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転生エルフとパパとママと林檎の樹  作者: まうまう


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走れ、守るために

「ディノ」


「お袋の看病も、家のことも、親父の仕事の手伝いも……あいつの尻拭いさえせず俺は逃げたんだ……あいつは犯罪者だが、俺だってひでぇ卑怯もんなんだよ」


ディノはテーブルへ突っ伏して拳を天板に打ち付ける。

まるでそこに自分の心臓があるみたいに。


ディノは帰らなかったんじゃない。



…………帰れなかったんだ。



「ディノ」


「ディノっ! しっかりして!!」


腕を掴んで揺さぶれば虚ろな瞳はようやくこちらを向いた。


「ミアは許さないから。パパとじぃじを苦しめた人なんて絶対許さない」


虚ろな瞳はまだぼぉっとしてミアをしっかりとは映していない。


「ライの食堂に来た“アル”は“アーベル”で間違いない?」

「アーベルは親父にそっくりだった。カッツェはお袋似で、俺は半分ずつ似てるとこがあるって、上手く産み分けたってお袋はよくからかわれてた……」


「そいつが食堂に来た次の日すぐアイナブルゴヤを発ったとして、ミア達より先に進んでいると思う?」


「いや、馬車じゃなく直接馬に乗れば、もしかしたら先に行ってるかもしれないが、個人で持つにも借りるにも金がかかる。わざわざ村まで金を盗みにくるような、金に困ってるやつはそんなことしない……」



「なら、ミア達が絶対先に村へ着けばいい」


それを聞いたディノは目を見張った。


「向こうはこっちが盗みの計画を知ってるのを知らないんだもん。邪魔して追い返しちゃえばいい」


テーブルに打ち付けていた手をそっと両手で包み込む。

ディノ、苦しんでいたんだね。

簡単に「帰ろうよ」なんて言ってごめんね。



「ミアにはお金がある。魔法もある。だからディノはこの手を貸して。知恵を貸して。一緒にパパとじぃじと村を助けよう」



それから二人で夜が更けるまで話し込んだ。




乗り合い馬車は他のお客さんも乗っていて休憩やなんやで時間をくう。

だから馬を手に入れることにした。


「この馬が欲しいの」


鑑定をして馬小屋にいる中で一番体力がある馬を指差せば、貸し馬屋さんは「売るのはなぁ……」と渋った。

「急なお願いだからもちろん上乗せはするよ」と、相場の倍の大金貨を差し出して黙らせる。


引き取った馬は全身真っ黒で瞳は少し紫がかっている。

「よろしくね」と林檎を差しだすとがしゅがしゅと美味しそうに食べた。

ついでにディノとミアの髪の毛もむしゃむしゃされてベトベトになっちゃったからクリーンをした。


手綱を引きながら歩いて街を出る。


よし、周りには誰もいない。

魔法の大盤振る舞い開始!


まずは馬車を創造(クリエイト)

小さめで目立たないようにわざと使い古してある感じにする。

“重量軽減”の魔法もかけてお馬さんの負担をできるだけなくしておく。

中はふかふかのソファーにして乗り心地は抜群。

“御者の技術”を創造(クリエイト)をして、ミアとディノに魔法をかける。

ちゃんと馬車と馬をどう繋げばいいか、どう動かせばいいのか不思議とわかるようになった。

ディノは早速、御者席に座った。



創造(クリエイト)、“トンボのカメラ”!」


監視カメラみたいに映像を記憶してくれるトンボを創造(つく)る。

ミアが念じれば伝言鳥のようにどこにでも飛んできて映像を伝えてくれるようにした。

すい、すいーっと泳ぐように飛んで、見た目は普通のトンボだから怪しまれない。


ミア達は村へ帰るまでの最短ルートを進んでいる。

お金のないあいつも同じルートを使うだろうってディノが言ってたから、行く先々でこのトンボのカメラを置いていく。

どこにいるかわかれば安心できるもん。



よし、とりあえずこれで出発!


