママは青い顔で両手で口を覆って黙っている。


「父さんには知らせないと決めて正解だったね、ありがとう、ミア、ディノ」


「うん、じぃじが知ったらきっと怒りすぎて、倒れちゃうと思って……」


「倒れるか、村を飛び出して殴りに行きかねないわ」

ママもミアの頭を撫でて誉めてくれる。



「今なら打てる手がたくさんあるからな」

「ミアが魔法でぐるぐる巻きにして捕まえてあげる!」


さくっとちゃちゃっとやっちゃえるよ?

なんたってミアは魔法が使えるんだもん!


なのに、パパは首を横に振った。


「もしかして兄さんだって直前で思いとどまるかもしれない、だからもし捕まえるにしてもギリギリまで待って欲しいんだ」


「だけどよ、もしまた盗られちまったらどうすんだよ!?」


そうだよ! ディノの言う通り!


「村まできたら懐かしくて心変わりするかもしれない」


「ミアはそうは思わない」


だってトンボカメラで見たあいつは、食堂で難癖つけたり仲間にもいつも偉そうな態度だった。


「お金はちゃんと別の場所に隠すよ、みんなの大切なお金だからね、二度も盗られる訳にはいかない」


パパは悲しそうに、だけどキッパリと言った。


「お金が見つけられなかったら大人しく自分から村を出ていくよ、だから……」


「……わかった」

「兄貴がそう言うなら……」


納得はいかないけど、パパが決めたならしょうがない。



「なんでかな、ミアなら絶対に村へ入らせないのに」


だって、ヒドイじゃない。

そんな人に大事な場所に入って欲しくない。


パパが出ていった扉に向かってぽつりと呟けば「家族……だから、だからこそ割りきれないの」とママは言った。


家族


家族


家族


……ひどいことされても? 迷惑をかけられても? お互いを大切にし合うから家族なんじゃないの?


「……アーベルにだって、いい兄貴だった時はあった。忘れられねぇんだよな」


空っぽになってしまったという居間を見回して、ディノは苦く笑った。



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