お土産持って、ディノ持って
きた!
ついに!
やっと!!
ミアがずーっと待ち望んでいた手紙!
もう帰ってきてもいいって!!
手紙には詳しいことは書いてなかったけど、カイ兄ちゃんの説得に成功したってことでいいんだよね!?
よかった!
アイナブルゴヤへ来てから二回も同じ季節を過ごして、もしかしたらもう一周ここで過ごすことになるかと思っていたけれど、なんとか三回目の冬は越さずにすみそうだ。
秋はもうすっかり深くて木々は茶色く乾いた葉を落としている。
じきに冷たい風が吹く。
すぐに帰りたい気持ちもあるけど、早くしないと旅には不向きな季節になっちゃう。
急がなくっちゃ!
「ついに帰れるのか、よかったな」
手紙の内容を話したら、ディノはミアの髪をくしゃりと撫でて喜んでくれた。
でもそのすぐ後に「寂しくなるな」と眉を下げた。
うん、ミアも寂しい。
パパとそっくりな優しい瞳があったからアイナブルゴヤで頑張れた。
ミア見ちゃったんだ。
ディノは夜中に下のカウンターでお酒を飲んでいた。
その日はドワーフさんに頼んでたお皿を受け取った日だった。
酔っ払ったディノはおじさまが見つけてくれた古いお皿と真新しいお皿を前にして「孝行したって言えるかね? ただの尻拭いだってアニキに怒られるか……?」「お袋には何にもしてやれなかったなぁ」「ようやく見つけた」とゆらゆらと頭を揺らしながら、何度も同じ独り言を繰り返してた。
ディノは村を離れてずいぶんたつし、ミアのことがあるまで手紙すら、あまりじぃじともパパともやりとりをしていなかったみたいだけれど、家族を思いやってるのを知ってる。
同じ家に住んでなくっても、長い間会えなくっても家族のことを大切に思ってくれていた。
「……ねぇ、ディノも一緒に村へ帰ろうよ」
そう言えば、ディノの瞳は小刻みに左右に揺れた。
「ずっとじゃないよ!? ほら、里帰りって言うの? いい機会だし、お土産持ってミアと一緒に行こうよ。 パパもじぃじも喜ぶよ?」
村を出てから一度も帰っていないんだもの。
パパだってじぃじだって、ディノの顔を見たいに決まってる!
「そうしたいのは山々だがな、金もかかるし、仕事だってそう長くは休めねぇんだよ。俺はこれでもギルドのベテラン職員なんだぞ? あー頼られちまうってのはツライなぁ」
ディノはわざと軽くそう言った。
お金ならミアがたくさん持ってる。
ディノをお土産にしたらパパは絶対絶対喜んでくれるんだもん。
ディノが一緒に来てくれるなら、馬車を貸し切りにしたっていいし、豪華な宿の一番いいお部屋に泊まってごちそうを食べるのもいい。
お金の心配はしなくていいんだから、仕事を何とかすれば一緒に帰ってくれるかな?
どうしようかな……ミアがいきなりギルドのえらい人にディノにお休みをください!って言ったらお休みくれるかな?
……それは多分ダメな気がする。
んーと、んーと、どうしよう……
バイエルのおじさまに頼んでみる?
でもそれだと、ディノがギルドに居づらくなっちゃうかも?
それにおじさまもあんまりそういうの好きじゃなさそうだしな。
「この話は終わりな? 帰るまでの支度は手伝ってやるからな」
「……わかった」
なんとかこう、自然とディノがお休みできるようにならないかなぁ?
