NO!言うミアの鷹の爪!
どう見ても悪い人な人達はお店にじりじりと近寄ってくる。
並んでたお客さん達はそれを見てじりじりと後退る。
どうしよう、ミアが“責任者”なんだからミアがどうにかしないといけないんだよね!?
ざっと見てチンピラは5、6人。
まとめて吹っ飛ばしちゃうのは簡単だけど、それだと周りのお店やお客さんにまで迷惑がかかっちゃうかもしれない。
やっぱり蔓でぐるぐる巻きが一番かな……?
「へへ、悪く思うなよっ」
どうしようか考えていたらチンピラはすぐそこまできていた。
チンピラの一人がミアに手を伸ばす。
「ごろつき共め」
ドガッと鈍い音がして常連さんのパンチがチンピラの顔面に炸裂した。
地面に倒れ込んだチンピラはピクピクしてるけど気絶したみたい。
「手、痛くない?」
「安心しな、これでもベテラン冒険者だ。これぐらいなんてことはねぇよ」
ほどいた拳を振りながら常連さんは笑う。
よかった!
「ぼさっとしてないで早く何とかしろっ」
キーキーと甲高い声で喚くアークトークの人。
「ざけんなっ」
「くそっ」
今度は常連さんに向かって二人がかりでタックルしてきた。
常連さんは相手の背中の服を掴んで体を捻って振り払う。
ぶんっと振り払われたチンピラの一人がテーブルに激しい音を立ててぶつかった。
もう一人は並んでた人達の足元へゴロゴロと転がっていく。
「きゃあっ」と周りの人から悲鳴が上がった。
テーブルは脚が折れて大きく傾いて、見本のペンダントがバラバラと地面へと散らばった。
籠に入れてたのはミアがとっさに持ち上げたからセーフ!
「他人に迷惑かけたらいけないんだよッッ!(創造)蔓!」
普通の植物魔法に見せかけて、こっそり創造を唱えて蔓をだす。
しゅるるる……と勢いよく伸びた蔓に足から順に絡め取られたチンピラとアークトーク商会の人は立ってる芋虫みたいになった。
地面に伸びてる人以外は全員身を捩って「離せ」と叫んで無駄な抵抗をしている。
さて、コレどうしたらいいのかな?
その時「ミアっ!」と「お嬢様っ!」と人だかりからディノとスタットさんが転がるように現れた。
「無事か!?」
「ご無事ですか!?」
息を切らしながら二人が同じ事を言う。
「うん、大丈夫! 食堂の常連さんがやっつけてくれたし、今動けなくしたところ」
そう言うとミアしか目に入ってなかったらしい二人は周りを見回してほっとした。
「あ、こいつギルドでも要注意の報告あがってたアークトーク商会のヤツじゃねぇか」
ディノがまだ喚いてるアークトーク商会の人に気がついた。
「うん、自分でそう名乗った。 急に来てミアのペンダントを全部買い取るとか勝手な事言ってきたんだよ!?」
「んで、ちび嬢ちゃんがそれを断ったらよ、そこのごろつき共をけしかけてきやがったんだ」
常連さんは芋虫達を親指で示した。
「アークトーク商会……確か職人から品物を無理矢理にただ同然で奪いとったり、粗悪品をお客様に高く売り付けると悪評がたっていましたね、いつもこうやって脅したり暴力をふるっていたのでしょう……」
スタットさんが「商人を名乗って欲しくないですね」とアーク商会の人を睨み付ける。
バイエルのおじさま言ってた。
「仕入先もお客様も、そして自分達もみんなが笑顔になるのが一流の商売人で商会だよ。商売の大きさは二の次だ」って!
「くそっ、小娘覚えてろよっ! お前なんかこのアークトーク商会の力で商売できなくしてやるからなっっ」
え?
この人勘違いしてる?
