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転生エルフとパパとママと林檎の樹  作者: まうまう


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202/214

急ぎの知らせと家族の秘密

アイナブルゴヤを出てから7日。

旅路は順調!


馬車は澄んだ秋空の下をゆっくりと進む。


今のところ野宿になるようなところには来ていないから、夜はちゃんとベッドで眠れていてまだ疲れはでていない。

ディノが一緒だから高級お宿に泊まってる。

ピュイトとは神父は必要以上の贅沢はしないって普通のお部屋ばっかりだったから、ミアも今回は贅沢を楽しんでる。

ミアがお金を出すのをディノは気にしているけど、アイナブルゴヤの商業ギルドで大金貨も金貨も大銀貨もたくさん引き出して指輪に入れてきた。

宿のお部屋のテーブルにじゃらじゃらと山積みにして見せたらディノは「俺はうれしがっていいのか悲しんでいいのかわからねぇ」と項垂れた。

大人としては複雑なんだって。

「でも、家族のために使うのは普通だよね?」と言えば「まぁ、そうだけどよ……」と納得したような、してないような顔をした。

でも、それからはミアがお金を払うのを止めなくなった。

村へ帰ったらお金を使うことなんてほとんどないんだから、気にしなくていいのにね。


今日も夕方の少し前に乗り合い馬車は次の街へと着いた。

御者さんに教えてもらった街一番の宿で夕飯とお泊まりをする。

宿の食堂で出されたのは、野菜たっぷりのスープに近くの村で育てているという鶏の炭火焼き、それにひまわりの種の入ったパンはどれも美味しかった。

デザートの甘煮の栗がごろごろ入った小さなパイを頬張っていると、壁をすり抜けてきた茶色の小鳥がミアの頭に止まった。


お部屋に戻ってからゆっくり伝言を聞くことにして、残りのパイを慌てて食べた。


「それ、バイエルの会長だろ?」

「うん、おじさまから。なんだろね?」

大人しくミアの頭に止まっていた茶色の小鳥は「伝言を」と言えば差し出した指に止まって話し始めた。


「落ち着いて聞いてくださいね」


おじさまの固い声に二人で顔を見合わせる。


「今からミアちゃんがお手伝いをしていた食堂のウィゼンベルク村出身のライからの手紙を読みます。日付はミアちゃんが出発した2日後。ミアちゃんに知らせるためバイエル商会で渡された手紙を早馬でスタットが届けてくれた物です」


急いで知らせる必要があること……?

ただ事ではないおじさまの様子にディノも眉根を寄せた。


「読みます。『ミアとサンディノさんに知らせておきたいことがある。昨日の夜、冒険者パーティ三人組が店に来たんだ。そいつらはパッとしねぇいかにも高ランクには上がれねぇってやつらだった。ちょうどミアも世話になったあの常連の冒険者がいて最近アイナブルゴヤにきた連中だって教えてくれた。知らせたいのはそいつらが話してたことだ。そいつら酒を飲んで周りを気にせずでかい声で話してやがった』


冒険者のパーティー?

ミアの知り合いにはいないし、心当たりもない。

ディノの知り合いかと思ったけど、ディノも首をかしげている。


『そいつらの中でリーダーっぽいやつが言ってたんだ。少し遠いが故郷の村に金を取りに帰るって。のんきでバカなやつらばかりだからどうせ前と同じところに金を隠してるだろうって』


それって取りに行くっていうか、盗みに行くってことじゃない?

そこまで聞いたディノは手を口元に当てて顔色を悪くしている。


「ディノ?」



『それでな、そのリーダーらしき奴なんだが仲間からは“アル”って呼ばれてた。……でな、これは信じてもらうしかねぇんだが、そいつの顔は村長にそっくりだったんだ』


え、村長ってじぃじのこと?