お馬さんは軽快に馬車を引いて走る。

軽くして負担は少ないけど走らせ続けるのはかわいそうだから、時々休憩をはさむ。


「ねぇねぇ、ディノ、このお馬さんに名前つけようよ」

「ミアが買ったんだ、好きに名前をつけていいぞ」


「んーと、じゃあね“メロス”はどうかな?」


「いいんじゃないか?」


ゴールの村まで走りきって欲しい願いをこめた。


メロスにお水と飼い葉を出してあげて、お腹に優しくて美味しい草を辺りにわさわさと繁らせれば夢中で食べ始めた。


ミア達も指輪から取り出した作りおきでお昼ご飯にする。

パン屋さんに焼いてもらったパンとビーフシチュー。

涼しい空気の中で食べると本当に美味しい。


出発する前に忘れずにトンボカメラを飛ばしておく。


「よし、ミア、そろそろあれやっておくぞ」

「わかった」


ディノの薄茶色の髪と瞳を魔法で黒くする。

ミアの髪と瞳は桜色に。

エルフのとんがり耳も普人のような丸いお耳に。

服も動きやすいワンピースから、リボンがたくさんのお嬢様ワンピへと変えた。



「どお? 誘拐されそうに見える?」

「おー、見える見える。ってか、ミアは元々誘拐されそうだったからそこは変わってない」



夕方着いた町の門番さんにディノは気さくに声をかける。


「お嬢様が泊まれるような宿を教えてくれるかい?」


馬車の扉を開けて不審なところがないかチェックしながらミアを見た門番さんは「あぁ、それなら大通りに面した“ひだまり亭”がいい。部屋が清潔って評判だ」と親切に教えてくれる。

「“ひだまり亭”だな、わかった。……それとな、すまないが頼みがあるんだ」

少し声を潜めたディノはさっと門番さんの手に大銀貨を1枚握らせた。


「な、なんだよ、悪いが悪事の片棒は担げねぇぞ」


ディノは突き返そうと伸ばされた手をやんわりと押し戻す。


「あぁ、違う、そうじゃないんだ。実はうちのお嬢様が質の悪い冒険者に付きまとわれているんだ」


「なんだって」


「まだ幼いお嬢様を拐おうとする変態でな? 厳めしい顔の、茶色い髪と瞳の、俺より年嵩の背の高いやつのいる三人組の冒険者パーティーがきたら少しでいいから足止めしてくれると助かるんだ」


「そういうことならお安い御用だ。見目がいいってのも大変だな」


門番さんはミアに同情して「もし滞在中にそいつが来たら知らせてやるからな」と請け負ってくれた。


後から来るアーベル達に抜かされるとは思わないけど、あいつらより少しでも早く村へ着きたい。

だから行く先々の町や村でロリコン変態ストーカーから逃げるお嬢様を演じてやる。

ミアの見た目なら大体の人は信じてくれるからってディノが考えた作戦だ。


そんな感じで何日か旅を続けた。



「見つけた!」


ディノが御者をしてくれている間、馬車の中でトンボカメラの映像をチェックしていると、メロスを買った街でそれらしき人を見つける。

映像は頭の中に直接浮かんでくるからディノに見せられないのがもどかしい。


トンボはすいすい飛んで、目当ての人物へと近づいていた。


「……本当にじぃじによく似てる」


ううん、けど、全然似てない。


じぃじはいつも怖いお顔で怒ってるように見えるけど、人でも物でも真っ直ぐに見つめる瞳には温もりがあった。

でも、トンボカメラで見るこいつの目はずっときょろきょろとしていて、自分の得する何かがあるんじゃないかと絶えず探っている、そんな目。


やっぱり似てないっっ!


トンボカメラは音声はないから何を話しているのかわからないけど、仲間らしき人に話しかける時の表情も、にやにやとしていけすかない。



「そうか……本当にこっちに向かってるんだな……」

お昼休憩の時にあいつを見つけたと報告したらディノはため息をついて肩を落とした。


「思ったより早いよね? なんでだろう」


「乗り合い馬車を上手く乗り継いだか、もしかしたら護衛にでもなって適当な事を言って急かしたんだろう」


「パーティーは三人組、あいつは剣、もう1人の男が短剣。女の人は特に何にも持っていなかったみたい」


「足止めの方法を考えなくちゃね」


あいつらだけなら、落とし穴でも土砂崩れでも起こせばいいけど、乗り合い馬車の他の人達に危険があったらいけないからできることは限られてる。


「とりあえず三日ぐらい雨でも降らせて速度をゆるめさせようかな」


「そうだな、その間に俺らは急いで先へ進めばいい」


エルフは自然にかかわる魔法が得意。

雨、雨、降れ降れ、特にあいつの上にはたくさん降れ!





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