「えっと、ミアのお店はお祭り限定だから今日だけだよ?」
そう言うとアークトーク商会の人は目を見開いて驚いた。
「はぁ!? そんな高級な物を扱ってて祭りの出店だけだってのか!?」
「うん、そうだよ? 逆に聞くけどミアのお店を市場で見かけたことある?」
「……ない」
ちょっとだけ考え込んだアークトーク商会は今度はへらへらと笑いだした。
「なら、そのペンダントは今後うちで売ってやろう! 値つけはこちらに任せてもらうがお前には売上の1%をやる! どうだいい話だろう!! それがいい! 仲良くやろうじゃないか!!」
ハハハ……と勝手に話をして大笑いしだしたけれど…………
ミアが何か言う前に、こめかみに青筋をたてたディノががしっとアークトーク商会の髪を掴んだ。
「商業ギルドに伯父がいてそんなことさせるわけねぇだろ」と言ってゆさゆさと頭を揺さぶった。
スタットさんも「知らなくて当たり前ですがこちらはバイエル商会の商会長の妹君。商売ができなくなるのは、さて、どちらでしょうか」と笑ってるけど笑ってない笑顔で言った。
バイエル商会の名前を聞いた周りの人達は「バイエル商会ですって」「確かエルフ王室御用達の一流どころだ」「なるほどな、だからあのペンダントか……」とざわついた。
「バイエル商会だと!? くそっお前のせいでこんな目に! 覚えてろよっっ!!」
真っ青になりながらもアークトーク商会はまだうるさく喚く。
ひどいっ、自分が悪いのにミアのせいにした!
怒りでぷるぷると震えていると常連の冒険者さんが「2、3発殴ってもいいんだぜ?」と芋虫達を見てにやりとした。
「ミアが殴ってもあんまり痛くできない気がする」と返せば「ちげぇねぇな」と吹き出された。
むー、悔しい!
ミアの初めてのお店を邪魔した罰でお仕置きする!
えっと、こいつらには正座じゃ優しすぎるから、えっと、えっと、力はいらないやつでミアでも痛くできるやつ! それに人前に出るのが恥ずかしくなっちゃうやつにすれば昼間堂々と街中を歩けないよね!?
すっぽんぽんにしちゃう?
でも男の人だから恥ずかしくないかもしれないよね。
あ、そうだ!
前、みりあがテレビで見た罰ゲーム!
あれがいい!!
「(創造)激辛唐辛子!」
地面からにょきっとかわいい芽を出した植物はどんどん大きくなって、瞬く間に空に向かってつんつんとした実をつけた。
真っ赤な実がつやつやとして、見るだけならとってもかわいい!
芸人さんは緑のピーマンみたいなのをちょっとだけ齧って、すぐに「辛くて痛い!」と吐き出してたっけ。
「覚悟!」
ぶちっとちぎったそれを取り敢えず一番近くで芋虫になってるチンピラの鼻に突っ込んでやる。
「ふがっ」
鼻息で飛ばされないように、ぐりぐりっと奥まで押し込んでっと。
はい、ぶちっとちぎってもう1つの鼻の穴にも!
「ふががっ」
ぶちっ、次!
ぶちっ、次!
次から次へ、はい、じゃーんじゃん♪
みんなじわじわと顔が赤くなって頭から汗が吹き出して、目も真っ赤になってだばだばと涙を流してる。
詰まってる隙間から鼻水とくしゃみみたいなのもでて、ゴホゴホひゅーひゅーと喉から音がしてる。
最初は威勢よくミアに悪態をついていたけど、今はひぃひぃと息をするのが精一杯みたい。
効いてる、効いてる!
“辛い”と“辛い”は、同じ漢字だよって中学生のお姉さん教えてくれたっけ。
唐辛子をちぎったミアの手はちゃーんとしっかりクリーンをして、お仕置きは成功だなって眺めていたら、誰かが呼んでくれた衛兵さんが「騒ぎはここか!?」と駆けつけてくれてアークトークの人とチンピラは連れて行かれた。
ディノと常連さんは衛兵に言われてついていくみたい。
後でね、と二人を見送っていたらいつの間にかバイエル商会の従業員さんが何人も来ていて、てきぱきと乱れてしまった行列の整理や壊れたテーブルを直してくれていた。
「さ、お嬢様、続きをなさいませ」
スタットさんがそう言ってくれたから、うんっと大きく頷いて、「ペンダントは“お一人様一つ”で1つ銀貨3枚です」と並んでる人に大きな声で案内すれば、みんなパチパチと拍手をしてくれた。