『しこたま怒られた村長の顔をオレが忘れるわけねぇ、村長が若ければってそんな顔だった。この知らせが杞憂ならそれでいいんだが、取り急ぎ知らせたいと思ってバイエル商会を頼った。旅の無事を祈ってる』以上です」


おじさまの声が止んで小鳥は姿を消した。


「あの野郎ォ、あいつはまた…………ッ」

ディノは拳をテーブルに叩きつけた。

ダンッと大きな音がしてびくりとしたミアに見向きもせず打ち付けた拳をぶるぶると震わせている。


「ディノ……何か知ってるの?」


恐る恐る話しかけると、はっとしたディノは顔をくしゃりと歪めた。


「そうだな……もう隠してはおけねぇな」




それはパパがママと出会う前の話だった。


「お袋が死んだ後な、俺達家族は少しギスギスしてたんだ。俺らが三兄弟だってのは知ってるな?」

こくんと1つ頷くと、ディノも頷き返した。


「俺んちは代々村長をしてきた。一番上の兄貴は“アーベル”っていってな、当然のように周りも本人も親父の次はアーベルが村長を継ぐって思ってた。だけどあいつは遊んでばっかりでちっとも親父の仕事を手伝って覚えようとしなかったんだ。家の仕事も親父の手伝いもカッツェに押し付けてバカにする始末だった」


そんなのひどい!

パパはお母さんの看病も、じぃじの手伝いもよくやっていたってゲーテおばさん言ってた。

一生懸命やってる人をバカにするなんてしちゃいけないんだよ!


「親父だってそんなやつじゃ先行きが不安だわな。ある時、次の村長はカッツェにするとあいつに宣言した。そしたらよ、こんな小さな村の村長なんかより冒険者になって好きに暮らしてやるって村を出ていったんだ」


“アーベル”さんのことはパパもじぃじも話題にすることはほとんどなかった。

そんな風に出ていったならミアに話さなかったのは不思議じゃない。

でも、ちゃんとしてなかった自分が悪いのに怒って出ていくなんてずいぶん子供っぽい。


でも、何で今、一番上のお兄さんのことを話すんだろ……

…………まさか……


「なぁ、ミア、ウチってさ村長んちって割には殺風景だったろ?」

「え? あ、う、うん」


確かにじぃじのおうちには最低限の物しかなくて、アナお姉さんのおうちの方が立派な家具や絵が飾られていた。


「昔はな違ったんだ、ご先祖達がこつこつ買い集めた絵皿やタペストリーなんかが飾ってあって、それなりに村長んちの対面を保ってたんだ」


苦々しく口を歪ませて次の言葉をディノは言った。


「あいつが村の金を盗んで逃げるまではな」


盗んで逃げた……村の……村のお金を!?


「あいつが姿を消した日、村役場の扉がこじ開けられて村人から集めた税もごっそり消えた」


「そ、そんなの、みんなが困っちゃうじゃない……」


知らず知らずミアの声は震えてしまう。

だって、それってすごくすごく大変なことだ……


「あぁ、困ったさ。特に親父がな。なんとしても税を納めるのを間に合わせようと、家中の金目のもんを売り払った。家宝の銀の皿を手放したのもそん時だ」


「じぃじの大切なお皿……」


「それじゃもちろん足りなくて、親父とカッツェの兄貴は村人に頭を下げ続けて、もう一度金を集めて回ったんだ。そこまでして、ようやっと税は間に合わせたんだが、今度は銀の皿でもてなさなかった役人が不愉快を隠しもせず帰ることになった」


でも、だって、そんなのしょうがないよ。

ないお皿にお料理は盛れないのに。


「ミアは知らねぇかもしれないけどな、田舎の小さな村の税なんて役人の匙加減一つで増えたり減ったり納期が変わったりするんだ」


口の端をつり上げて鼻で笑うディノは泣きそうに見えた。


「俺ら家族を見る目がいっぺんに変わっちまったのに耐えられずに、仕送りするためだって理由をつけて俺は村を離れた」


あぁ、それでわかった。

ミアが小さな頃、なんであんなに貧しかったのか。

そしてじぃじとパパを見る、村の人の視線の原因も。


「兄貴一人に背負わせて俺は村から逃げたんだ」


拳を額に打ち付けながらディノは声を絞り出した。

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