市場で買い物をしながらも、ずっとそのことを考えていたら「どうしたんだい? 元気がないねぇ?」と八百屋のおばさんに心配されちゃった。
おばさんには里芋もどきのコロッケの作り方を教えてあげたら、とっても感謝されてまわりの人にもレシピを教えてあげたら里芋もどきが売れるようになったって喜んでくれて、いつもおまけのお野菜をくれる。
「近いうちに村へ帰ることになったんだけど、ディノは商業ギルドのお仕事が休めないから一緒に帰れないの」と伝えると「そうなのかい? そりゃアタシも寂しくなるよ」としんみりとされた。
「こんな小さくて可愛い娘の一人旅は危険だよ? その、ギルドの仕事ってのは何とかならないもんかね?」
ミアはもう16才だから本当は小さくないけど、見た目はこっちの10才ぐらいだから、おばさんにとっては小さい子供だ。
「ミアも一緒がいいけどダメなんだって……」
力なく首を振ると「一人じゃ心細いだろうにねぇ」と同情された。
気づいてなかったけど、ミアはかなりしょんぼりと歩いていたみたい。
それからも行く先々で心配してくれた市場の人と同じようなやり取りをした。
市場の人ともずいぶん仲良くなったから、みんな寂しがってくれた。
話を聞いた人がそれぞれあちこちでその話をしているから、今日中に市場の人全員にミアが村へ帰るのは広まりそう。
みんな親切ないい人ばっかりだったな。
市場やバイエル商会で村へ持って帰るお土産を買ったり、薬師ギルドに最後のお薬を持って行ったり、色ガラスの在庫を倉庫いっぱいに創造して、合間に時間停止の魔法収納袋にディノのためにお料理をせっせと詰める。
海老フライはたくさん入れておいてあげなくっちゃ。
ライにも村へ帰ることを伝えに言ってイオさんとハンナさん宛の手紙を預かった。
「お袋達にこっちでうまくやってるって伝えてくれよな」
「うん、任せて。ちゃんと幸せだって伝えておく。体に気を付けてね」
ライにはまだ小さい娘ちゃんのために熱冷ましや咳の薬を渡しておいた。
「悪りぃな、また遊びに来いよな」
「うん、またね」
すっかり準備も出来たし、明日帰ろうと思いながら夕飯の準備をしていたら「ミーーーアーーーーッ!」と怖い顔してディノが帰ってきた。
「ど、どしたの?」
「どうしたもこうしたも、お前市場の人間に何を頼んでんだよ!」
「え? え!? 旅の間のパンをたくさんパン屋さんに頼んだのそんなにまずかった? それともお肉屋さんに四ッ目牛の干し肉を特注したこと???」
どっちも「任せときな」って言ってくれたけど、無理な注文だったのかな?
品物と引き換えにちゃんとお金も払ったけど何かダメだったのかな?
「そうじゃねぇよっ、ギルド長のとこに市場のやつらが入れ替わり立ち替わりきて、ミアちゃんが心配だから俺に休みをやってくれって直談判していくんだよっっ」
「ええっ!?」
慌てて首をぷるぷる振って「知らないよっ」とアピールすれば「本当だな?」と念押しされる。
今度はこくこくと縦に振れば、はぁっと大きなため息を吐かれた。
「ミア、ギルド長さんのところへ行って謝ってくる」
「あーいい」
ディノは手のひらを縦にしてひらひらとした。
「もう帰っちまってるし、それに俺はしばらく顔を見せるなって言われたしな」
「クビになっちゃったの!?」
どうしよう、ミアのせいでディノが無職になっちゃった!!
「なんでそうなるんだよっ!? 休暇だとよっ!
2ヶ月ありゃあ戻ってこられるだろってよ」
「え……それって」
「帰るぞ、村に」
「ディノ大好き!!」
思わずぎゅっと抱きつけば、髪をくしゃりとされる。
「じゃあ、夕飯早く食べて早く休まないと! 明日出発ね!」
「あ、明日ぁ!?」
ディノはこうしちゃいられないと、慌てて二階へ上がって支度を始めた。
忘れ物してもミアが創造するから、そんなに慌てなくても大丈夫なのに。
うれしいっ
ミアが帰れるのもだけど、ディノを連れて行ったらパパもじぃじも絶対喜んでくれる!
一番のお土産ができたっ。
一つ前で200話になりました。
長いお話を読んでいただけて本当にうれしいです。
これからもお付き合いくださいませ。




